中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年11月08日
■十八大人事予想・まとまっていない直前まとめ編
本日から始まる第十八回党大会、そして続いて開かれる一中全会で向こう5年の指導者の顔ぶれが決まります。在外の各メディアが手持ちの「トップクラスに近い関係者によると」ソースを駆使して有象無象の予測を繰り出してくれました。特に領導関係者をソースに持たない拙ブログでは、それらを五月雨式に案内してきましたが、いよいよ釜の蓋が開く時を迎えるにあたり、それらの予測をまとめて最後の備忘録にしておきたいと思っています。
■予想その1:2012年9月中旬~多維新聞・ロイター通信ほか
習近平(党総書記)
李克強(国務院総理)
張徳江(全人代委員長)
王岐山(政協会議主席)
李源潮(中央書記処常務書記)
張高麗(国務院常務副総理)
劉雲山(中紀委書記)
《ソース》
ロイター通信(日本語)「中国指導部3氏、政治局常務委の候補者名簿で合意」
ニューヨークタイムズ(中文版)「王岐山未来可能不再掌管经济」
■ポイント
・北載河会議が終わった後で出てきた予想。
・江沢民、習近平と総書記を2代輩出し、失脚した陳良宇を除き常に常務委員に昇格してきた上海市党委書記。そのポストを務める俞正声が常務委員に昇格しないまま引退、というサプライズ予測。
・多維を嚆矢に、博訊なども独自情報筋からこの案を支持。大方のメディアが報道したと思われる(予測を変えた明鏡も含め)。そういう意味では予測の大本命。
・とはいえ、どのメディアも大前提として「釜の蓋が開くまではわからん」という姿勢を崩していない。この姿勢は十八大前日の今も変わらないけど。
・さらに十八大自体が開催延期したりと、ひっくり返る要素はてんこ盛り。案の定その後「引退した老人が文句つけてる」という説も散見される。死にかけてた江沢民は歌ったり題詞書いたり。
・個人的にはロイターが報じたように「江沢民・胡錦濤・習近平が合意した叩き台」程度のもので、既に原型を留めていないのでは、と考えております。
■予想その22012年10月下旬~明鏡発、香港メディア予測
習近平(党総書記)
李克強(国務院総理)
張徳江(全人代委員長)
俞正声(政協会議主席)
劉雲山(中央書記処書記)
張高麗(国務院常務副総理)
王岐山(中紀委書記)
《ソース》
■ポイント
・終盤の香港情報というのは、以前からも定評あり。十八大の会期発表から十七大の最終盤・七中全会の間で出てきた情報で、引退した爺さん達が活発に動き始めた時期と重なります。
・十七大で飛び級までして中央政治局に入った団派のエース格・李源潮と汪洋が常務委員に昇格できないという、まさに「胡錦濤大惨敗人事」。
・他のメディアに先駆けてこの情報を伝えた明鏡が、多維新聞と並び一躍チャイナウォッチ界のトップに躍り出るチャンスでもあります。博訊はオロオロしてたし。
・李源潮については意外や意外。昇格を逃してもまだ中央政治局には留任できるとはいえ、職務としては全人代か政協の副主席という実質左遷ポストくらいしかない?(※国家副主席という報道あり)
・「江沢民、胡錦濤、習近平が作ったリストを老害があーだこーだ言ってこうなりました」という流れで考えると、もっとも蓋然性が高い予想。「胡錦濤不利」という形勢が明らかに。
■予想その32012年11月~イギリス・フィナンシャルタイムズ(以下FT)紙が出した予測
習近平
李克強
王岐山
俞正声
張徳江
李源潮
汪洋
《ソース》
・「某トップクラスの領導と密接に連絡をとっている関係者」ソースという、日本マスコミ文法的には最大級ともとれる自信具合が興味を引かれる予測。その割にはタイトルが「霧に包まれた~」と自信なさげ。
・汪洋が常務委員に滑り込み、一方で宣伝部長の劉雲山が中央政治局を2期務めたにも関わらず昇格できず引退、という故・田紀雲パターンを踏襲するというもの。
