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ルールを守った専制政治を!日本メディアが誤読している南方週末事件の本当の“面白さ”

2013年01月07日

■ルールを守った専制政治を!日本メディアが誤読している南方週末事件の本当の“面白さ”■


中国紙・南方週末の新年号の社説が書き換えられた事件が話題となっている。 日本でもマスコミ各紙が報道。まるで新聞検閲制度の廃止を求めて中国の大手新聞が声をあげたかのような描き方をしているところまであるが、実際はもうちょっと地に足がついた、地味に面白い話なのでご紹介したい。


■南方報業メディア集団の伝説

南方週末を発行する南方報業メディア集団は中国を代表する改革派メディアグループとして人気が高い。また挑発的と言っても過言ではない、政府をおちょくるパフォーマンスも伝説となっている。

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*おちょくり例1:新聞の挿絵で、天安門事件の有名な1シーン。戦車の前に立ちはだかる男、タンクマンをぶっこんでみた。

20130107_写真_中国_検閲_
*おちょくり例2:劉暁波のノーベル平和賞に合わせて、空席の椅子と鶴と掌の写真を掲載。実はこれが謎かけになっていて解明するとノーベル平和賞になるという次第。報道を禁じられたなかで、こっそり祝ってみた。謎かけの詳細はこちらを参照。

20130107_写真_中国_検閲_2
*おちょくり例3:2009年のオバマ訪中。さすが米国、中国のリベラル派に訴えようと新華社でも人民日報でもなく、南方週末の独占インタビューを受けたが、中国当局が記事掲載を差し止め。南方週末は掲載予定だった部分を空白にすることで抗議の意を示した。ちなみにこの後、南方週末の編集長はクビに。

なお、このあたりの話については福島香織『中国のマスゴミ』の第4章「巧みにしなやかに抵抗せよ」に詳しい。


■ざっくりとした経緯

伝説の新たな1ページに加わりそうなのが2013年新年号の騒ぎだ。日本語ではNHK NEWS WEBの記事「中国紙記事書き換え 抗議活動」が一番よくまとまっている。中国語では、ステキなことにまとめサイトが出来てきて、「一分钟了解南周新年致词事件发展过程」(1分で分かる南方週末新年挨拶事件の経過)というページがあるのでこちらがオススメ。

簡単にまとめると、

・1月3日に南方週末新年号が発売される。
・同日、南方週末編集部という署名の公開書簡がネットに流通。記事が検閲を通過した後に書き換えられたことに抗議。その後もネットで抗議文の公表が続く。
・6日、南方週末の公式マイクロブログで「読者に告ぐ」と題し、新年号は南方週末の担当者が書いたものであり、ネットの噂は事実ではないと発表。
・同日、これに反発した南方週末関係者がストライキを宣言。
・7日、広州市の南方週末本社、北京市の支社に支援者が集まり、献花やメッセージボードで南方週末支援を訴える(写真まとめ)。

20130107_写真_中国_検閲_4


■書き換えられたことが問題ではない

とまあ、これだけの事件なのである。

で、大事なことは「検閲を通過した後に書き換えられたことに抗議」という部分。何も検閲され、書き換えられたこと自体に抗議しているのではない。なんか日本語の関連報道を読むと、南方週末が検閲そのものに反旗を翻したかのように読めてしまうのだが、それは明らかな間違いだ。

南方週末編集部による第一の公開書簡は「南方週末のすべての紙面が(編集長、デスクの)サインを経て決定。デスク、記者が休暇に入りまったく事情が知らない情況で、広東省共産党委員会宣伝部の関係者の指示の下、新年号は多くの修正、記事の撤回がなされた」ことを問題としている。

南方週末記者・方可成氏の新年号出版過程についての記事に詳しいが、1月1日未明時点で新年号の編集作業は終了。5人のデスク全員がサインして作業は終了となった。あとは皆さん帰宅して元旦の休暇という流れ。

ところが1月1日夕方に黄灿編集長、伍小峰常務副編集長が省共産党宣伝部に呼び出され修正を指示される。でもって、編集部の中でも“体制側”に属するこの2人が他のデスクを召喚することなしに、しこしこ紙面を修正して刊行されたという寸法だ。

