■中央編訳局長の解任■
Marx und Engels / credit_00
■面白すぎる失脚
中央編訳局主要同志調整(新華社、2013年1月17日)
関係部門が明らかにしたところによると、中央編翻局の主要指導者である衣俊卿は、“生活作風問題”(生活態度の問題)があり、現在のポストで仕事を続けるのに不適切とのことで、すでに中央編訳局局長の職務を解任された。賈高建が中央編訳局局長に任命された。
17日、新華社は中央編訳局の衣俊卿局長更迭を報じました。生活態度の問題が一体なんなのかについては一切報じられていませんが、これは処分が未決定なためです。
ですが、実は衣俊卿の「生活態度の問題」は昨年12月から一部で話題にされてきたものでして。「ああ、あの小説って実話だったのかよ、面白すぎる!」と大変な話題になってしまいました。
■肉弾接待でポスドクのポストをゲット
交際相手が10万字のオンライン手記、中国高官失脚
AFP、2013年1月23日
中国の高官に振られた交際相手の女性が、2人の交際について10万字に及ぶ詳細な「手記」をオンライン上に公開したために、この高官が失脚したと同国の国営メディアが報じている。
国営新華社(Xinhua)通信は16日、当局筋の情報として、中国共産党中央編訳局局長の衣俊卿(Yi Junqing)氏が「不適切な生活様式」を理由に罷免されたと報じた。同氏は研究者の女性と性的関係をもっていたとされている。
ことの発端は12万字もの「長編小説」。昨年11月9日に中央編訳局のポストドクター(博士後)の職を得たばかりの女性・常艶さんが書いた内容ですが、衣俊卿との情事を描いた内容に「これはモノホンっぽいぜ」と話題になっていました。常さんは「実話じゃないです、小説です」と当初は言い張っていたものの、どうやら実話らしく、小説発、ネットの盛り上がり経由、紀律委員会による拘束へという驚きの展開に。
面白すぎるトピックだけに、衣俊卿と常艶がらみの報道はごまんとありちょっと追い切れていないのですが、
指導教官は常さんではなく、別の人間をポストドクターに雇う腹づもり。
↓
困った常さん。衣俊卿に賄賂を贈り、肉体関係を結ぶことで逆転。ポストドクターの座をゲット。
↓
喜びのあまりなのか、嫌がらせなのか、ひまだったのか、12万字の“小説”をネットで公開。賄賂から何度も逢瀬を重ねたことなどを明らかに
↓
ネットで話題になり(後略)
という展開のよう。
■劉雲山
中央編訳局は副部級。日本語でいうならば、局長の衣俊卿は副大臣格とでもいうのでしょうか。習近平体制発足以来最大の大物失脚となりました。政治局常務委員にして中央党校校長、中央書記処常務書記、精神文明建設委員会主任を兼任する劉雲山がらみの政争という筋が考えられます。
中央党校は30代、40代の党幹部を要請する学校であり、また党理論家の巣窟でもあり、劉雲山自身も卒業生であります。実際学校の運営をやるのは常務副校長あたりでしょうけど、宣伝部門のトップが校長を務めることで党校が保守化するのか、見極めていければと思います。
なお、劉雲山は精神文明建設委員会主任、中央書記処書記も兼任。単純なポスト数だけで見れば、17期の習近平を上回る権力を手にすることになります。党内の重要なポストを抑えつつ、巨大な宣伝部門のトップでもあるわけですから、仲良くないのであれば習近平にとっては非常に面倒な存在になると言えます。5年で引退だからと甘く見てはいけません。
■副大臣格のみみっちすぎる収賄ただ習近平VS宣伝畑の政治局常務委員の権力争い、そして副大臣級の失脚というスケールの大きい背景と比較して、実際の事件の地味&ちっぽけさは想像を絶するものがあります。
中央編訳局は格こそ高いものの、「マルクス、エンゲルス、レーニン、スターリンの著作を編集・翻訳、研究する」「全人代の政府活動報告、鄧小平理論や江沢民文選を各国語に翻訳」といった地味なお仕事。衣俊卿も黒竜江大学校長を経て、黒龍江省委宣伝部長を経て中央入りした学者あがりのお方。替わって局長に就任した賈高建も中央党校の教育長であり、こちらも学者さん上がり。
賄賂やらなんやらで蓄財できなさそうなポジション。今回もポスドクのポスト争いというびっくりするほど小さなネタで賄賂(といっても1万元=約15万円程度らしいですが)をちょろりともらいエッチしただけで、副大臣級の人が失脚するという大変な事態に。
最近、重慶市の性愛動画流出事件絡みで10人もの官僚のクビが吹っ飛びましたが、こちらは企業経営者が愛人を送り込んで動画を撮影。それをネタにゆするというおおがかりな事件。格だけならば、副大臣の圧勝なのですが、動いているお金の額でいうと完敗です。
そら、今のご時世でマルクス・エンゲルス、レーニンとか研究したら、そういうふうに潰しがきかなくなるよ。ということなのでしょうが、共産主義国の中国でぐらい、マルクスを勉強してがっぽり儲けられる国であって欲しいと願うばかりです。
関連記事:
【小ネタ】18歳愛人との性愛動画流出で官僚がクビに=中国を騒がす垂金権造事件【反日デモ】私たちは愛国と敵を倒すことしか習わなかった=ある中国人女性の言葉(ucci-h)毛沢東思想の授業をさぼって中国大学生の「今」をだべってみた―中国(水彩画)中国の「オリエンタリズム」に目をつむる御用学者=チベットをめぐる神聖化と妖魔化(tonbani)他の国とはちょっと違う?インフォグラフィックで読む中国の左派VS右派(Alex)
*本記事はブログ「中国という隣人」の2013年1月21日付記事を許可を得て転載したものです。Chinanewsが続報をもとに追記、再編集しました。