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【追記】中国のインターネット実名制がこっそり大変そうな件について

2012年12月29日

中国ネット民が激怒しているらしい「インターネット実名制法案」があんまりひどくない件について。

China - Internet Cafe (网吧)
China - Internet Cafe (网吧) / eviltomthai


■追記

「中国ネット実名制で騒がれているけど、ネットプロバイダー加入時に実名確認しろ&違法情報を削除しろって条項だけでたいしてやばくね?」という主旨の記事を書いたところ、ツイッターでJia Guomingさんからご指摘をいただきました。

確かに面倒な条項が含まれているので、タイトルを「中国ネット民が激怒しているらしい「インターネット実名制法案」があんまりひどくない件について」から「中国のインターネット実名制がこっそり大変そうな件について」と改題します。



下記の記事で言いますと、

インターネットプロバイダーがユーザーにネット接続サービス、固定電話や携帯電話によるネット接続サービスを提供、または情報発信サービスを提供する際において、ユーザーとの契約、サービス提供の確認時にユーザーに本当の身分情報を提供するよう要求しなければならない

このさりげなく入っている「情報発信サービス」が問題であるとのこと。字義通り解釈すれば、マイクロブログ、SNS、ネット掲示板などのサービスを提供する事業者はユーザーの実名情報を確認する必要があるということになります。そんなことは不可能でしょうから、中小は潰れるしかないという結論に。「実名制で自由がなくなる!」というよりも「実名制の手間暇かけられなかったり、面倒さに負けてユーザーが逃げ出したサービスが潰れてしまう」危機のほうがありそうです。

ま、この想定も条文を字義通り解釈すれば、というのが前提。というのも昨年導入されたマイクロブログ実名制でも結局、電話番号登録だけで実名登録扱いになっていたり、あるいは登録しないままでもアカウントが機能していたりするようなので、結局うやむやに終わる可能性も大きそうじゃないか、と。

一番ダメージがでかそうなのは外資じゃないか、と。この法案で参入障壁がまた一団と高くなった気配。例えば先日、コミュニケーションアプリのLINEが中国版をリリースしましたが、どう対応するのかとかまじめに考えると疲れそうな予感。まあ実際に怒られてから考えればいいのかもしれません。


■ネット実名制?

2012年12月28日、全人代常務委員会は「ネット情報保護の強化に関する決定」を決議、同日より発効した。ただでさえ規制だらけの中国のネットなのにこれ以上、規制がくるのかよ、と中国ネット民は怒っているという。

私も中国政府許さまじ、との怒りを高め、批判記事を書くべく「ネット情報保護の強化に関する決定」を読んでみたのだが、そこでがっかり。というのも法律の条文を見る限り、そんなに問題があるようには見えないからだ。主に問題になっているのは全12条の第5条と第6条だ。

5:インターネットプロバイダーがユーザーの発信する情報の管理強化に努めるべきであり、法律が発信や送信を禁止する情報を発見した場合、ただちに情報の送信をストップし、削除などの対応をおこない、記録を保存して主管部局に報告しなければならない。

6:インターネットプロバイダーがユーザーにネット接続サービス、固定電話や携帯電話によるネット接続サービスを提供、または情報発信サービスを提供する際において、ユーザーとの契約、サービス提供の確認時にユーザーに本当の身分情報を提供するよう要求しなければならない。

この条項に加えて、「第11条の違反者には罰金」という規定を見て、大変なことになったと騒いでいるようだが、そんなに騒ぐような話には思えない。第6条はネットや携帯電話を契約する際にはユーザーの身分情報を確認しろという話。日本では当たり前の話だし、中国でのネット契約でも一部プリペイドカード契約などをのぞいては基本的にチェックされていたはずだ。昨年も携帯電話契約は完全実名制、プリペイドカード契約の場合でも身分情報を出せ云々といった話でもりあがっていたので、なにげに重複しているネタだったりする。

第5条は通信の秘密に関わるだけにもうちょっとセンシティブな話だが、これまで中国のウェブ事業者がやってきた自主検閲をやりなさいよという条項。今まで慣習でやってきたことに法律のお墨付きがついたというならそれはそれで大きなトピックだが、なにげに他の法律や通達にも違法条項の取り締まりについては規定があったように記憶しているのだが……。

つまりこの法律をもってなにかが劇的に変わるようには思えない。少なくとも今までは匿名でネットに情報を発信できていたのが、この法律でできなくなってしまう!的な変化はないように見える。危険で危ないことを発信すれば、これまで同様、おうちに警察がきて「ちょっと派出所で茶をしばいていけや」と連れ去られるし、ネット民たちはなるべくばれないようにさまざまなテクを開発するだろう。


■問題なのは法律よりも運用です

報道を見ていると、「中国がまたネット検閲を強化」という文脈が多いようだが(日経にいたっては「中国、SNSユーザー登録を実名に ネット規制強化」と書いているが、私が見た限り中にはSNSユーザー登録に関する条文はない。私が見落とししているか、日経が昨年のマイクロブログ実名制と混同しているかどちらかではないか私の目が節穴だったようです。上述追記を参照)、ほとんどの情報は「ネット接続業務やウェブサービスで得た個人情報を他人に売ってはいけません」的な話。

最近、中国では個人情報ダダ漏れ問題が話題となっており、一件あたり数百円といった価格で銀行口座番号やら身分証番号、携帯電話番号などさまざまな情報が売り買いされている。この問題に焦点を合わせての立法というイメージだ。

もちろんネット検閲強化にも関係する法案ではあるが、この法律でなにか現状が変わるようにはとても思えない。ネット検閲にかぎった問題ではないが、そもそも「酷い法律」が問題になることよりも、「法律があってもなくても酷い運用をされること」こそが中国の問題である。

中国のネット検閲回避にはVPNといわれるサービスが用いられることが多いが、先日、山東省のある都市で「VPNでツイッターやフェースブックにアクセスするのは禁止。VPNを使用したい場合は申請せよ」との警察通達があったという。VPNは一般ユーザーだけではなく、会社が業務の秘密を守るためにも使用しているのだが、法律でもない地方警察の通達一発で使用禁止にされてしまったという次第。

ネットの自由はもちろん重要だと思うし、中国のネット検閲の現状はよろしくないとは思っているのだが、中国ネット民もそして日本を含む海外メディアも騒ぐところを間違えてるのでは、と思った次第。

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