レーダー照射事件について中国側の“公式”対応がでた件について。

護衛艦 / keromako
■中国側公式声明がでるまでの3日間
大変な騒ぎとなったレーダー照射事件について、中国国防部が「射撃管制用レーダーは使っていない」と完全否定した。これで納得はできないが、日本側がちょっとやそっとの証拠を突きつけたぐらいでは中国側が認めるともおもえず、とりあえず収束というか、泥沼式の停滞が決まったように思える。
今回の事件については30日のレーダー照射から5日の小野寺五典防衛相の記者会見までなぜ6日間もかかったのかというのが1つの謎とされているようだが、日本政府が慎重に対応を検討したという説明にそんなに不思議は感じない。むしろ中国側公式声明が8日に出るまでの3日間という時間のほうが興味深い。
その間に中国外交部報道官が「報道で知った、主管部署に聞いて欲しい」と逃げ、そして本サイトで紹介してきたように環球時報など一部中国メディアに逆ギレ気味の反論が載るという展開もあった。
ちなみに中国外交部の回答をもって「中国政府はレーダー照射を把握していなかった」と報じた日本メディアもあったが、これはさすがにミスリードだろう。「主管部署に聞いて欲しい」は外交部記者会見ではしばしば出てくる逃げ文句であり、また人民解放軍は党の軍隊なので、国の機関である外交部が把握していなかったとしてもあまり騒ぐような話ではないのではないか。
話しを元に戻せば、中国側公式声明が出るまでの3日間とはなんだったのか、と考えるならば、ベストな言い訳を考えるまでの時間だったと言えるのではないか。

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■中国にとってのベストな言い訳とは
そこで中国にとってのベストな言い訳とはなんだったのか、という点を考えてみたい。ポイントは「何が書かれなかったのか」である。実は6日付環球時報に掲載された記事「賊を捕らえろと叫ぶ日本賊は中国海軍を侮べつした=挑発は完全な茶番劇だ」に公式声明に出てくる論点は網羅されている。
だったらこれをもう少し丁寧な口調に変えて公式声明にすれば良さそうなモノだが、実際の声明と比べると、ある危険要素が削られている。それは「艦の行動を妨害する相手に対して、砲塔を向けて狙いをつけたり、射撃管制用レーダーを照射して警告するのは国際的な慣例」という部分だ。
あと「日本側の目的は安倍首相訪米に向けての地ならしだ」という部分も欠けているが、「日本側の行動は警戒、熟考に値する」と匂わせる程度にとどめたとみるべきかもしれない。付け加えるならば、「日本側がしつこく中国艦艇を追尾、監視している」という話が強調されて主軸になっている。
下記に中国国防部の公式声明全訳を掲載するのでお時間がある方は眺めていただきたい。お時間のない方は読み飛ばしを推奨。なお日付は7日となっているが、実際にウェブサイトで公開されたのは8日である。
■日本艦、機の近距離追跡、監視こそが日中の海空安全問題の根源である
中国国防部公式サイト、2013年2月7日
日本防衛相が中国海軍艦艇が射撃管制用レーダーをで日本自衛隊艦艇、機に照準をつけたと指摘したという日本メディアの報道に対して、中国国防部ニュース事務局は以下のとおり説明する。
1月19日午後4時頃、中国海軍の護衛艦1隻が東シナ海関連海域で定期訓練を実施していたところ、日本自衛隊の艦載ヘリによる中国側艦艇への接近を発見した。中国側の艦載レーダーは正常な観察、警戒を続けたが、射撃管制用レーダーは使用していない。
1月30日9時頃、中国海軍艦艇が東シナ海の関連海域で定期訓練任務を実施していたところ、日本駆逐艦・ゆうだちが中国側艦艇の付近で近距離の追跡、監視を続けていることを発見した。中国側艦載レーダーは正常な観察、警戒を続けたが、射撃管制用レーダーは使用していない。日本側の、いわゆる中国海軍艦艇が射撃管制用レーダーで日本側の艦艇・機体に照準を合わせたという主張は事実に合致しない。
