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渋滞と家計債務悪化を招くタイ貢献党のポピュリズム政策(ucci-h)

2012年12月30日

■予想を超える自動車の売れ行きはタイ人の借金を大いに増やす■

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■自動車税還付は大人気

インラック・タイ貢献党の二つの内需刺激政策、(1)住宅初回購入者への所得税減税と、(2)自動車初回購入者への物品税還付。残念ながら住宅の初回購入者優遇の方はあまり用いられていない。計画の200億バーツ融資額のうち、利用は100億バーツにしかとどまる見通し。というのも所得税を払っていない低所得者層には所得税減税のメリットがないからだ。

一方、自動車税還付は予想を大きく上回り、年内に120万人近くに利用される見通し。国庫の負担は840億バーツ(1台あたり約7万バーツ税金が戻ってくる)ほどに上ることになる。国民一人当たりの負担は平均1200バーツ強となる。

2012年の自動車国内販売は、この政策により、145万台ほどには届きそうである。国内自動車購入のうち83%もが、この制度を利用して行なわれたことになる。前年比80%の国内販売の大幅増加は、税還付の刺激によるところが極めて大きい。

主にバンコクの若年層をターゲットとしたこのタイ貢献党の政策は、民主党の基盤の首都圏での人気をとるという意味では思惑通りに行ったのかもしれない。来年にはバンコク知事の公選が待っているが追い風として多いに期待できそうだ。



■副作用も明らか

国内需要が旺盛なだけではなく、輸出も100万台突破の105万台を記録。結果、2012年のタイの自動車生産は250万台にまで大きく伸びる見通しだ。

めでたいことだが弊害もある。バンコクのみならず、このチェンマイの街にも渋滞が増えることになりそうだ。税還付は今年で終わっても納車は来年にまでずれこむというので、渋滞悪化は今後しばらく悪化が続く。ドライバーにとっては頭の痛いことである。もともと渋滞の激しいバンコクでは、90年代の「Confort」(トイレ携帯袋)の利用がはやると言われている。車は増やせても道路は増やせない。

減税による歳入減は、自動車会社の増益による法人所得税の増加、販売増による付加価値税の増収、さらには内需拡大による増税効果で補われると政府は強気だ。だが交通渋滞には一切注意していないようだ。

バンコクの道路は160万台の車をさばけると見られているが、実際には680万台が走っているという。今年、新車が40万台ほど加わるとさらに悪化することになる。


■家計債務の悪化も

問題は渋滞だけではない。住宅、自動車というビッグ・チケット商品の購入で、タイ人の借り入れ残が大きく増えていることも間違いないだろう。いくら減税があるといっても、家や車、その他の耐久消費財を買うには借金が必要だ。

「NESDB」(国立経済社会開発庁)によると、2012年、個人債務が毎月増加しているという。9月末で2兆7400億バーツ。前年同期に比べ、20.4%も増えている。住宅ローンは10.3%増。自動車ローンはなんと33.6%増を記録している。その他の個人ローンも30.3%増。個人の担保のないローンはも15.1%増、クレジット・カードのローンは9.6%増を記録した。


■返済滞納の増加

ローンの拡大に伴い、個人ローンの3ヶ月以上の滞納が、37.8%増の73.8億バーツへと増えている。クレジット・カードの滞納も、11.1%増の53.9億バーツだそうである。滞納率は、それぞれ3.0%、2.4%を数える。

金融機関側から見れば、個人の不良ローンは565億バーツで、25.1%増となっている。今年の自動車購入には、収入の少ない若年層が無理してローンを組み買ったものが多いと思われる。来年になると自動車ローンの支払い滞納が例年以上に増えてくるだろう。

車を持てば、維持費もばかにならない。今回の制度では、5年間は売れないことになっているので、いつものごとくダメなら転売と言うわけにもおいそれと行かない。仕方なく手放し、物品税還付にありつけないケースが増えてくるだろう。借金取立てサービス会社の「JMTネットワーク社」は、来年は100万台強購入者の2割ほどが不良貸付に転化するとみて、ビジネスチャンスだと手ぐすね引いて待っている。

タイ人家計の平均貯蓄率は、GDP(2011年10.5兆バーツ)の7.8%(8200億ばーつほど)と、アセアン平均の10%強に比べ低い。あくまで平均の話だから貯蓄率ゼロないしマイナスの家計も多いはずだ。

国民一人当たり1200バーツ、総計840億バーツもの税収を減らして、車に手が届かない人たちに車を買わせてやる。経済全体には刺激効果があろうが、道路渋滞、燃料消費増、そして国と購入者の借金増など副作用が多すぎる。

フリーランスの編集者であるワサン氏は、12月21日付のバンコク・ポスト紙のオピニオン欄でこう警告した。「海外の専門家は言っている。840億バーツの税収があれば、バンコクのブルー・ライン伸長の499億バーツ、オレンジ・ラインの伸長550億バーツやもうひとつのスワナプーム空港の建設、高速鉄道の建設ができるというものだ。国内の交通網の発展を図るなら、その方がよほど効果的だろう」と。

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*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年12月23日付記事を、許可を得て転載したものです。

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 コメント一覧 (1)

    • 1. 伝説龍ラッシュ
    • 2013年05月08日 00:41
    • pcばかりいじってないで、勉強でもしとけ。怠慢はれるツラしてんのかコラァ。

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