・十七大で中央政治局に飛び級した汪洋と李源潮が揃って入局するという点で、胡錦濤の意向が最大限に反映されたといえる人事案。前2つが妥協の産物を匂わせるのに対し、これはいかにも団派から出てそうな希望的観測情報。
・FT紙がこの予測を出したのは、七中全会で中央軍事委員会の軍人事が出て来た頃。軍人事で胡錦濤優位=常務委員人事でも胡錦濤勝利や!という流れで出て来たのかもしれないけれど、軍人事が意味するところが「全体的に胡錦濤優位」の証左なのか、「常務委員で譲歩したことの調整人事」なのか、意見が分かれるところ。
・また一説によると、このタイミングで出たのは観測気球ではないか、という見立てもあり。FT紙の自信の割にはあまり支持されていない見立てであることは留意。
以上9月から現在に至るまでの3つの見立てをご紹介しましたが、これらを68歳未満の中央政治局委員ごとにまとめると、現状の予測はこのようになります。
《常務委員当確(既定路線)》
◎習近平◎李克強
《常務委員有力(どの予測でも共通して昇進と予測)》
◯王岐山◯張徳江
《当落線上(可変要素)》
△俞正声△劉雲山△張高麗△李源潮△汪洋
《脱落有力(どの予測でも無視)》
×劉延東
このようにするとお分かりかと思います。メディアが伝える「情報筋」は多々あれど、団派(劉雲山・李源潮・汪洋・劉延東)は後継総理の李克強以外、まだ誰も有力印を打たれていないという現実に。
薄煕来事件を奇貨として常務委員の定数を7名に削減することまでは順調に進んだものの、それ以降の胡錦濤は人事に関して主導権を全くとれていないことが、この流れからわかります。また5年前と同様に中央政治局人事で憂さを晴らそうとしている形跡もありますし。
こういった流れでみると、この数日で出てきた「十八大常務委員選出での差額選挙の導入」というフレーズが、劣勢に立たされている胡錦濤が習近平と手を組んで起こそうとした、いわば起死回生の秘策(表現盛ってみました)であると見当がつくのです。
「十八大差额选举更上层楼 常委名单“集体”敲定」(多維新聞)
「中国の胡主席と習副主席、新指導部選出で初の選挙実施提案=関係筋」(ロイター通信)
※中国共産党の選挙制度と差額選挙についての解説※(知ってる人は読み飛ばして下さい)
十八回目を迎える今回の党大会(通称"十八大")では、任期5年の中央委員ならびに中央候補委員が党大会代表による選挙で選ばれます。さらに続いて開かれる中央委員による全体会議(一中全会)にて、最高指導者層である中央政治局委員(現在24名)と常務委員(現在9名)が選出されます。しかし中央政治局以上のメンバー選出は、定員と候補者数を一致させるため、実際のところこの選挙は追認するための儀式でしかありません。
今回の「差額選挙」の注目点は、この中央政治局と常務委員の選出に関しても、定員数と候補者数に差額をつけようという動きです。中央政治局メンバーの差額選挙は北載河会議でも議題に挙がったと言われていますが(「政治局員選出、「差額選挙」で=落選者も出る方式-共産党大会・中国」(時事通信))、この数日、常務委員の選出にも差額選挙を適用しようという動きが相次いで報道されている現状なのです。
多維やドイツ国際放送によると、既に模擬選挙は今年の5月に実施されており、胡錦濤は結果に好感触を得ている模様。また習近平も自身の対外的なイメージアップに繋がるために実施を支持している模様。選挙となれば中央委員クラスでの人数的優位を誇る団派が有利なのは自明のため、李源潮などにとっては絶対優位と考えられます。
もちろん、老害が骨抜きにかかることも考えられますので、七中全会で実施が決まったという報道が出ているとはいえ、実施は未だ不透明。この「差額選挙」が思惑通り実施されるかどうかが、十八大人事最大の焦点になってきました。
そんなこんなで新常務委員が登場するのは、十八大終了直後の15日と予定されています。あと1週間のお祭りを楽しみたいと思います。
*本記事はブログ「The Useless Journal of CHINA」の2012年11月8日付記事を許可を得て転載したものです。