■中国のガンダムファン事情についてのまとめ■

ありがたいことに「中国ではガンダムAGEは結局どうだったのか?」と言う質問や、コチラの報道「まさかのガンダム無料配信に中国驚愕 「本物」の魅力で海賊版駆逐へ」に関しての質問をいただいております。また、「一度中国のガンダム事情をまとめてみては」というご指摘もいただいておりますので、今回はその辺りの事情についてなどを例によってイイカゲンにまとめさせていただきます。
■盛り上がらなかったガンダムAGE
まず「ガンダムAGE」とその無料動画配信とその結果に関してですが、中華圏全体での成否はちょっと分かりませんが、少なくとも中国本土に関しては大成功とはいかなかったようです。
バンダイは昔から中国本土の海賊版撲滅にも力を入れていますし、無料動画配信自体も全くの無駄ではなかったようなのですが、そもそもガンダムAGEの作品自体の人気が出なかったので……。AGEの人気に関しては日本でも微妙な所はありましたがそれでも話題にはなっていたかと思います。しかし中国ではそういった話題という面でもあまり良い状況では無かったですね。
そして人気が出ないということからファンサブ字幕を付けて放流しちゃう字幕組の活動もガンダムAGEに関してはいまいち盛り上がっていなかったようで、知り合いの中国オタクにこの辺の事情を聞いてみても「そもそも違法配信の需要が少なかったのでは」という意見が聞こえてきます。
またAGEとは反対に、「ガンダムSEED HDリマスター」の方はわりと頻繁に話題になっているそうです。パーフェクトストライクガンダムなどの追加改編や、思い出の名シーンになると、スレが立ったり伸びたりしていますが、こちらの方では相変わらずのファンサブ字幕天国となってしまっているようです。
■台湾・香港とは違う、中国本土のガンダムファン
こういったことになっている原因としては、やはり中国本土のガンダムファンの嗜好が、日本の感覚や、香港台湾の感覚とは少々異なっているというのも影響しているかと思われます。
中国本土のガンダムファンの特徴としては以下のようなものがあります。
「一番人気のあるガンダムはSEED、それ以外では08小隊やWの人気が比較的高い」
「初代ガンダムに関しては、知識としては理解し評価しているが思い入れはそこまで強くない」
「ガンダムは子供のモノではない、子供を卒業した人間が楽しむ価値のあるものと考えている」
(もちろん中には宇宙世紀最高!初代最高!ザク最高!といった日本のガンダムオタク顔負けな人もいます。ただ、そういう人はどうしてもマニアな層になってしまいます)
ガンダムは中国本土では正規ルートを通じてテレビで放映されたことは無いそうで(勝手に放映しちゃっていたというケースなんかが無いとは言い切れませんし、香港のテレビを受信しているというケースもあるにはあるのですが)、ガンダムの知識が本格的に知られるようになったのは90年代後半、具体的にはVCDの海賊版が出回り出した辺りからだそうです。
そのため、古い作品に関しては思い入れが薄く、またガンダムが中国本土で本格的な人気となったのはガンダムSEEDからなので、中国オタクの間ではガンダムSEEDに対する思いれが日本のガンダムファンにとっての初代ガンダムのような形になっています。
もちろん中国オタク内のガンダムファンの間では宇宙世紀系の作品などについても知られていますし、中国のガンダムファンの皆が皆ガンダムSEEDを全肯定しているわけではなく、批判される部分やダメな部分について理解していたり、ネタ扱いしていたりといった所も見受けられます。ただ、それでも多くの人にとってはSEEDが最初にハマったガンダムということで「嫌いになれない作品」「思い入れのある作品」といった扱いになっているのだとか。
また中国オタク内の宇宙世紀ファンが好きなのは現在の豊富な情報が揃った宇宙世紀であって、古い作品のMSやキャラに関しても評価してはいるものの、思い入れに関してはそれほどでは無いそうです。現に中国オタク内で人気が高い宇宙世紀系の作品08小隊やUCなどの比較的新しくて絵もキレイな作品ですね。
■ガンダムは子ども向けではない?
そういったことから、初代ガンダムを中心に持ってこられても、余程のマニアでもない限り中国のファンとしては諸手を挙げて喜ぶとはいかないそうです。
*伝説となったニセガンダムも実際には初代ガンダムをパクったデザインだったが、告知画像はこんなことに……。関連記事。
もちろん中国のガンダムファンもお台場に立ったリアルサイズガンダムや、日本の社会の色んなところに食い込んでいるガンダムについてはスゴイと感じてはいるようですし、「RX-78の歴史的意義」は十分に理解しているのですが「できればRX-78以外でやって欲しい」という思いもあるのだとか。
更にちょっとめんどくさいのが大陸のガンダムファンには「ガンダムは子供向けではない、子供向けを卒業した大人(自称)が見る価値の有る作品」と考えている人が多いということですね。
この辺の感覚については、中国本土ではある程度の年齢になってから海賊版やネットなどを通じてガンダムにハマった人が多く、子供の頃からガンダムに接していたわけではないというのも大きいようで、子供の頃からガンダムに接していて、ガンダムを大人「でも」楽しめる作品と捉えている人が多い日本の感覚とはかなり隔たりがあります。
そういったことから、子供向け(に思える)デザインや、ガンダムの扱いに関しては嬉しくないようで、例えばSDガンダムに関してもゲームなどにおける表現ならともかく、SDガンダム三国伝などの「人格を持ったSDガンダム」による独自展開というのには拒否感が出たりするようです。
これに対し、香港や台湾では昔からガンダムが知られていますし、テレビや漫画、ホビー雑誌などでもガンダムが扱われていて低年齢層まで普通にカバーしているのでSDガンダムなんかも受け入れられているようで、中国本土に比べればガンダムに対する感覚は日本に近いものになっている模様です。
こういった背景があるので、中国本土のガンダムファンの間ではAGEはキャラクターやガンダムのデザインなどからして既に「子供っぽい」と思われ、しかも日本のネットでもネガティブな情報が多かったことから、見る前に選択肢から除外する人もいたりしてかなり微妙なことになっていました。また本編の展開についても中国オタクの感覚ではイマイチ盛り上がりに欠けたこともあり、ファンやアンチな層も形成されないまま埋もれていってしまったようです。
中国本土でもガンダムの知名度は高く、ガンプラも趣味のコレクションアイテムとして人気が高いのは間違いありません。
ガンダムの中国本土への展開にはガンプラの販売という目的もあるのでしょうが、それでもガンダム関係で目立つのが初代ガンダムやAGEといった中国本土のファンの嗜好とはいまいち合わないものが多く、ちぐはぐなことになっているのは、イロイロともったいないと感じてしまうのが正直な所ですね。
以上、イイカゲンなモノになってしまいましたが何かのご参考にでもなれば幸いです。例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。
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by 山口 孝志