中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
Anime Expo 2011 - Vegeta from Dragonball Z / Pop Culture Geek
■中国のアニソンイベント
昨年の暴動以降、中国国内で日本のアーティストを呼んでのイベントを開催するのが非常に難しくなっていますが、今回はそんな中国のイベント事情についての話で一つやらせていただきます。正直な所、状況が良くなるのを待っていたらいつ書けるか分からない話なのでいっそ今のうちに書いてしまおうかと……。
さて、本題に。中国に日本のアニソンが広まりオタク趣味の一ジャンルまでになっている今日この頃、アーティスト単体でのイベントから、結局中止となってしまいましたが昨年のアニサマ上海のような大型なものまで、中国でもアニソンイベントの需要がかなり出ていました。
しかしそんなアニソンイベントで「なにを歌うか」というのが案外難しい話になっています。
このブログでも何度か書かせていただきましたが、中国で人気になった作品や好みの傾向には日本と異なる部分もありますし、「アニソンが人気になった作品」に関しても日本とは違います。言ってしまえば、人気のアニソン、アニソンの定番曲が違うわけですね。
■観客大合唱が前提
それに加えて中国のアニソンコンサートの特徴として「観客も一緒に歌って盛り上がるというスタイルが一般的」というのがありまして、歌われるのが観客のよく知っている曲かどうかが日本よりも盛り上がりに直結するような所があります。
そんな訳で、中国のアニソンイベントでは一部の人だけが知っている、マニアだけが知っているような曲が選曲されてしまうと微妙な空気になったり、サプライズや事前予告無しで観客のよく知らない歌が流れると反応できないことが少なくないという話です。
もちろん、アニソンもカバーするレベルのオタクをやっている層は知識としてはきっちり把握していることも多く、余裕さえあれば思い出したり調べたり理解したりはできるそうです。ただ、イベントでとっさに反応して盛り上がることは少々難しいという曲がわりと多いわけでして……
そもそも、いくら日本のアニソンが中国現地で知られている、中国オタクの間でアニソンのカラオケが楽しまれるようになっているとはいえ、アニソンファンというのはマニア寄りな層になりますし、そんな現地のアニソンファンの間で知られているアニソンの幅は日本より狭いわけですしね。
そしてそういった現地でよく知られているアニソンに関してですが、定番となっているような歌に関しては日本の一般的な感覚との違いが特に大きくなっています。
■テレビ放送があったかどうかで勝負が決まる
中国で定番になっているアニソンは中国のテレビでまだ日本のアニメが普通に放映されていた頃の作品のものであることが多いのですが、当時中国に伝わった日本のアニメは日本で人気になった作品の一部でしかありません。
そのため中国で放映されていなかった作品のアニソンというのは、中国オタクの間では定番曲とはなっていません。知識として押さえていたりはするようですが、イベントで大いに盛り上がることのできる曲とはなっていないようです。
■名作アニメ「ドラゴンボール」、中国での認知度は微妙なんです
例えばこれはあくまで私の印象によるものですが、日本で比較的よく勘違いされているように感じるのは「ドラゴンボール」に関してでしょうか。中国本土でももちろんドラゴンボールは名作として大人気なのですが、当時は主に海賊版の漫画経由で人気になり、テレビアニメに関しては無印が短期間放映されただけで「Z」は放映されていません。
ですから無印の「摩訶不思議アドベンチャー」も知名度的に微妙な所がありますし、「ドラゴンボールZ」の主題歌「CHA-LA HEAD-CHA-LA」に至っては思い入れのある中国オタクはほとんど存在せず、イベントで歌ったとしてもあんまり盛り上がることができないそうです。
■最近のアニメの主題歌は覚えられていない
また「昔中国本土のテレビで放映されなかった作品」以外に、中国と日本で定番についての認識の違いが出易いのが「比較的最近の作品のアニソン」ですね。
最近のアニメ作品に関しては、中国では主にネット経由やちょっと前になると海賊版のVCDやDVD経由で見られていたことから見るときに「飛ばされる」ことが多く、また日本のようなCMなどによる刷り込みも行われないことから、アニソンがあまり記憶に残らないようです。
更に最近の作品はタイアップもあってか頻繁に曲が変わるというのも難しいところらしく、「NARUTO」なんかはまさにそういった理由で主題歌があまり耳に残っていないのだとか。
逆に動画サイトで人気になったりネタになったりした曲は中国オタク的には「押さえておくべき」だと考えられているらしく比較的印象に残るようです。「武装錬金」の「真っ赤な誓い」はまさにそれですし、「とある科学の超電磁砲」の「only my railgun」なども動画サイトの影響が大きいそうです。
