2012年9月15日、16日と中国で反日デモが行われた。青島市、長沙市などで暴動化したこともあり、注目を集めたが、本命は明日。9月18日、いわゆる「九一八」(柳条湖事件記念日)だ。
■中国はデモ抑制に転じたのか
さて明日はどのような展開になるのか。デモの呼びかけはいまだに続いている。
一方で、15日、16日のデモで暴徒化したことを受け、中国政府が抑制に転じたとの見方で日本メディアは一致しているようだ。
反日デモに催涙弾 中国当局、容認から抑制
15日に一部のデモ参加者が暴徒化したことから中国当局は警備態勢を強化。同省深センでは武装警察がデモ隊に催涙弾を発射するなど、当局もデモ容認から抑制に転じ始めている
と、例えばこんな感じ。が、それはちょっと違うのではないか、というのが私の感想だ。
確かに胡錦濤の支持母体・中国共産主義青年団の機関紙・中国青年報の「理性的に法に基づいて愛国の熱意を表現しよう」が各メディア、ポータルサイトに転載されており、当局も”暴力”的デモはやめましょうとの呼びかけを強化していることは間違いない。
また青島市や広州市では暴徒化デモの実行犯数人が拘束されたことも発表された。他にもレコードチャイナの記事「
<反日デモ>当局が反日デモ禁止を通達、違反者には刑事責任も―陝西省西安市」によると、反日デモが禁止されたという。
だが、これらはすべて「暴徒」に対するダメだしであって、デモ全体に対するダメだしではないことに注意しよう。記事「
【反日デモ】中国共産党は暴動をやめさせるのか?メディアから読み解く今後の展開(水彩画)」で、水彩画氏は2005年の反日デモではデモそのものを批判する社説がでたことが転機になったと指摘している。現在はその域には達していない。
レコードチャイナにいたっては翻訳ミスとでもいうべきもので、
原文にあたると「公安局の認可を受けていないデモは禁止」という原則論を繰り返したものに過ぎないことがよくわかる。
「中国当局は抑制に転じた」論は、デモが暴徒化したら困るのは中国だから引きしめるはず、政権交代前だから混乱は望んでいないはず、といった「中国報道の常識」に基づく推測にばかり基づいており、具体的な証拠はあまり挙がっていないのが実情だ。
■中国の動機と反日の終わり方
となると、どういう状況になると、中国が手仕舞いするのかが気になるところ。作家・安田峰俊さんはブログ記事「
今回の反日デモの黒幕についての考察まとめ」で、習近平黒幕説・胡錦濤黒幕説・薄熙来シンパ黒幕説を分析している。
安田さんの分析はなるほどと思うのだが、一つ欠けていると思われるのは「日本政府の尖閣買収に怒っている」という建て前の分析だ。
中共指導陣の間でどのような力学が働いてデモにゴーサインが出たのか、なぜデモ参加者が数万人というデモが発生したのか(私の素朴な観察によると、デモ隊の人数が警官の人数を上回ると問題が起きるように思う)、毛沢東の写真を手にした参加者がいたがそれも「上」の指示なのか、とか気になることはいっぱいある。
だが、表向きは日本に対する抗議という形であり、暴徒化デモの抑制に動いたとしても「反日愛国」の動きそのものはそう簡単には止まらないことも留意しておくべきだろう。一部では習近平への政権交代が終われば、あるいは中国共産党第18回全国代表大会(十八大)の開催日を正式決定する七中全会(20日開催とみられる)が終われば、反日デモは終わりだという指摘もあるようだが、デモを無理やり推進する原動力が消えたとしても、振り上げられた拳はそう簡単には下ろせない。
日本もなんらかの譲歩ができるわけではないことを考えると、2010年と同様、よく分からないままぼんやりと関係改善をはかっていくまで、反日は続くことになるだろう。時が経つにつれ、次第に盛り上がりが薄れていくとしても、だ。
■九一八
さて、反日の終わり方まで飛躍してしまったが、とりあえずは明日。デモの暴徒化が起きるかどうかは別として、デモそのものが起きることは間違いない。また「理性的なデモを」と呼びかける一方で、日本を批判しすべての罪は日本にあるとする「愛国無罪」モードの報道も消えていない以上、便乗するような犯罪も起きる可能性は高い。
反日モードの終わりを宣言するためには、胡錦濤やら習近平やらの偉い人がメッセージを発し、それを人民日報から順にピラミッド式にさまざまなメディアが報じて、中国社会のムードを変えるしかないのではないか、と思う。
まあ、どちらにせよ、「常識」で判断して、暴徒化デモの抑制に政府が転じた、などと早合点すると痛い目にあうことだけは間違いない。
関連記事:
今日の反日デモと気になるポイント=深圳が大変なことに―中国反日デモはミニ文革なのか?15日デモのまとめと「気になる」ポイント―中国【中国斜め読み】反日デモの発起人は交通警察隊長?!デモにまぎれて汚職官僚批判ほか(ujc)【尖閣】中国の「反日」がレベルアップ=デモ容認姿勢明らか、騒動拡大は必至か(水彩画)「日本の元AV女優が尖閣を中国領土と認めた」環球網の煽り記事が思わぬ失敗をしている件「尖閣は日本の領土」人民日報の大チョンボを紹介、大反響の中国ブログを全文訳してみた「中国旅行したい!」「尖閣行け」蒼井そらの中国マイクロブログが微妙炎上した件