週刊文春の記事「「中国で一番有名な日本人」の経歴詐称を告発する」について。
*フィナンシャルタイムズ中国語版の著者紹介
■文春記事
2012年10月30日、週刊文春WEBに記事「「中国で一番有名な日本人」加藤嘉一氏に経歴詐称疑惑」が掲載された。加藤氏は「東大に合格した」との内容を複数のメディアで公言していたが、取材の結果、合格していなかったことが判明したという内容。
10月31日発売の週刊文春本誌には3ページにわたる、より詳細な記事が掲載されている。著者は安田峰俊さん。その内容についてざっくり説明すると……
経歴詐称疑惑
・「東大を合格したが蹴った」という発言は事実ではない
・国費留学生だったというが、日中の著書で矛盾あり
・北京大学朝鮮半島研究センター所属と名乗っていたが、そうした研究所はない
・慶応大学SFC研究所上席研究員と名乗っていたが(略)
・小学3年生で柔道を習い全国大会で好成績を収めたと主張しているが、日中の著書で矛盾あり
発言内容について
・「中国で日本の悪口を言い、日本では中国の悪口を言う」@李小牧
・中国語書籍で、ダライ・ラマ政権(亡命チベット政権)への日本人支援者を「チベット独立分子」「日本右翼勢力」呼ばわり。
・中国語書籍で「「胡錦涛主席」の講話が体現する思想の深さに敬服しました」との一文
・中国語書籍で「中華文明は偉大であり、毛沢東は唯一無二の素晴らしい人物だ」
加藤嘉一育成計画
中国大手メディア幹部談:彼は中国によって育てられたと言っても過言ではない。2004年ごろ、中国共産党宣伝部と、胡錦濤傘下の共産主義青年団を中心に、国内外の世論工作を目的とした”中国を高く評価する”外国人の育成計画が成立……
といった内容。
■「東大蹴った」ネタは初期加藤人気形成の重要ポイントだった
タイトルにもなっている経歴詐称疑惑はウィキペディア(
日本語、
中国語)でも紹介されているので、そんなに目新しい話ではない。ただ、「東大に合格したが蹴った」という話がなぜこれほど注目されているのか、そして加藤さん自身も繰り返しこのネタを披露していたかという前提は抑えておくべきかもしれない。
加藤さんといえば「言語学者も驚くほどの外国語習得能力」「胡錦濤もコラムを読んでいる」などの自分の能力を誇る持ちネタで知られているが、この東大ネタは「東大に合格できるほどの力があった」とアピールすると同時に「それでも北京大を選んだ」と中国人の自尊心をくすぐるネタにもねっている。この一粒で二度おいしいネタだっただけに中国で何度か披露されたのであり、中国での加藤人気形成に一役かったポイントであった。
確かに「ハーバードにも受かってましたけど、東大に入りたかったんで日本きちゃいました」と、米国人文化人タレントとかに言われると日本人としては、うれしいような、くすぐったいような気持ちになれるのではないか。加藤さんの東大ネタはそのように中国人の琴線に触れるネタだったと記憶している。
■発言内容で評価すべし
閑話休題。個人的にはネットでもかなり噂されていた経歴の問題よりも発言、著作について取り上げた部分のほうがおもしろかった。ネットの中国クラスタを見ると、加藤さん推しとアンチ加藤さんと双方それなりの数がいそうなのだが、具体的な発言をめぐってバトっていることはほとんどない。
私はいまいち加藤さんを好きになれないのだが、「中国が発展すると、今みたいに(むちゃな)土地収用ができなくなって高速鉄道がひけなくなる。だから今のうちにばんばんひけ」(うろ覚え要約)とフィナンシャルタイムズ中国語版コラムで書いていたような、国家主義的な論調にどうものれないのが理由だったりする。
最後の育成計画。面白い話ではあるが、にわかには信じられないというのが本音。興味ある方はぜひ文春をごらんになって判断していただきたい。
余談:
あと加藤さんネタでこれだけは抑えておいて欲しいのはその「逆神」っぷり。劉志軍・鉄道相はスゴイ人!とほめたら汚職で解任、薄熙来はスゴイとほめたらこんなことに、2012年の中国は安定しますと書いた2週間後に王立軍事件勃発……などなど。誰か、こっちのほのぼのネタもまとめてくれたらいいのに。
追記:
中国語でも謝罪
【加藤嘉一・新浪微博】中国の友人たちへ:公開、非公開にかかわらず話してきた「東大をやめた、入学した、退学した」との発言はすべて事実ではありません。私の幼稚さと未成熟さ、傲慢と無知によるもの。みなさんに誤解と困惑を与えてしまったこと謝罪します。今後、信頼を得られるよう自らを変えていきます。みなさんのこれまでの支持、そして時に批判してくださったことに感謝します。今後ともご指導よろしくお願いします。http://www.weibo.com/1680902912/z33kAotkv#1351688455243関連記事:
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加藤氏はちょうど70~80年代の日本で流行った外国人の「日本人論」や外国人文化人タレントと似た役回りかもしれません。
今の中国も、70~80年代の日本も(背景事情は大いに異なりますが)、経済大国に成長すると同時にバッシングされてますが、そこで求められるのが「理解ある外国人」。
このニーズに加藤氏は上手くハマったのでしょう。「育成計画」についてはなんとも言えませんが少なくとも中国国民のニーズをうまく捉えた敏腕プロデューサー的存在が背後にいた事は確かでしょうね。
あと加藤氏の発言内容ですが、良くも悪くも北京のエリートの視点だなと感じていました。参考に出来る点は参考にしてきましたが、中国の地方都市に住んでいた自分としては違和感もありました。しかも最近はやっつけ仕事が目立ちます。
加藤氏もいずれは、過去の「日本人論」や外国人タレント同様消費された挙句消えていく気がします。