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2012年11月05日
Vietnam / Padmanaba01
■輝き消えた「アジアのトラ」
かねてから紹介してきたように、ベトナム経済は、2000年から2007年にかけての8年間は、平均7.6%という高い成長を示し“アジアのタイガー”と呼ばれた。ところが2009年以降は平均5%台の成長に落ち込み、成長する東南アジアの中では、「経済問題国」になってしまった。
経済成長率が落ち込んだだけでなく、社会主義国の国有企業の赤字拡大、銀行不良資産の増大、2桁のインフレ、貿易赤字の拡大、通貨ドンの下落といった構造的な問題に苦しむようになった。幸いというべきか。世界経済の不況に伴い、2011年平均18.7%まで高まったインフレ率も、ようやく一桁で落ち着いてきた(2012年10月は7.0%)。下落を続けた通貨ドンも、1ドル=20900ドンほどで落ち着いている。
人口構成等から見てなお高い経済成長の潜在力を持つベトナムだが、政治経済構造が柔軟性に欠けることから、その力を発揮できないで来た。平たく言えば、政治力、経済政策の不適格さから構造不振を招いたと言えよう。
もっと平たく言えば、社会主義的計画経済の悪い面が出てしまったと言えよう。市場の効率性が十分生かされてこなかった(関連記事)。
■グエン・タン・ズン首相への批判
というわけで、経済不振で問われるのは、ほぼ共産党独裁の政治体制であった。ことに、行政のトップである2006年就任のグエン・タン・ズン首相への批判が強まってきた。かつて中央銀行の総裁職にも就き、経済に明るいはずがうまく行かなかった。しかし、彼は2011年7月に再度5年の首相に再任された(現在62歳)。
そして、2012年10月1日には175人のメンバーから成る中央委員会が開かれ、会期も通常の倍の2週間と長く、グエン・タン・ズン首相は矢面に立たされることになった。しかし、ここでも彼は批判をしのいだようだ。続く500人の議員の集まる国会(一院制)では、インフレの収束を誇りつつ、経済運営の失政も認めたと言われる。
言論統制の厳しいベトナムからは、なかなか細かい経済政策の変化が聞こえてこない(ベトナム語でも読めれば別かもしれないが)。なので、変化の芽をなかなか見つけられない。このインフレの落ち着きを契機に、失政を糧に、2期目の首相が、赤字拡大の国有企業の改革、銀行の不良資産の処理、貧困層の減少にどういった手を打てるのか、ここ数年が注目される(関連記事)。
ベトナムの株価の方は、2012年1月の239ポイント(ホーチミン株価指数)を底に、5月の高値486ポイントまで、43%ほど上昇したが、その後、11月はじめには370ポイント近くまで反落している。8月の大手銀行総裁の逮捕など、経済敗戦の処理が、今は足を引っ張っている。ベトナムの株価は、企業業績に対し、割安になってきたようだが……。
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*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年11月5日付記事を、許可を得て転載したものです。