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2012年12月09日
私なんぞいちころで騙されてしまいそうだが、これが実際にあった話なので、たちが悪い。
2012年12月3日、上海市嘉定区の華夏銀行に数十人の人々が押し寄せ、「私たちの血と汗の金を返せ」「華夏銀行は私たちを騙した」などなどのプラカードを持って抗議した。銀行破綻?!と一瞬ひやっとする状況だが、その内情はもっと味わい深いものだった。4日付財新網、5日付財新網を主に参照した。
■他社の商品を全力で売る銀行員
事件の発端は2011年末にさかのぼる。
華夏銀行嘉定支行で高級フィナンシャルマネージャーとして働く濮婷婷さん。長いこと仕事の付き合いがあった、信託企業で働く張さんから4種の投資商品を紹介されたのだという。北京中鼎という会社が募集するもので、いずれも河南省の魏辰陽という商人がらみ。担保融資企業、マツダの販売店、アウディの販売店、娯楽施設(たぶんナイトクラブ)の4種類の投資プランだ。
どこらへんが好条件との判断になったのかは謎だが、濮婷婷さんはこれはいけると判断。自分や親戚、友人の資産を突っ込むのみならず、なんと銀行窓口に来たお客さんにまでこの商品を勧めていたのだという。華夏銀行の投資商品を買おうとした客に「こっちのほうが好条件よ」とまでオススメしていたというのだから罪が深い。
仕事中に他者の投資商品を売るなど背信行為もいいことだが、濮婷婷さんはこそこそやるどころか支店長にまで推薦。支店長の蒋黎も170万元(約2210万円)ほどぶちこんだばかりか、自分の妹やクライアントにも買わせていた。
支店長が買うならば間違いないべ、とこれが売り文句になり、投資商品を購入した客も少なくなかった。これが本当にもうかる投資商品ならば、職業倫理を投げ捨てて顧客の利益のために他社の商品を売る、ステキなマネージャーさんという美談になった可能性もゼロコンマで存在したかもしれないが、待っていたのは予定調和の結末だった。
2012年11月26日、濮婷婷さんは投資商品を購入したお客を集めて、「お金が返ってこないことになりました」と宣言。ついては弁護士を立てて争うので、みなさんも弁護士費用を分担してくださいと切り出したものだから、大変な事態となった。
この時点で濮婷婷さんはもう銀行を辞めていたとのこと。こっそり他社の商品を売っただけなので華夏銀行は関係ありませんとの主張なのだが、お客さんたちはそれでは収まらない。華夏銀行で売っていて、支店長も購入した優良商品だから購入したのだから。今さら「華夏銀行とは無関係」なんて筋が通らないと銀行前で抗議を展開した……というのが冒頭の場面だ。
■誰も責任をとらない
騒ぎが大きくなるにつれ、次第に面白い事実が明らかになっている。融資を受けた魏辰陽だが、自動車販売店を作る云々の投資計画は一切実行せず、別に流用していたことが明らかとなった。どこに金が流れたかは不明だが、警察はすでに魏辰陽の身柄をすでに拘束している。
この投資商品については、中発投資担保公司が投資担保業務を行っていたのだが、通常の投資失敗ではなく
明らかな詐欺事件だとして同社は賠償責任を放棄している。
華夏銀行は社員が勝手に売っていた他社商品で賠償責任はないと主張。蒋黎支店長も個人投資家として買って詐欺られただけと責任を回避。ばりばり投資商品を売りさばいた濮婷婷さんも応分の責任はとるが、上司も黙認状態だったし全責任は負えないとの意見。
というわけで、問題の投資商品を買った人のお金は消えてしまったのに、商品販売にかかわっていた人はみな被害者面して責任を取らないという、ちょっと困った状況となっている。
■悪意が希薄な理由
個人的にツボなのはこの事件、最初の時点では悪意が結構希薄な点である。いや、もちろんウソの投資計画で金集めした魏辰陽が一番悪い。が、彼にしても金だけ集めてどろんという職業詐欺師ではなく、負債を返せないのでやむなく金集めしたという状況のようだ。実際、事ここに及んでも逃亡せずにあっさり警察に逮捕されている。ウソの投資計画であっても今だけしのげれば後で返済は可能と思っていたのかもしれない。
華夏銀行、支店長、濮婷婷さん、投資担保企業といずれも抜けていたり、職業倫理的にいかんでしょというところは多々あれども、最初からはめてやろうという気配はあまり感じられない。銀行が違法に販売代行業務をすることを中国語で「飛単」というそうだが、この悪意の薄さは「飛単」が日常的行為だったためではないかとの印象を受ける。今回はたまたま問題になってしまったが、中国の銀行では仲良くなりさえすれば、思いもよらぬものを売ってもらえそうだ
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中国人どうしても平気で騙し合う、あいいれにくい国柄です。