あとアニソンからはちょっと外れるかもしれませんが、ボーカロイド系の曲が中国のオタク系のイベントで人気があり、よく歌われるのはこの辺りも理由になっていますね。
■ワンピースの主題歌が中国で受けない
とても大雑把な話になりますが中国のアニソンファンにとっての定番は、一昔前(ネットの普及以前~普及の黎明期)に中国で人気になったアニメの主題歌、最近の作品で作中のストーリーやキャラと強烈に結びついている主題歌、ネタとして中国オタク内で人気になったことのある歌といった辺りになっている模様です。
そんな訳で最近の日本のアニソン定番曲の中で例えば「ONE PIECE」の「ウィーアー!」なども実は選曲としては微妙な所があるそうです。
私もこの話を聞いてかなり意外だったのですが、中国での「ONE PIECE」の人気は比較的最近のもので、しかもテレビでの放映が中心となって広まった人気ではないことから、イベントで主題歌にとっさに反応できる、盛り上がることのできる観客がそこまで多くないそうです。
これが例えば昨年行われたような中国の日本人会系のイベントで、日本人のお客さんが多いとかなら問題ないようなのですが、中国のオタク層向けに、事前予告無しにおもむろに歌い始めたりといったことになるとちょっと厳しい所があるそうです。もちろん全くウケないわけではないと思いますが、日本のようにすぐに良い反応が返ってくる可能性もそんなにないのだとか。
■ロボットアニメの難しさ
逆に最近の作品で中国オタク内で強いのは「マクロスF」関係の歌でしょうか。実際、アーティストのMay'nさんの中国でのコンサートは非常に良い反応だそうです。しかしマクロスFの歌の人気とは別に、「ロボアニメ系のアニソン」が中国オタクのアニソンファン内では難しいものがあるという話も出ています。
ロボアニメ系のアニソンはノリの良い曲も多く日本のアニソンでは定番となっている曲も多いと思いますが、中国本土では日本の定番ロボアニメがほとんど放映されていないことから、中国オタク的な「歌」の知名度としては少々厳しいものがあります。
現在の中国オタクの傾向として、ロボット系の作品はスパロボ経由で知ることが多く、主題歌のメロディはなんとなく知っていても元の歌や詳しい歌詞はよく知らないというケースも多いです。
もちろん中国オタクの間にもロボアニメファンやマニアは少なくないのですが、「アニソンイベントに行くような人間でロボアニメ系のアニソンを好物にしている」というのは少数派らしく、箱が大きくなればなるほどロボアニメ系のアニソンは厳しくなる傾向があるそうです。ちなみに、中国での第1回アニサマではガオガイガーへの反応がかなり微妙だったとか。(もちろん反応する人はいたそうですが、曲にのれない、分からない人も結構いたそうで)
それとロボット系ではマクロスFほどではないですが、「ガンダムSEED」も人気になった時期が中国オタクの黎明期だったこともあってロボアニメファン以外にも主題歌の人気や知名度が高いのですが、こちらはまたイロイロと使い難い理由があるようで……。
■中国アニソンイベント・ビジネスの悩み
こういった背景があるので、中国でのアニソンイベントにおける選曲に関しては難しい所が出てきたりするそうです。中止になってしまったので今となっては何とも言えませんが、アニサマ上海も選曲にはかなり頭を悩ませていたようですね。
例えばアニサマ上海では大きな目玉として水樹奈々さんの出演というのがありましたが、実は水樹奈々さんは現地の中国オタクの間でのネームバリューは非常に高いものの、中国オタクの間で広い範囲によく知られている歌というのがありません。
中国では「リリカルなのは」はマニア向けの作品といった扱いでファン層が中国のアニソンファンの主流とはズレていますし、アニソン以外の曲はもっと知られていません。もし開催されていたなら水樹奈々さんが中国オタクの観客へどんな歌を歌ったか……というのは中国オタク事情的にかなり興味深い話に思えますね。
いつも以上に長々とまとまりのない話を書いてしまいましたが、とりあえずこんな所で。例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。
関連記事:
聖闘士星矢は俺たちの青春だった?!ノスタルジー呼ぶ『ペガサスファンタジー』の上海語替え歌―中国
ビッグイベントになった北京アニソン合戦に中国オタク分裂の兆しを見た―北京文芸日記
「一昔前のアニソンで好きな曲ってなによ?」中国人オタクの議論(百元)
「君たちはカラオケでアニソンを歌うのかい?」中国人オタクの議論(百元)
中国の忘年会に出席してみた=余興ではアニソン熱唱も―北京で考えたこと
中国の忘年会に出席してみた=余興ではアニソン熱唱も―北京で考えたこと
*本記事はブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」の2013年1月4日付記事を、許可を得て転載したものです。