■「みかんぺー」と会話の流れについて■

mikan / みかん / Kanko*
■外国人にはどうしてもひっかかる「当たり前のやりとり」
セリフAを言われたらセリフBで返す・・・どの国にも決まった会話のパターンが存在していると思います。ところが、その国の人にとってごく当たり前に聞こえるそれらの会話は、外国人にとっては必ずしも自然に聞こえるとは限りません。実は、日本人が普通に使う会話のパターンの中でも、ロシア人が違和感を覚えるものがたくさんあります。(その逆もあるでしょうけれども、ロシア人の私にとってはちょっと気づきにくいです。)そして、今日はロシア人が違和感を覚える日本語の会話のパターンのうち一つ取り上げたいと思います。
■保健師さんとの不思議な会話
息子のゆうき(当時ゼロ歳の赤ちゃん)が日本の保育園に通っていたときのこと。ある日お迎えに行くと、保健師さんが出てきて、ゆうきが離乳食のみかんをいやがって食べなかったことを話してくれました。どうもゆうきはみかんをぺーして、大泣きしたそうです。舌を拭いてもらって(???)、水を飲ませてもらって、やっと泣き止んだとのことでした。
「そうですか、みかんあまり好きじゃないみたいですね~」と保健師さんの話を聞いてタチアナは言いました。その日そのまま家に帰りましたけれども、なんと次の日にもゆうきがみかんをぺーしたらしくて、保健師さんはまたまた私に同じ話をしてきました。タチアナはどう反応すればいいかよくわからない。二回も同じ話をわざわざしてきているということは、保健師さんは私に何かしてほしいのかもしれません。しかし、ゆうきはまだ赤ちゃん。「体にいいから食べてね」などの説得はまず不可能です。結局なんと対応すればいいかわからず「そうですか。やっぱり食べないんですか・・・」としどろもどろでした。
しかし、この話を3回目に聞かされたときは、さすがにタチアナはイライラしました。口にはしなかったのですが、「きらいだとわかっているんだから、最初からみかんなんか与えなくたっていいんじゃない」と内心思いました。
その後、パパと二人でお迎えに行く機会がありました。そして、なんと、その日も懲りずに(?)保健師さんはみかんの話をしてきました(タチアナにしてみればすでに4回目!)。でも、今回はパパと一緒。実は、日本で暮らしているとき、パパがそばにいるとタチアナは周りの人とはほとんどしゃべりません。全部パパが代表してしゃべります。外国人の私としゃべるよりも、日本人のパパとしゃべる方が、周りの皆さんは安心しているようです。だいたい質問してくるときも、みなさん私の顔を一切見ないでパパの方だけ見ています。なんだかお父さんと一緒にいる子供になった気分ですが、もともと仕事でしゃべることが多いタチアナにとって黙ってもいい状況はかえってうれしいです。しかも、4回目に聞かされるみかんの話となると、もう喜んでパパにお任せ。
■ 「すみません」のカルチャーショック
さて、保健師さんの話を聞き終えたパパのセリフは下記の通りでした。
「すみませんね~。うちの子は迷惑ばかりかけてしまって・・・」
そして、保健師さんは待ってましたとばかりに
「いえいえ、こちらは仕事ですし・・・」と話した上で、ゼロ歳児の好き嫌いの話を始めました。
こうして、みるみるうちに二人は意気投合!しどろもどろになっていたタチアナのときとは全然違う!!!あ~あ、日本人はやっぱり日本人に任せた方がいい、そう思ったタチアナでしたが、 それよりも私は大きなカルチャーショックを受けました。
こういうときも「すみません」の出番か???
しかし、日本人の皆さんにとってはパパのセリフは何の違和感もないはずです。つまり、この状況における「すみません」というセリフとは、このエントリーの冒頭に書いた日本語の「決まった会話のパターン」の一つだと思います。しかも、このセリフの登場でこの「みかんぺー」の話は見事にけじめがついたようです。先生はゆうきがみかんを食べないとあきらめ、私に何も言ってこなくなりました。
■「とりあえず謝る」ことを習う外国人の日本語学習者
「日本人は何があってもとりあえず謝るからあなたたちもそうしなさい」と、日本語を勉強している外国人は誰でも教えられるはずです。「人に迷惑をかけたらまず謝る」ということも必ず教えられます。しかし、実はその肝心な「人に迷惑をかけた」という感覚は外国人にとって必ずしもよくわからない。
「約束の時間に遅刻した」とか「人のものを壊してしまった」などの基本的な場面なら誰でもわかります。しかし、「赤ちゃんがみかんをぺーした」ことも「迷惑をかけた」部類に入るなんて、外国人にはまず思いつかないと思います。そして、タチアナもまさにそういう外国人の一人だから、3回も同じ場面に遭遇しておきながらも、「すみません」という言葉を一度も思いつきませんでした。
■ロシアでは子どものことで親が謝る必要はない
というのは、ロシアでは子供のことで親が謝ることはまずないからです。子供が悪さをしたら「ちゃんと謝りなさい」と相手の前で子供を叱り、「ごめんなさい」を本人の口から言わせます。そして、先ほどのみかんの話だったら、私が保育園で試みたように、子供の行動を合理的に説明してみるか、「もうちょっと大きくなったら食べようね」みたいなことを子供に向かって言うと思います。その場面で親の口から「すみません」が出たら、「あなたが謝ってどうするの」と相手が苦笑いし、それこそ会話がつまってしまいます。
こうして同じ場面でも、文化によって対応の仕方が変わってきます。やっぱり、外国語を勉強するとき、単語と文法を覚えただけでは不十分です。自分の気持ちを的確に伝えながらその国で一番自然な会話の流れを作ることができれば、初めて一人前だと言えると思います。
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*本記事はブログ「ロシア駐在日記」の2012年11月17日付記事(その1)(その2)を、許可を得て転載したものです。

の意味を理解していないだけでしょう。謝っている訳ではありません。
言葉が一対一の対応をしていると考える方が間違っているのではないでしょうか。