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中国を覆う「白いアレ」をなんと呼ぶべきか?強烈な大気汚染と”わかりやすさ”の危険性

2013年01月31日

今、話題の中国の大気汚染、わかりやすい強烈なネタばかりに目をとらわれる危険性について。


■世界を注目させる、強烈な中国大気汚染ネタ

中国の国土の10%超、130万平方キロメートル超を覆う“灰霾”(スモッグ)。すでに西日本にも飛来していると、日本でも他人事ではないと大変な話題になっている。
(「中国大気汚染:流入の西日本「物質濃度が急上昇」毎日JP、2013年1月31日。「全国灰霾面积超130万平方公里 气象台首发霾预警(中国全土の“灰霾”カバー面積は130万平方キロメートル超に=気象台は初の”霾”注意報)」新京報、2013年1月29日)

世界的な話題になっているが、たんに汚染が深刻なだけではなく、見出しを立てやすい強烈なニュース&写真がそろっているという点は見逃せない。

(1)スカウターが爆発するほどの汚染

北京のスモッグは共産党独裁への脅威
ニューズウィーク日本語版、2013年1月31日

北京のアメリカ大使館は大気汚染度を測るのに、500を上限とするAQI(大気質指数)を使っている。この指数では301以上が「危険」とされるが、12日にはそれをはるかに超え、大使館の非公式の測定では800に達した。ブルームバーグは、11日に心臓発作で病院に搬送された患者が倍増したという心臓病専門家の発言を伝えた。


(2)言葉の100万倍ぐらい雄弁な写真

雲海に沈んだ北京
20130131_写真_中国_大気汚染_

故宮も真っ白
20130131_写真_中国_大気汚染_2

フォトライブラリー・CFPの”雾霾”特集にはまだまだごまんと写真が。

一番笑える写真がこちら。

20130131_写真_中国_大気汚染_4

天安門広場、人民大会堂前のスクリーンに映し出された青空と、北京のリアルな”雾霾”。中国ネット民は「中国のプロパガンダとリアルのコントラストを鮮明に映し出す1枚」と高く評価している。


■わかりやすいけど、単純ではない

というわけで、数字を見ても写真を見ても中国の大気汚染が激しく深刻なことがよくわかる。

よくわかるのだが……この深刻な大気汚染データと目に見える”雾霾”とを単純に結びつけて良いのか、というのはなにげに悩ましい問題なのだ。何が悩ましいって、まず私がよくわかっていない。というわけで、下記の説明はそれなりにがんばって調べたが、もし間違えていたら優しく教えていただけるとありがたい。

特に北京が深刻なのだが、街をすっぽりと覆っている白いアレは当初、”雾霾”という名称で報じられた。これは霧ともやが一緒に出現している現象を指す言葉。自然現象も人為的な大気汚染のどちらでも起きる。この言葉を使うあたり、「人為的な大気汚染だけとは言い切れませんなぁ」という中国気象当局の逃げ的な気持ちがうかがえる。

では実際に北京を覆っているのはなんと言うべきか、それは大気汚染なのか、をどう表現するべきなのか、私にはちょっとわからない。大手メディアさんを見習おうと思ってもみたのだが、日本大手新聞を見ると、「大気汚染」とか「霧」とか、翻訳ではなく濁して表記しているようだ。

というのも、冬の北京なんざ濃霧はちょくちょく出るものだから。大気汚染が深刻化したから空が白くなるわけではなかったりするようだ。問題は霧が立ちこめるような天気だと汚染物質も外に飛んでいかないので、データを見ても悪化している。が、霧と大気汚染はイコールではないという微妙な状況にある。


■空をただよう白い”あれ”を何と呼ぼうか

霧ともやだったら、スモッグ(スモークとフォグの合成語)でいいんじゃないの、と言いたいところだが、スモッグには「煙霾」という別の訳語がある。でもって、中国を覆っている白いなにかは大気汚染的なスモッグも多いのだけれども、自然現象的な霧も多かったりするわけで。