検閲といってもなにもお上の鶴の一声で決まるわけではなく、何を削って何を乗せるのかぎりぎりの交渉で決まるという。今回の新年号についても丁々発止のやりとりが続き、1月1日の未明までかかってやっとこさ最終稿が決定。編集長とデスクがサインしたのに、奇襲的な書き換えはいかがなものかと怒りが爆発したわけだ。


■ルールを守った専制政治を

南方週末を支援する中国ネット民は「南方週末断固支持!新聞検閲はぶっ潰せ!」と叫んでいる。それに釣られてか、日本のマスコミも検閲そのものが問題になっているかのような、ミスリーディングの報道になっているように思う。

まあ、確かに「中国のネット検閲に反抗する勇者が立ち上がった」ならば記事になっても、「検閲するにしてもルールがあるだろ!ルールを守って検閲しろ」だとちょっと盛り上がりにかけるかもしれない。

だが、本当に面白いのは、意義があるのは「ルールを守って検閲しろ」「専制するにしても手続きは守ってください」ではないだろうか。もし今の中国で本気で検閲廃止を叫んだとしても中国共産党がそれに従う可能性はゼロだろう。無視されるか、捕まるかは当局の胸一つだ。

だが「ルールを守って検閲しろ」「専制するにしても手続きは守ってください」だったらどうだろうか?特に今回の件で微妙なのは修正前の記事がそこまでチャレンジングなものではないという点。別に検閲の手を入れずに流していても、中国共産党的にはそんなに困らなさそうなのである。

しかも今の中国のトップは、「政治改革やる気満々でっせ」と下々に売り込みたい習近平総書記だ。ここで南方週末の方を持てば、リベラルなネット民の評価はうなぎのぼりとなるだろう。というわけで、南方週末側にかなり勝ち目があるんじゃないかと踏んでいたのだが、中国ネット民や外国メディアの「検閲制度に反旗を翻した南方週末」という見立ての勢いが激しすぎて、当初の構図が崩れつつあるような印象もある。

というわけで、地に足着いたところで激しく面白いこの話題、報道されているような派手な話ではないにせよ、専制の枠内で地味に権利を確保できるかどうかという闘争として、興味を持ってみている。

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 コメント一覧 (4)

    • 1. は?
    • 2013年01月07日 22:09
    • >書き換えられたことが問題ではない
      本当にお前って頭悪いな。酷い人民脳。
      検閲とそれに対する抗議。何も間違ってない。つか、抗議してる奴らは(そこそこの)インテリなんだろうから、「ルールにおける手続き」の意味くらい分かってるだろう。分かってない(間違っている)のは「お前」なんじゃないの?余り馬鹿を晒すなよ。
    • 2. 、
    • 2013年01月08日 09:45
    • 自分の一個前にコメント付けてる人、指摘するにしても見下した書き方だとただの荒らしにしか見えませんよ。
    • 3. 百元籠羊
    • 2013年01月08日 12:08
    • この事件、事件そのもの以外に個人的にはまとめサイト的なモノの活用が微妙に中国のネットで復活しつつあるように見える点も個人的には面白いなーと思ってしまいます。
      中国のネットはまとめサイトや事件関係のwiki作成が難しい状況が続いている、習慣が普及しないといった状態が続いていますし。

      もっともbloggerの方なので昔のfc2のようなことになる可能性もありますが……
      この件に関するニュース、中国国内のネット環境でどういう風にアクセスできるのかとかも気になってしまいますね。
    • 4. Chinanews
    • 2013年01月08日 23:46
    • >百元さん

      コメントありがとうございます。
      なるほど、まとめサイト的なものの活用という観点は面白いかも。実は政治絡みのネタでは中国ジャスミン革命以来、ネット話題まとめブログというものが結構でてきて情報収集に重宝させていただいています。今回の一件ではジャーナリストの方がかかわっているのでまとめのレベルも高いのかも。

      質の高いまとめサイトが増えると楽ができるのに……などと思っていたりw

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