■黒澤明が監督した日本映画「羅生門」のタイ版リメイク作品■
VIDEO アウトレイジ/The Outrage
日本映画の芥川龍之介の原作を黒澤明が監督した「羅生門」<1950年>のタイ版リメイク作品。若い僧侶(マーリオー・マオルー)と貧しい木こり(マム・チョクモク)が、パームアン・トンネル(洞窟?)へとやって来る。そこには醜い姿の葬儀人(ポンパン・ワチラバンチョン)がおり、僧侶と木こりは自分たちが見聞きした盗賊シン(ドーム・ヘトラクン)により名士(アナンダー・エバリンハム)が殺され、その妻(チューマン・ブンヤサック)が犯された事件の様子を語り出す…というストーリー。
場所的には話の舞台が「羅生門」が「パー・ムアン・トンネル」に変わっているが、ほぼ忠実に黒澤明の「羅生門」をタイ式に再現している。ただし、黒澤明の羅生門は、芥川龍之介の原作とは同じではない(映画の元になっているのは小説「藪の中」だが、小説「羅生門」の内容も取り入れている)。時代背景は、タイ北部に栄えたビルマ色の濃いラーンナー王朝となっている。細かい点をいうと、黒澤版「羅生門」では妻が持っていた短刀が本当の犯人探しのちょっとしたポイントとなっていたが、本作では短刀は登場するものの犯人とは関係がないものとなっている。また、黒澤版ではなかった僧侶が出家した理由の場面も描かれている。
あと違うところといえば、登場人物の重要度の比重であろうか?黒澤版での一番の主人公は、盗賊役の三船敏郎である。だが、本作では盗賊の乱暴な個性があまり発揮されていない。また、マーリオーの僧侶役は、残念ながら軽い感じを受けてしまい物足りない。黒澤版で僧侶役をやった千秋実にはかなわない。ただ、木こり(まき売り?)役のマム・チョクモクはさすがで、黒澤版の志村喬と味は違うが甲乙つけがたい好演である。名士の役はアナンダー・エバリンハムでいいのだが、黒澤版では縛られていた時に口をふさがれてはいなかったにもかかわらず、妻が目の前で犯されても一言も声を発しなかった黒澤版の森雅之の方がおもしろい。妻役のチューマン・ブンヤサックは色気があっていい。黒澤版の京マチ子は、時代設定が平安時代であったために顔がオカメになっていたので比べたらかわいそうだろう。
アナンダーとチューマンは、パンテーワノップ・テーワクン監督の前作「イターニティー(Eternity)」<2010年>と同じコンビだ。他にも「イターニティー」と同じメンバーが出演しており、作風、内容が似てなくもないのでもう少しメンバーを変えて欲しかった。そして、本作もエロティック的要素があることをにおわせているのだが、実際にはそれはほとんどない。「イターニティー」で見事なヌードを披露したチューマンも、犯されるシーンはあるが背中も見せてくれてはいない。
今作は、タイ風味を出していて黒澤版とは違った魅力がある。そして、こちらの方が内容がわかりやすいので見安い(黒澤版の方がより哲学的だ)。だが、映像の迫力は黒澤版の勝ちである。あの雨が降る羅生門のセットと映像はすごかった。盗賊と名士が戦うシーンも黒澤版の方がすごい。パンテーワノップ・テーワクン監督は脚本も担当している。
タイのエンターテイメント・サイトSiam Zoneのユーザー評価では、8.18点(満点は10点。投票数76。2012年9月現在)であった。興行収入はUS$864,782。第21回スパンナホン賞の衣装デザイン賞、特殊効果賞を受賞している。
パンテワノップ・テーワクン監督には、日本のAV女優西野翔が出演している「チャンダラー・パトムボット(Jandara)」<2012年>や「イターニティー(Eternity)」<2010年>、「クワーム・ラックマイ・ミー・チュー(Khwam Rak Mai Mi Chu)」<1990年>、「チャン・プーチャーイ・ナ・ヤ(Chan Phuchai Naya)」<1987年>、「チャーン・マン・チャン・マイ・ケー(Chang Man Chan Mai Khe)」<1986年>などの作品がある。英題は「非道」、原題は「パームアン・トンネル」と言う意味。 関連記事:
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