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競売、抽選、割当管理……深刻化する中国の渋滞とその対策=外部不経済を解消する方法(岡本)

2013年02月09日

■渋滞と外部経済<岡本式中国経済論49>■


深圳白石洲_堵车_02
深圳白石洲_堵车_02 / 刘云天

1.増加する自動車,追いつかない道路建設

中国自動車市場は急速に拡大してきています。2009年の新車販売台数は1364万台となり、アメリカを超えて世界一となりました。2008年の「汽車下郷」政策(農村で小型車購入に対し10%の補助)が2010年まで続き、中国自動車市場は2009年に46%成長、2010年に32%成長を達成しました。

ただし、2011年には政策も終了し、北京、上海などの大都市における新車登録制限により、成長は2.5%に鈍化しました。それでも2012年の新車販売数は1900万台に達したそうですので,中国での自動車の増加は急速です。

急速に自家用車や商業車が増加すると、道路に対する需要が増加します。一方で道路の供給は都市化の進展とともに建設されていきますが、なかなか間に合いません。

20130209_写真_中国_


図は道路の需要(自動車保有台数)と供給(道路総延長)を図に示したものです。自動車保有台数の伸びが指数的に上昇していますが,道路建設は線形的な伸びにとどまっています。

道路の供給が間に合わず,自動車を保有する人が道路を需要する(使う)と都市部では確実に渋滞するということになります。
(統計では,2004年から2005年に急激に道路の数字が増加しています。急に建設量が増加したとも考えにくいので統計定義の変更によるものと推測しています。)

堵车
堵车 / 刘云天


2.中国の渋滞対策

北京では、2012年4月から渋滞解消のためにナンバー別の走行規制を行なっています。これは、五環路より内側の北京市中心部において、平日朝7時から夜8時までの日中に走行できる車両をナンバーによって制限するというものです。5ケタの自動車ナンバーのうち末尾の数字を参考に、走行できる曜日を指定します。

例えば、4月9日から7月7日(2012年)は以下のようになっていました。

走行規制を受ける曜日と、ナンバープレート末尾の数字の対応
月曜日 3と8
火曜日 4と9
水曜日 5と0
木曜日 1と6
金曜日 2と7
(仮ナンバーを含む。末尾がアルファベットのプレートについては0と同等に扱う)

ナンバー末尾が3の車を持つ人は、月曜日の午前7時から夜8時までの日中は走行できないということになります。

この規制を有効的なものにするために、北京市は主要幹線道路、環状線に防犯カメラを設置するとともに、交通管理部門の車両による目視によって徹底的なチェックを行いました。また都市部の主要道路、環状線の出入り口にも人員を配置するなど、規定違反の車両を厳しく取り締まりました。

その成果もあって、ナンバープレートと曜日の対応が変更されると混乱は出るようですが、北京ではナンバー別走行規制が定着してきています。実際、私も北京に行き、友人が迎えに来るときに「今日は車運転できない日なんだ」という話を聞きます。

また中国では上海、北京、貴陽、広州の4都市が新車購入制限を行なっています(2013年1月現在)。『朝日新聞』の報道を基本に新車購入制限の内容を簡単にまとめてみたいと思います。

<上海:競売制>
上海は1994年に乗用車の新規投入枠に競売制度を導入します。マイカーのナンバープレートに,価格下限を設けて非公開の競売制を開始しました。落札した人は車両管理所でナンバープレートを落札価格で購入し,そして新車が持てることになります。

競売制を導入することにより,上海の新車供給量は毎月1万台未満に抑えることが可能となりました。しかしナンバープレートの落札価格は上昇し,2012年には6万4000元(約80万円)ほどになるまで上昇しました。また上海市以外の周辺省で新車を登録する現象も発生しています。

<北京:抽選>
北京では2010年に「北京市乗用車数量コントロール暫定規定」を発表し,小型乗用車に対する数量規制と割当管理制度を導入しました。政府機関には数量枠を与え,枠を使い切ると公用車の新規購入枠が与えられません。また2011年と2012年の小型乗用車の供給枠は各24万台に定められました。

個人が小型乗用車を購入する場合は、北京市小客車コントロールシステムにアクセスして申請し、公安、社会保障、交通などの数部門の審査を経て、抽選に参加することができます。当選して初めて、市内で自動車を新規に購入できる資格を持つことができます。

これにより北京は新車の保有台数を抑えることに成功しました。

<貴陽:走行規制>

2011年に貴陽はナンバープレートに関する暫定ルールを発表しました。貴陽に新たに投入される乗用車には特殊なナンバープレートと一般のナンバープレートの二種類が用意されます。特殊なナンバープレートの場合登録制限があり,貴陽市交通警察部門へ申請し,抽選方式で無償分配されます。この特殊ナンバープレートがもらえた場合,どこでも走行可能です。一般のナンバープレートは登録制限はありませんが,貴陽市の第一環状線とそれ以内の道路の走行が禁止されます。