指摘する必要があるのは、近年、日本側の艦艇、機体はしばしば中国海軍の艦艇、機体に対して長時間の近距離からの追跡、監視を続けていることである。これこそが日中の海空安全問題の根源である。中国側は何度も日本側に交渉を申し入れた。
先日来、日本側は事実を歪曲し、中国軍の正常な戦闘訓練活動をあしざまに描く、事実に合致しない言論を流布している。今回もまた中国側に事実を確認しない状況で、一方的にメディアに虚偽の状況を公表した。日本政府高官の無責任な言論、“中国脅威”論の喧伝、緊張ムードの造成、国際世論のミスリード。これらの動向は警戒、熟考に値するものである。中国側は日本側は真摯に有効な措置を取り、東シナ海の緊張ムードを作り出す行為をやめ、無責任な言論を二度と発表することのないよう希望するものである。
■「レーダー照射は当たり前」と言い張らなかった理由言葉遣いが荒っぽすぎるとはいえ、6日付環球時報のコラムは公式声明の論点をほぼすべて抑えたものであった。それなのになぜ「射撃管制用レーダーを使って警告は当たり前」という論点だけは削られたのか。
日経ビジネスオンラインの記事「
中国人民解放軍は「アマチュア軍隊」」がその答えを示唆している。
火器管制レーダーを照射する行為はこれまでとは異質です。明らかにエスカレートしています。これは武力行使に至るわずか一歩手前の行為ですから。威嚇と理解していいでしょう。威嚇は、国連憲章第2条が禁止しています。国連憲章は「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも(中略)慎まなければならない」としています。
レーダー照射はさらに、西太平洋海軍シンポジウムが作成した海軍間の紳士協定「CUES(Code for Unalerted Encounters at Sea)」にも違反します。このシンポジウムは日本、中国、米国、韓国のほか、ロシアやASEAN(東南アジア諸国連合)の海洋国家が参加するもの。CUESは、平時において、不測の事態を避けるための行動基準を定めています。艦船同士が保つ距離など具体的なことを規定しています。この中で、レーダー照射を禁止しているのです。
中国も参加するシンポジウムで射撃管制用レーダー照射の禁止を明確に規定しているというのだ。こんなものがあったのではとてもベストな言い訳には採用できない。というか、この規定を中国海軍の人はあまりよく知らなかったのではないか、だから真っ先に出てきた反論でも「レーダー照射は当たり前」という暴論を載せてみたのではないか、とまで想像してしまう。
■誰がレーダー照射を指示したのか
今回のレーダー照射事件で、一番気になるのは一体誰の意志だったのかという点だろう。中国政府、共産党指導部のお墨付きとなれば恐ろしいし、逆に末端(といってもせめて艦長クラスだろうが)の暴走という話になればもっと恐ろしい。
さあどっち、ということでいろんな方が論を展開しているわけだが、今回、公式声明が出るまでのごたごたを調べていて思いついたのはもう一つの可能性だ。人民解放軍海軍も我らが海上自衛隊も、そして米軍も平時は平時で追尾してみたり、監視してみたり、データ取りしてみたりとさまざまな追いかけっこをやっているわけだが、そうした時にもエスカレートしないようにという紳士規定がある。それをあまり理解していない人が中国のみなさんの中にいるのではないか。
いけないことと知りつつレーダーを照射したのではなく、環球時報の記事に書かれていたとおり「追尾がうっとうしかったから、射撃管制用レーダーを照射してがっつり警告してやったわ、まあ国際的に当たり前のことだけど」という発想だ。まあこの想像が当たっていたとしても恐ろしいことに違いはないのだが。
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現場の艦長が指示したんだとすれば、要はあの漁船のオヤジと同じレベルなんだと思う。