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民間が公共財を提供する=草の根NGOの役割を経済学的に考える(岡本)

2013年01月19日

■公共サービスを提供する草の根NGO<岡本式中国経済論48>■


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中国の負の側面といえば、環境問題と格差問題がもっともフォーカスされます。大気や水の汚染、砂漠化といった問題は市場メカニズム(簡単にいうと自発的な取引)では解決できないような感じがします。都市に出稼ぎに出てきている農民工が差別されたり、都市住民と競合しない職(いわゆる3k)にしかつけないために、普通の都市住民よりも低い賃金に甘んじてしまう問題なども、市場メカニズムでは解決できないような気がします。

となると、環境や格差の問題には、どうしても「政府」が出てこないと民間では解決できないのではないかと気がします。でも本当にそうでしょうか。公共財や公共サービスは民間が自発的に提供できないのかどうか考えてみたいと思います。


■1.中国の草の根NGO

中国でもNPO(民間非営利団体)やNGO(非政府組織)の活動が活発になってきています。1993年に北京市がオリンピック開催地候補として立候補した時に,国際オリンピック委員会から「中国にはNGOはあるのか」と聞かれ,担当者が困ったという話があります(徐・李2008.p.3)。それほど中国では馴染みのないものがNGOだったわけですが,それでも環境分野からNGOが設立されていきます。

中国では上から(政府から)団体が作られるのが一般的でした。そのような非政府組織を官弁NGOと言われます。それに対して,日本のように有志が自発的に団体を作り,公共に関するサービス提供を行う組織が生まれてきました。これを官弁NGOと対比して草の根NGOと言います。

もっとも最初の草の根NGOは1994年3月31日に国家民生部に登録された「自然の友」と言われています。その後1996年前後に「北京地球村」「緑家園」などの環境NGO団体が生まれてきました。2001年11月に北京で開催された「中国・米国環境NGOパートナーシップ・フォーラム」では,中国の環境NGOは2000団体以上に達し,数百万人の参加を得ているという報告があったといいます(徐・李2008,p.4)。

その後,草の根NGOは環境分野ではなく出稼ぎ者への支援の分野で広がりを見せます。1998年8月に,出稼ぎ者の多い広州市番禺で「番禺出稼ぎ者サービスクラブ」が設立されます。このNGOは農村から来た出稼ぎ者に法律相談のサービスを提供し,文学や職業安全,健康などをテーマにしたセミナーを開催,また権利擁護のホットラインを開設するなどの活動を提供しました(徐・李2008,p.4)。

さて,以上の背景をもつ草の根NGOについて,ここでは環境分野から「地球村」,出稼ぎ者の支援について「工友之家」を見てみてみましょう。

(1)地球村(主に王,李,岡室2002,pp.92-93を参照)
「地球村」の全称は「北京地球村環境文化中心(Global Village of Beijing)」といい,1996年に設立されました。創始者はアメリカ留学から帰国した廖暁義(女性)です。中国社会科学院の研究員という公職を辞し,友人と一緒に地球村を創始し,数少ない草の根環境NGOの1つとして世界から注目されました。2000年6月にノルウェーでその年の世界環境保護の最高賞であるSophie Prizeを受賞しています。

地球村の活動主旨は「市民の意識を高め,市民参加を促進することを通じて,政府が持続可能な開発戦略および政策を推進・実施することの手助けをすること」となっています。具体的には,地球村は環境保護に関する宣伝教育分野を中心に活動しています。

とくに地球村が力を入れているところは,以下の三点です。

第1,コミュニティにおける市民参加システムを促進し,法律の実施状況に対する市民の監督,アドボカシー活動(政策提言や権利擁護),生活様式の改善活動に積極的に参加してもらうこと。第2,ゴミの分別収集,公共交通,環境にやさしい建築,生物種の保護などの活動を通して,持続可能な消費生活とライフスタイルを呼びかけること。第3,新たな環境NPOの育成に貢献すること。

地球村は,中央電視台で独立して環境保護に関連するテレビ番組の編集,情報の提供を行なっていました。また,環境保護研修センターの設立と運営,環境ボランティア活動,国際交流,環境へのマス・メディアの関心を促進したりしています。地球村は,少人数の専従スタッフ以外に,全国各地に約4000名余りの環境保護ボランティアの協力を得て,活動を展開しています。

(2)工友之家(主に古賀2010,p.213を参照)
「工友之家」の全称は「北京工友之家文化発展センター」です。創始者は農民工の孫恒で,都市社会で孤独な農民工のための家を作ろうという思いから始まり,2002年11月に正式に登録されました。

最初は,農民工の仲間と打工青年芸術団を結成し,農民工の思いを代弁する歌を歌うライブ活動でした。芸術団のCD売上を基にして,民工子弟学校やリサイクルショップなどを行うようになりました。現在,北京で,打工者(出稼ぎ者)文化教育協会,同心実験学校,同心互恵焦点,打工文化芸術博物館などを運営しています。

