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2013年 1月19日、瀟湘晨報は記事「平和堂打ち壊し、財物窃盗=“優秀学生”が有罪」を掲載した。昨年9月15日の湖南省長沙市反日デモで、日系スーパー・平和堂の打ち壊し&略奪に参加した者に大学で「優秀学生幹部」認定を受けていた小兵くん(仮名)が加わっていたんですよ……というお話。
■中国各地の反日デモとその違い、長沙市はハンパない
昨年9月の反日デモ。一説では中国100都市以上に起きたと言われている。「ええー!中国全土でマッドマックス的な状況になったのかい?!」と驚いた人も多いと思うのだが、そのほとんどが目立つところに人が集まって「尖閣は中国のもの!しゃんしゃん。記念写真ぱしゃり」ぐらいで終わったもの。
アグレッシブだったのは日本大使館にトマトやら卵を投げつけた北京、自動車ディーラーや工場、イオンを焼き討ちした青島、日本車を運転していた中国人のどたまをかち割った西安、日本車をひっくり返しまったり市政府入り口で大騒ぎを起こした深セン、そして日系スーパー・平和堂を略奪した長沙市などごく一部に限られる。といっても何の免罪符にもならない上にあまり表に出ていない被害もごまんとあるようだが。ともあれ、地域によって濃淡が相当異なっていたことは認識しておきたい。
■優秀学生幹部の略奪
で、その中でも一番、悪逆非道度が高かったものの一つに湖南省があげられる。滋賀県の誇るスーパー・平和堂が2個所にわたり攻め込まれ破壊され略奪された。
で、略奪を担ったうちの一人、湖南省“某”大学の優秀学生幹部、中国共産党予備党員、学生会副主席、副学級委員の小兵くんが逮捕されたという記事が瀟湘晨報に掲載されている。なんでも市民と一緒に平和堂に討ち入り、3階、4階に乱入。カバン、ペン、メガネ、腕時計、服、靴下、名刺入れ、靴などを略奪したという。
小兵くんは優秀学生幹部のわりに要領が悪い子だったらしく、平和堂から撤退する時にがっつり警察に逮捕された。略奪した物品は総額3000元(約4万5000円)超と鑑定されたというが、これは相当多めに見られたものではないか。というのも、たとえ「カバン、ペン、メガネ、腕時計、服、靴下、名刺入れ、靴」を1つずつ略奪したとしても、これを4万5000円以下に抑えるには相当安物でそろえないといけないだろうから。
■アホな子ほどかわいい?!実家が貧乏だから?!
アホな子ほどかわいいのか、それとも抜け目のない子たちはがっつり略奪しなおかつ逃げおおせたのに、つかまった馬鹿な子があわれだったのか。ともかく大学からはこいつは悪いやつじゃないんでっせ、実家は貧乏でご両親はまじめな農民なんですという証明書がばんばん。
ついでに小兵くんの有罪を立証する立場の検察からも「拘束期間中にまじめに反省書を書いてますし、学校でもいいやつっぽいですわ。懲役食らわすよりも“教育改造”による成長をうながすべきでありましょう。学校に返してやるべきです」との提案がなされた。
結果、18日に裁判所は懲役4カ月15日の刑がくだされ、それですんだという。
■中国的にはそれでいいかもしれませんが……
バカな子どもや、愛国のバカ騒ぎに犯されて、日系スーパーを襲った揚げ句、逃げそびれるなんて……。今度からは気をつけろよ。
で、中国的にはいい話で終わるのかもしれないが、ジャポネーゼ的にはなんか納得いかないんですがっ!刑事で有罪かっくらったんなら、平和堂の方にはぜひぜひ民事で賠償をふっかけていただきたい。つーか、小兵くん以外にも深センで車をひっくり返してエンジョイしていた5人が捕まっていたよね?長沙でも監視カメラで顔写真抑えられて出頭者多数という話だったよね?そいつらがどんな刑事罰を受けたのか、民事賠償したのか、さっぱり伝わってこないのである。
■許そう、すべて許そう……って流れはおい……
先日、ある勉強会に参加して、中国の人権について積極的な発言を続ける作家・崔衛平さんのお話を聞いた。彼女は反日デモを受け、「日中関係に理性を取り戻そう」という署名活動を主催しており、いわゆる“反日”とは180度違う立場の方。
が、その署名活動の最中、ネットである中国人からこんなことを言われたのだという。「民主化したら中国は日本とは決定的に決別するでしょう。なぜならば中国人にとって日本への恨みはもっとも自然な感情だから」、と。田中角栄の日中国交正常化以来の日中の蜜月というものは日本と中国当局の関係であり、中国国民の恨みはいままで押さえつけられてどこにも発散できなかったのだ。今、ここで発散するのは当然であり、これはしばらく続くであろうとの分析であった。
崔さんの分析についてはある程度、なるほどと思ったのだが、しかし「しばらく恨みは発散するであろう」で話が終わるのはちょっと勘弁して欲しいような……。
なんで、ここで崔さんの話を引っ張り出してきたかというと、「農村出身のまじめな大学生が、ちょっと調子にのって反日デモでバカ騒ぎしてしまったが多めに見ようや」という上述記事・裁判の流れは中国当局・警察・大学に加えて中国の知識人の皆さんもうんうんとうなづいてしまいそうな話の流れになっているからである。
■田中さんの屋台
いやいやいや、ちょっと待てよ、と。弁償しろと私は言いたい。いやさ、滋賀県が世界に誇るグローバル企業、ウォルマートか平和堂かと言われる大企業だから、ちょっとやそっと略奪したぐらいで心が痛まないのかもしれないが、脱サラして中国で赤ちょうちんのちいさなおでん屋台を出した田中さんのビジネスがもしあったとして、万が一踏みにじられたとしても同じ対応をするのか、と問いたい。問いただしたい。
なんか私は不満なのである。中国政府がなあなあにしていたり、あるいは将来有望な(?)若人をかばっていたりするのはまだいい。だが中国政府に批判的なネット民が、あおられた学生は馬鹿者やで!とか、若気のいたりやなで済ませているのがゆるしがたい。
もし日本で中国人のやっているマーラータン屋台がネトウヨに粉砕されたらこんなものでは済まないであろうし、私も許さない。「田中さんのおでん屋台」「李さんのマーラータン屋台」を守ることこそが国際相補的な自由貿易主義ではなかろうか。ということを常々思っているし、いつか中国語の文章にもしないとと思いつつも、怠惰で飛ばし飛ばしにしている私なので、何もいう資格はないのだが、小兵君の若さゆえの過ちと社会のみなさんのサポートと平和堂の被害への忘却という記事を見て、ウイスキーを飲みながらなにかの感情回路がスパークしたことをここに告げたい。
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