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省政府の恵民政策が生活保護世帯向けの携帯電話の押し売り政策に変わるまで―中国

2013年01月26日

■省政府の恵民政策が生活保護世帯向けの携帯電話の押し売り政策に変わるまで―中国■


CCTVの有名番組・焦点訪談、2013年1月25日放送回の「低保を“喰らう”携帯」が面白い。低保とは「最低生活保障制度」の略語。日本の生活保護に相当する。

長文なのでざっくり説明したい。


■貧乏人に携帯電話の購入を強制

甘粛省定西市漳県は国家級貧困県に認定されている。同県の中でもさらに貧困村として知られているのが殪虎橋郷。年収は1600元(約2万4000円)程度しかない。その村で暮らす馮珠梅さん。夫婦ともに病気で働けず、子どもは就学中とのことで、低保の金に頼って生きていくしかない。

貧困に悩まされる馮さんだが、このたび村から「携帯電話を買え!」とのお達しが来たという。値段は200元(約3000円)。馮さんにとっては大金だ。だが命令に背けば低保を打ち切られるかも知れないとも馮さんは恐れている。

なぜ低保家庭に携帯購入を無理強いするのか。村の銭書記がその理由を説明する。それは(共産党の意向を伝える)宣伝政策や民草に有利な情報を伝えるために必要なものであり、貧困からの脱出を助けるもの。貧乏人たちの知力を向上させる効果があるのだ、と。

記者は低保世帯の村民に「有利な情報が携帯で伝えられるそうですか知っていますか?」と聞いてみた。村人たちの答えは「私は字が読めません。なにかメッセージは来ているようですが、眺めるだけです」というものだった。

村書記の説明はまったく理由になっていなかった。何が民草に有利な情報化、これでは違法な税金のようなものだ。いったいこの問題にはどのような背景があるのだろうか。


■貧困家庭の支援が携帯電話押し売りに変わるまで

調べを進めると驚くべき事実がわかった。この詐欺まがいの話は同村だけではなく、県、市、そしてさらに上の上級政府が発した通達に由来するものだったのだ。

発端は甘粛省の「双聯活動」だった。「政府機関は貧困村と、党幹部は貧困世帯に連絡をとり、彼らを貧困から脱させましょう」という主旨。悪い話ではないように思えるが、2012年4月に甘粛省双聯弁公室は「本活動を商業宣伝に使うことを禁止する」との通達を出している。

実は漳県だけではなく、双聯行動の悪用があったようだ。2012年12月、定西市双聯弁公室は市内の区・県に携帯電話カードを積極的に販売するよう呼びかけている。それが下に下に通達されていくなかで、最後の村では携帯電話の販売に変わっていたようだ。


■村幹部の権力

双聯行動を利用しての携帯電話カード、または電話機そのものの売りつけにはどのような狙いがあるのだろうか。話を聞くと、以前、携帯電話会社は自力で携帯を売ろうとしたが、農民たちは買おうとしなかったという。そこで村幹部に頼んだところ、70世帯の低保世帯すべてが購入してくれたのだとか。

この手の話は枚挙にいとまがない。ヤギを売りつけたり、宝くじを売りつけたり。中には無理やり連れ出して建築現場で働かせた事例もあったという。


■中国の閉鎖社会=村

村幹部の意向で携帯を売る、というのは想定外のニュースで虚を突かれた。

地下金融や闇金に興味があって調べているのだが、農村では村幹部が音頭を取って農民たちに出資させるという形態が多々見られた。村幹部は基本的には有力者として人望を集める存在であり、ついでにいうと低保を認定したり打ち切ったりの生殺与奪の権力を持っている。

付け加えるならば、烏干村の事件が示すとおり、勝手に村の共有地を売りさばくなど、あまり監督されることなく行政権力を行使できることも可能。同じ人物がえんえん何十年も村トップを務めていることも多く、小さな独裁者として君臨している事例も多い。その小さな独裁者のパワーを借りて、携帯電話の契約獲得を狙うという発想がなんともすごい。

ド田舎の貧困世帯が小さな権力者にいじめられたというありふれたニュースながら、省政府の恵民政策が押し売りに変化、こまごました問題にまで力がいきわたる村トップのすごさ、契約合戦に明け暮れている中国携帯企業……などなど、多くの中国事情が透けて見える。

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