北京市からは,「十大ボランティア団体」に指定されるとともに,打工青年芸術団は2005年に党中央宣伝部・中央政府文化部から先進的民間文芸団体として表彰されています。


2.公共財とは

以上のように,中国でも,民間が政府に変わる形で公共サービスが提供されるようになってきています。これを経済学から考えてみたいと思います。

まず,公共財を定義してみます。公共財は以下の非排除性と非競合性の二つの性格をもつものと定義されます。

非排除性とは,自分が利用しても他の誰かの利用を妨げる(排除する)ことはできないことを意味します。別の言い方をすると,他人が利用しようとした時にお金を払わなくても便益はもらえる,ものです。

非競合性とは,自分が利用しても他の誰かの利用量が減ることはないことを意味します。別の言い方をすると,他人が利用しようとしたときに余分なお金,費用がかかりません。

身近な公共財の例は,花火です。花火という娯楽サービスは,他人が見るのを排除することができません。京葉線に乗っていてディズニーランドの花火を楽しむこともできます。お金を払って入場したディズニーランドのお客だけがディズニーランドの花火を独占することは不可能です。これが非排除性です。

またディズニーランドのお客がディズニーランドで花火を楽しんだからといって,周辺住民及び京葉線の乗客の利用量が減ることもありませんし,彼らはコストなしで花火を楽しむことも可能です。これが非競合性です。

花火のような公共財は,個人が自ら費用を払ってまで人を楽しませる花火大会を開催するインセンティブはなくなります。となると民間にまかせると花火という公共財は過少供給になります。したがって,夏になると政府(地方自治体)が花火という公共財を提供することになります(墨田の花火祭りが典型例)。

非排除性と非競合性がなりたつ純粋な公共財は,治安や国防などの安全サービスです。二つの性質が同時に成立しなくても,一般に準公共財としてみとめられるものがあります。

例えば,道路,港湾,公園などの社会インフラ,教育,医療,福祉といった社会サービスです。これらは利用料や会費を設けることによって,他人の利用を排除することが可能です。これらはクラブ財とも呼ばれます。ただし,社会サービスは,過少供給になりやすいので国家目的で国家がやるべきだとされます。これはメリット財とも呼ばれます。

次に,資源,環境があります。地球上の資源はみんなのものですので,誰かの利用を妨げることはできません。非排除性は成り立っています。しかし,水や大気を汚染することによって,他者の利用量が減ることにはなります。環境が汚染されるときれいな水,きれいな大気を得るのにコストがかかってきます。1月13日-15日頃に北京で大気汚染が話題になりましたが,その時に空気清浄機やマスクが大量に売れたようです。きれいな空気を吸うためにもコストがかかりました。


3.公共財は誰が提供すべきか

公共財の問題は,誰もなにもしなくてもいいことがあるという性質から,誰もすすんでそれを供給しようとしないことです。

童話に「ねこに鈴」という話があります。猫に安全を脅かされるねずみたちが相談して,ねこに鈴をつけよう,そうすれば猫が来たときに先に逃げられる,というアイデアを思いつきます。ところが,じゃあ誰が猫に鈴をつけにいくか,ということになると誰もつけにいかない,ということになりました。

ねずみ社会の安全という公共財は供給されない結果となります。公共財は,供給のために人々の参加や協力を強制する手段がないがないというのが大きな問題です。そのため,多くは政府が供給すべきという結論になるのが一般的となります。

中国でも政府が人民解放軍や公安によって国防,治安などの公共財を供給しています。資源,環境という顧問プール財(準公共財),農民工への教育や社会保障なども国が関与して解決しようとしています。

一方で,上でもみたように,市民自らが公共財の担い手となってきています。市民がボランタリー(自発的)に環境問題に関心をもち,汚染をふせぐための活動が行われてきています。農民工の職能訓練,子女教育をするための民工学校は,農民工自らがあるいは都市の人々の手によって行われるようになってきました。

李(2012)は,このような「市民社会」の活動を論じています。中国では団体活動は登記(登録)しないと活動が許可されにくいという問題がありました。しかし,市民の自発的な活動に対して,政府も理解をするようになってきています。

日本でも話題になる「新しい公共」の出現です。公(政府)でも私(個人)でもない集団が公共の問題を解決していこうとしています。中国の草の根NGOが公共財の供給に携わるようになり,政府活動の一端を担う反面,政府と草の根NGOの軋轢も今後生じてくるかもしれません。

中国のNGO,今後も注目する必要がありそうです。

<参考文献リスト>
王名、李妍焱、岡室美恵子(2002)『中国のNPO──いま、社会改革の扉が開く』第一書林
古賀章一(2010)『中国都市社会と草の根NGO』御茶の水書房
李妍焱編著(2008)『台頭する中国の草の根NGO』恒星社厚生閣
李妍焱(2012)『中国の市民社会――動き出す草の根NGO』岩波新書

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*本記事はブログ「岡本信広の教育研究ブログ」の2013年1月19日付記事を、許可を得て転載したものです。


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