中国メディアの中にも”雾霾”と言葉の欺瞞性を察してか、“灰霾”という表記を使っているメディアもある。こちらは専門的な気象用語ではないが、人為的な大気汚染の意味合いが強い言葉だという(新说灰霾-1:“灰霾”还是“雾霾”?)。

他にも烟霞、阴霾などという言葉も使われているようだ。


■不安心理とネタ心理

で、さらに細かいことに拘りだすと、「白いアレに覆われた都市では病院に患者が殺到」「大気汚染を恐れてガスマスクを着用する人も」なんていうネタもどこまで本気で扱って良いのか悩ましいところ。

白いアレと患者数急増はそこまで直接の関係はない。吸った瞬間に体調が悪くなるようなわかりやすい毒ではなくて長期的な健康被害が問題という話もあるし、病院に押し寄せている患者の多くも白いアレに覆われた中での不安心理で病院に駆け込む人も多いという。

ガスマスクを着用する人も、というネタも日本で結構とりあげられていたが、実は去年のPM2.5騒動の時にもそうした人はいた。本当に心配なのか、政府の無策を批判するパフォーマンスなのか、ちょっとわからない。


■白いアレがなくても空気は汚れている

というわけで、中国の大気汚染が深刻なことは間違いないのだが、ちょっと気を抜くと間違えて理解してしまうので、中国の白いアレは翻訳者泣かせの案件なのである。

で、翻訳者が困るだけならばまだいいのだが、わかりやすさの裏返しとして、白いアレさえなくなれば大気汚染は緩和されたのかなと思ってしまいそうなのもまた問題。そも問題になっているPM2.5は超絶小さくて目に見えないのに、体に入り込んで長期的に健康被害をもたらすという話なわけで、白いアレがないからお外で遊び回れるわいとかいうことになると、それはどうなんだという話になる。

中国メディアはあなどれなくて結構いけてる報道も多いし、その比率も増えていると思うのだが、正直、科学知識には弱い印象がある。文系のジャーナリスト学科あがりの人がメディアに入るケースが多いからではないかなどとも疑っているが、ここは一つ、がっつりと科学記者を抱えている日本のメディアが科学的にいけてる報道をして、しかも朝日や日経、共同通信など中国語版を持っているところがそえを中国の民草に伝えてあげれば、日本メディアの声望も大きく高まるし、私もあんちょこが見つかって幸せになるのだが……。

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 コメント一覧 (4)

    • 1. ひまし油
    • 2013年02月01日 12:16
    • 日本の新聞だって科学関連がお粗末なのはiPS細胞報道で明らかになったわけで。
    • 2. Chinanews
    • 2013年02月01日 22:48
    • >ひまし油さん
      ちゃんと覚えていないのですが、森口iPS細胞の報道は科学部じゃない記者が書いていたという話だったような。ちゃんとリテラシーある記者が他の部の記事も手助けしてくれたらいいのに、とか考えてしまうのですが……。
    • 3. MUTI
    • 2013年02月02日 00:03
    •  日々面白い記事をありがとうございます。
       今から約7年以上前の話ですが、以下の話はご存じでしょうか?
      ※「統計には誤差があるんですってば」
      workhorse.cocolog-nifty.com/blog/2005/10/post_d27d.html

      なにぶん古い記事ですので、リンクの多くがきれてしまっていますが文意を読み取る問題にはならないと思います。

      日本のマスコミの場合、マスコミを「扇動」機関として利用しようとする人間の方が、出世して大きな権限を持つ傾向かあるのではないか、などと以下のブログ記事を読み
      meinesache.seesaa.net/article/317002552.html
      思う次第です。
    • 4. Chinanews
    • 2013年02月06日 20:22
    • >MUTIさん
      コメントありがとうございます。返事遅くてすいません。

      マスコミが盛り上がる方向に向かうのは間違いないのですが、一番強い原動力はビジネスというか、ニュース・バリューの大きいものを追うためだと思っています。メディアが共産党の支配下にあるはずの中国でもそうで、やりすぎるとかなり残念なことに。

      今回、中日関係がかなりぴりぴりしているので、ニュースバリューを追う行為がへんなボタンのかけちがいになるといやだな……と懸念しています。


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