中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年11月26日
■これまでのあらすじ
今年5月に中国が導入した新版パスポートにはすごいトラップがしかけられていた。8ページ目ににちょろりと描かれている中国地図だが、南シナ海のほぼ全域を中国の領海だとアピールする領海線が書かれている。ベトナムが水面下で抗議していたが、進展なし。
これをフィナンシャルタイムズが報道したから、さあ大変。今まで動きがなかったフィリピンも外相が抗議のコメント。地図とは別に台湾の観光地の図案が描かれていたとして台湾も抗議。さらに南シナ海だけではなく中印係争地もごっそり中国のモノ扱いにしているとインドがクレーム、インド入国を申請する中国人にはインド側主張の地図付きのビザをべったりパスポートに貼り付けるというトンチで反撃にでた。
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■ベトナムが“実力行使”
さて、インドのオモシロ反撃に続いて、これまで水面下での抗議と交渉を続けていたベトナムが“実力行使”に出た。ベトナム紙Tuoi Treは出入国審査担当のTran Viet Huynh中佐のインタビューを掲載。新版パスポートにベトナムのビザを貼り付けては中国の主張を認めることになるとして、新版パスポートを保有する中国人に対しては「別紙貼り付け」という形でビザを発行することになると明かした。
23日付北京青年報は実際に別紙貼り付けという措置になった中国人の事例を伝えている。面白いのは一度はパスポート貼り付けのビザを発行された中国人旅行者がベトナムに到着後にそのビザを取り消され、また別に別紙貼り付けのビザを発行されたケースもあったこと。フィナンシャルタイムズのスクープ以来、どたばたと対策が決まったことを印象づけるエピソードと言えようか。
ともあれ中国様が新版パスポートに小ネタをはさんできたことによって、中国人旅行者もインドやベトナムなどの受け入れ先の国の職員も、余計な面倒がごっそり増えたことは間違いない。
■日本も「しゅうとめ的抗議」を展開すべし
インド、ベトナムが対応を見せた以上、フィリピンもなんらかの動きを見せる可能性は高い。担当者が残業をしなくてもすむような、適度な対応策になることを希望している。
さて、この新版パスポート騒ぎ、日本はどのように動くべきだろうか。前回記事で説明したとおり、日本の領有権主張と直接衝突する個所はないようだ。しかしながらこの新版パスポートに日本の入国許可印を押せば、「南シナ海と中印国境の領土主張について日本は中国支持です」ととられても仕方がない。
ブログ・中国という隣人は「せっかくベトナム、フィリピン、インドなどの周辺諸国と問題を共有できるというのに、抗議もしないというセンスの無さ」と日本政府を批判していますが、まさにそのとおり。インドやベトナムのような実質的な対処をするかは別にして、中国のやり口を批判するべきだろう。
残念ながら、もはや日本には一国で中国様に言うことを聞いてもらえるだけの国力はないが、それだけに複数の国を巻き込んで、中国に国際ルールを遵守するようこまめに動いていくことが必要となる。中国に相手されようがされまいが気にせず、くどくどとしゅうとめ的お小言を言い続け、中国様に怒られている他国を孤立させないよう振る舞うべきだ。
日中関係がどん底気味に落ち込んでいる今こそ、日本が動くチャンスとなる。なにせ今ならちょっとやそっとのことじゃ、これ以上関係が悪化しないのである意味気楽に小言が言えるのだから……。
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これはちょっと認識が甘いんじゃないですかね。
まだ日本人・日本企業受け入れ拒否、国交断絶、戦争がありますよ。今の情勢なら(っていうか国内世論の統一と安定化のためなら)中国政府はそれも辞さないと思いますね。
中国はとにかくどんなことでも外交カードに使ってくる国なんですから、「ちょっとやそっとのこと」の結果がどうなるかは考えないとダメですよ。尖閣国有化みたいに「見込み違い」ではもう許されない事態に突入してしまいますよ。