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ポピュリスト的ばらまき政策で批判の多いインラック政権の経済政策だが、財政面でどのくらい負担になっているのか調べてみた。
■コメ抵当スキーム
一番、財政面でも負担の多いのは、政府がコメ価格を最低保障する「コメ抵当スキーム」だ。批判が多い政策だが、2012年10月より2年目に突入した。
1年目は1805万トン(籾量)のコメが納められた。農家への支払い価格(平均15600バーツほど)から市場価格(平均10500バーツほど)を引くと、トン当たり5100バーツ。総額920億バーツ、国民一人当たり1370バーツの出費となる。
もっともこれは倉庫に貯め込んだコメを劣化、低価格処分せずに処理できたとしての話。在庫負担費用や今後の損失も考えると、税負担は1000億バーツを超えるのではないか。
■法人税引き下げ
次に大きいのが、これはポピュリスト政策ではないが、法人所得税の引き下げだ。従来の30%の法人税率は、2012年7月より23%に、そして2013年1月より20%に引き下げられた。法人税収入は約5440億バーツ(2012年9月度推定)。タイの税収(1兆6200億バーツ)の3分の1を占めている。なお最大の歳入は付加価値税の6280億バーツ。
減税初年度は法人税歳入が5.2%のマイナスとなった。減税がなければ4%ほど税収が伸びていたはずだが、減収分525億バーツを引いて、差し引き300億バーツほどの税収減となったもようだ。
1月からは税率がまた下がる。さらに500億バーツほどの税収減となりそうなので、企業収益がよほど伸びない限り、法人税収入は減少するのではないか。
■初回自動車購入者への還付金
第3に初回自動車購入者への税還付だ。これは、2012年一杯で終わったようだが、予定の50万台を大きく超える130万台の需要があったようだ(おかげで道路は渋滞、渋滞)。
1台当たり平均7万バーツの税収減(この物品税免除は、翌年の所得税還付の形で行なわれる)として、還付金の合計は910億バーツに達する。計画の300億バーツの3倍だ。
もっとも車を5年間保有し続けなければ税還付は適用されないので、実際には100万台、700億バーツ程度の負担に収まるのではないか。タイ国民一人当たり1050バーツの負担になる。
またこの自動車物品税還付制度は自動車需要の先食いでもある。2012年は150万台という爆発的な売り上げを記録したが、還付がなければ売り上げは100万台程度だったはず。先食いした分の50万台は今後3年ほどかけて吸収されていくので、その分売り上げが落ち込む可能性がある。
■公務員初任給引き上げ、ディーゼル油減税、水害対策費
その他にも、公務員の初任給引き上げ(+400億バーツ)や、ディーゼル油減税(100億バーツ)など、負担は多い。さらに、オフ・バジェットだが、水害対策費3500億バーツが認められている(まだ10億バーツしか支出されていないとも言われるが)。そして今後数年で2兆バーツものインフラ投資が計画されている。
こういった刺激策の追加支出は、2012年9月期が6250億バーツ(税収の3.9%)と膨らんだ。2013、2014年度も年2000億バーツ以上の支出になりそうだ。
また、まだ報道は少ないが、公的年金制度の拡充も待ったなしの課題である。その財政負担が問題だが、まだ議論は始まっていない。
■所得減税
さらに昨年末に所得減税も決まった。2012年12月18日、タイ政府は個人所得税の減税を決定。
タックス・ブラケットを4つから7つに増やす中で、最高税率37%を35%に下げ、また課税所得額100~200万バーツや50~75万バーツ、15~30万バーツ層の税率を5%分下げている。また、配偶者の所得税分納も今回から認められた。
タイで所得税を納めているのは約230万人、全労働人口の6%に過ぎない。月収2万~2.5万バーツ程度の一般的な労働者は課税最低基準に届かないのだ。よって個人所得税を払っているのはみな高所得者。減税は、高所得者減税と言える。
■タイの財政は大丈夫か?
ポピュリスト的政策による税負担の拡大に加え、法人税、個人所得税の減税。景気にはプラスで、日本などから見ればうらやましい話だが、これに公共投資の拡大が加わっていくと、いまや青信号から黄信号に変わったタイの財政事情は、今後たちまち赤信号になりかねない。
為政者は、選挙の票に結びつくばら撒き政策に走りがちだ。景気の拡大により、財政悪化は止められると言うのが減税、財政支出拡大の言い訳だが、はたしてどこまでカバーできるのだろうか。
今後数年、タイの財政事情から目が離せなくなってきた。いずれ近いうちに、付加価値税率も現在の7%から上がっていくのだろう。タイでの暮らしが、バーツ為替アップ、物価アップ、付加価値税アップで次第に暮らしにくくなっていきそうだ。
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*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2013年1月7日付記事を、許可を得て転載したものです。