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今も続く「うわべだけの民主主義」=タイ立憲君主制の80年(ucci-h)

2012年10月02日

■立憲君主制80年タイの民主主義はどういう状況か?■

*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年10月2日付記事を、許可を得て転載したものです。


Thailand_2007-5656
Thailand_2007-5656 / Doxi

1932年6月24日のクーデターでタイの絶対君主制は倒れた。立憲君主制に移行してから80年がたった。この間、タイの社会はどう変わったのだろうか?民主主義は本当に定着したのだろうか?

タマサート大学の元学長である歴史学者のチャーンビット氏が、今年の6月、ポスト・トゥデイ紙に過去80年で何が変わり、何が変わらなかったかを分析したコラムを寄稿している。以下、ご紹介したい。


■タイ立憲君主制80年

1932年のクーデターを起こした「市民グループ」(といっても若手将校などが主役だったが)のマニフェストには以下のような点が挙げられていた。

1.政治的、司法的、経済的独立を維持する
2.犯罪を減らし、国内の治安を維持する(今、最南部を除けば、治安のいい国である)
3.経済発展を図り、政府はすべての市民の雇用を確保する(現在の失業率は1%以下)
4.市民はみな等しい権利を持つ(これは80年たっても言葉だけになっている)
5.市民に統合的な教育を与える(教育は行き渡っているが、質が問われている)

80年を振り返ると、タイの民主主義は、軍の専制、表面だけの民主主義、花開いた民主主義、資本家的民主主義と、形を変え、変遷を重ねてきた。チャーンビット氏は、タイの揺れて流れてきた民主主義を以下のように分析している。

過去80年、保守的な力が強く働き、社会の変化を押しとどめてきた。タイの民主主義は市民の権利や平等が達成されていない「うわべだけの民主主義」のままである。

過去10度変わった憲法のいずれにおいても、市民の権利は唄われているが、ダブル・スタンダードが現に存在しており、階層によって得られる権利は異なっている。国内の対立はしばしばだが、しかしその中身は変容している。今まではエリート同士の争いだったが、ここにきて草の根レベル的な闘争が出てきている(赤シャツ対黄シャツなど)。

以前の闘争はエリート同士の争いだったから、一般市民は傍観するだけだったが、今は、彼らも加わっている(その通りだが、赤シャツ隊の動きを見ていると、階級闘争というより、不満に目覚めた赤シャツサポーターを糧にしたタクシン派対民主党派といった依然エリート集団同士の争いにも見えるが……)。タイの有産階級はいつまでも金持ちで、無産階級はいつまでも這い上がれない構造は、累進課税や資産課税がないことにより維持されている。

もっとも、現在の赤シャツ隊の活動を見ていると、無産連中も今のままで甘んじていない動きが出てきている。舗装道路のない田舎にも今やインターネットを見られるわけで、無産階級=無知識階級とみなすと、いずれとんでもない目にあうだろう。

立憲君主制は、その名が示す形で、権力者にたくみに利用されがちである。2006年で軍によって作られた憲法は、多くの市民に受け入れられるものではなく、修正されるべきだろう。もうひとつ、不敬罪の規定と運用も変えるべきだ(政敵を陥れるために頻繁に使われるようになってきている)。共産主義の脅威が過去のものになった現在、不敬罪のレッテルが一番政敵を落とすのに、効きやすくなっている。英国など欧州の王国を見ても、タイほど厳格に適用している国はない。

社会の平等が成り立っていないとすれば、議会で政党がなぜこれを是正できないのか?議員は、選挙民の代表と言うより、その出身社会階層の代表となっているからである(これも旧来からの伝統か、タイではエリートが政治も行政も引っ張って行ってやらなければならないとの意識が非常に強い)。

現政権は、農民、無産階級が多い赤シャツ隊の代表と言えるわけでもない(タイ貢献党は赤シャツ隊の支援を得て議員を当選させたが、その政策が必ずしも低所得者のためとも見えない)。すでにきざしも見え始めたが、将来赤シャツ隊が、タクシン派を離れていくこともありえよう。タクシン派は必ずしも自分たちの利益のために政治をやっているわけではないと気づくかもしれない。

立憲君主制80年を経て、経済的には躍進してきたが、市民の権利、平等となると、いまだ浸透していないようだ。


■啐啄同時


私見ですが、国が経済的に発展している間は、階級闘争的な争いは大きくならないように思えます。低所得の人たちも施されるからです。いつかどこかで、経済的に行き詰まったとしたらそうも言っていられないでしょう。

雛が孵るのに「啐啄同時(そったくどうじ、卵の中のひな鳥が殻を破ろうとするのに合わせて親鳥が外から殻を破ること) 」と言う言葉があるが、タイの民主主義が根付くには、リーダー達の外からの改革と同時に国民の中からの意識の目覚めがなお必要なのだろう。

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*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年10月2日付記事を、許可を得て転載したものです。
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