<広州:割当管理>
2012年に広州は「広州市の中小乗用車総量コントロール管理試行通告」を発表しました。2012年7月からの1年間の試行期間内に広州の中小乗用車の新規供給枠は12万台に設定されます。最初の1ヶ月間は中小乗用車の登録及び移転登録を見合わせ,その後月別に新規供給枠を均一に分配します。2011年の広州の新車ナンバープレート発給件数は33万台,うち中小乗用車は24万台を占めました。つまり総量が半分に規制されることとなります。


3.外部効果(外部経済と外部不経済)

市場メカニズムは自発的な取引によって、需要と供給が効率良くバランスし、多くの人が満足するという結果(パレート最適)になります。しかし、多くの人が自発的に自動車を購入した結果、渋滞が発生して、自動車の良さ(快適な走行)を生かせないという結果に陥っています。

市場を通じないで、人の経済活動が他者の経済活動に影響を与えることを外部効果といいます。市場取引を通じないで他者に便益を与えることを外部経済、他者に費用負担を求めることを外部不経済といいます。

公共財も外部効果を生んでいます。非排除性(他者に便益)と非競合性(他者の費用負担ゼロ)という性質をもつがゆえに、誰も供給したがらないという結果になります。

渋滞は外部不経済の典型です。各個人は自分の利得を最大化するために行動しています。仕事に出勤する、あるいは買い物にいく、友人に会う、などの目的で、もっとも適切なルートで効率よく移動しようと考えています。皆が同じように考えているために、道路供給を超えるほどの道路需要になってしまい、道路に車が大量にあふれ、渋滞という結果になります。

道路の使用(需要)、道路の建設(供給)は市場取引がなされていません。市場取引がない中で、渋滞という外部不経済を生んでいます。むしろ渋滞によって会議に遅刻する人が続出する、部品や製品の配達が時間通りに配達されない、などの状況が発生すると、一国の経済活動にも悪影響を及ぼします。

外部不経済は誰が解決しないといけないのでしょうか。これも公共財と同じく政府による解決が期待されます。実際,上でも見たように、中国の渋滞は各市の政府によってさまざまな方法で解決が模索されています。


4.外部不経済の内部化

各地域ともに,政府が道路の供給量に合わせる形で新車の登録や道路走行の規制を行っています。

その方法は上海をのぞいて,政府による規制と抽選という形をとっています。新車登録台数に枠を決めて,それを利用者に配分しています。総量規制は,強制的に自動車台数をコントロールできるという点で,即効性が期待されます。

しかし総量枠を抽選で家計に分配するというやり方は,市場メカニズムとは違うやりかたです。この問題点は,自動車を購入する人が本当に自動車を運転するかどうかわからない人にも抽選で当たってしまうという可能性があります。自動車の必要性が少ない人にナンバープレートが割り当てられて,自動車の利用が喫緊の課題(例えば小さな企業を立ち上げて各家庭にサービスを供給したいと考える個人経営者など)という家計には,ナンバープレートが当たらないということが発生します。

市場メカニズムを利用して,ナンバープレートの売買を行う上海市のケースは,自動車を本当に必要としない人にナンバープレートが行き渡ってしまうという問題を解決します。市場メカニズムが働き,高くても自動車が必要だという人にナンバープレートが渡されます。自動車の総量枠を決めながらも必要な人でかつ購入できる人のみにナンバープレートが分配されます。

この結果は,本当に必要な人が自動車を購入し,道路を使用することになります。市場メカニズムによって道路需要と道路供給がバランスすることが期待されます。

市場メカニズムを利用して渋滞という外部不経済を解決することを,外部不経済の内部化といいます。とはいえ,上の事例でも述べたように上海以外で登録して上海市内で運転するということにもなりますので,この辺はナンバープレート入札制のシステムを改善する余地があります。

現状は各市で道路需要と道路供給をバランスさせるさまざまな取り組みがなされています。渋滞という外部不経済を政府による直接規制ではなく市場メカニズムを通じた解決が可能かどうか,社会主義市場経済の真価が問われるところです。

<参考文献リスト>
北京 自動車ナンバー別の走行規制を継続へ」『人民網(日本語版)』、2012年12月25日
中国4都市の自動車購入制限策を比較」『朝日新聞』、2012年12月25日

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*本記事はブログ「岡本信広の教育研究ブログ」の2013年2月9日付記事を、許可を得て転載したものです。


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