中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
militarism / Harald Groven
■今回は本当に戦争になるのでは
尖閣国有化以来続く日中の対立。かつてないほどの被害が出た暴力的な反日デモが最も衝撃的なトピックではあるのだが、個人的に「おおっ」と思ったのは複数の中国人の友人から「今回は本当に戦争になるのでは」と言われたことだった。普段は「中国共産党は口ばっかでござる」とか「早く撃て」とか言っていたやつらが今回はいつもと違うと感じたというのは、それほど中国国内での盛り上げっぷりが激しかったことを意味している。
「擦槍走火」という四文字熟語をこれほど頻繁に目にしたのも初めてのことだ。銃を触っていたら暴発しちゃった……というアクシデントによる開戦を意味する言葉だ。
さて9月に最初のピークを迎えた後は緊張は続きつつも膠着状態が続いていた……というのが大方の人の理解だと思うのだが、日本人の多くはあまり気づかないうちに、中国ではこの2013年1月、「今回は本当に戦争になるのでは:Part2」的な盛り上がりが起きていた。
■年始に何が起きたのでしょうか……というナゾ
米国のメディアを見ると、この盛り上がりは日本がしかけたという報道をいくつか見かけた。12月13日、中国国家海洋局の航空機が尖閣上空で領空侵犯したことが原因だという(WSJ)。これ以降、日本政府の発言は強硬さを増していき、中国も反発し……という筋書きだ。
ちょっと違うくなかったけ?というのが私のおぼろげな記憶である。例えば12月19日付の福島香織さんの記事「安倍氏は“タカ派”か“氷を溶かした人か”」では、安倍首相は中国の敵たる“タカ派”なのか、それとも小泉政権時の日中関係冷却を回復させた「破冰の人」なのか、中国では様子見だと評している。
この時機、人民日報や環球時報をのぞいても安倍首相に釘を刺しつつも、全面的に敵視しないぐらいの塩梅だった。安倍首相も尖閣の人員常駐という選挙期間中の発言を一時とりさげるなど中国に配慮を示しており、ちょっといいムードじゃないですか、などと思っていたら、年が明けて気がつくと上述の「戦争が起きるかもしれません」モードになっていたという次第。
■安全保障ダイヤモンドは砕けない
この変化はいったいなんなのか。一つには年明けの安倍政権の外交がありそう。麻生太郎副首相のミャンマー訪問をきっかけに、岸田文雄外相、安倍晋三首相と閣僚3人が東南アジアを訪問。昔から一部中国メディアを騒がせていた「日本が中国を封じ込めようとしている」「大東亜共栄圏:Part2やで!」という話そのまんまの動きが注目された。日本メディアも東南アジア外交の意図を中国絡みでばかり解説する記事があふれていて、「日中マスコミの見解は高度に一致している」との感慨を得たのであった。
さらに12日付読売が「中国の進出懸念…首相、NATO事務総長に親書」と報じた件も中国ではかなり大きく報じられた。結局、このNATOへの親書とやらは読売がぽろりと報じただけで他に報道はなかったように記憶している。ゆえに日本人の多くは記憶にないが、一部中国メディアやネット掲示板で流れる「安倍内閣、怒濤の攻勢」では欠かせないワンエピソードになった。
■警告射撃は相手に当てるものやないんやで
で、もう一つ、本命が警告射撃ネタである。
9日付産経新聞が「安倍首相、領空侵犯機に警告射撃を検討するよう指示」と報道。
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中国で話題になるも、産経の誤報じゃねとの話が広がる。
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官房長官が産経報道を否定。
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そんなことは関係なく、安倍政権の挑発行為許さまじ!と盛り上がり。「中国軍少将 「日本が曳光弾を発射すれば開戦だ」と反撃を明言」
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というか、10日の「日中戦闘機が尖閣付近で対峙」というネタは産経報道への報復じゃないかと疑っている。なお当初、日本メディアは戦闘機十数機が防空識別圏域に進入と報道。その後、中国国防部は軍の偵察機が飛んでいたら日本の戦闘機がスクランブルしてきたから中国側もスクランブルさせたと報道。激しく食い違っているが、別にすりあわせも検証もなかった気がする。
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防衛相記者会見でフェニックステレビ記者が警告射撃ってまじですか?と質問。
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防衛相は「国際的な基準に合わせて間違いのない対応」と回答したら、朝日がつまり警告射撃するってことと補足して報道。当初タイトルでは防衛相が「警告射撃」と口にしたかのような見出し。朝日中国語版にいたっては「信号弾を撃って警告する」と発言をでっちあげ。
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中国メディアおおいに盛り上がるも誤報っぽいという話が伝わる。
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でも日中緊張ムードはおおいに盛り上がる。