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米紙の煽り記事でちょっと厄介なことに=安倍首相インタビューと中国の反発

2013年02月22日

ワシントンポストの煽りタイトルを知ったら中国が怒っているのも理解できるかもしれません。


追記、修正しました。元のバージョンはこちらのウェブ魚拓でみられます。

National Diet Building
National Diet Building / Dick Thomas Johnson


■安倍首相インタビュー騒動


21日、米紙ワシントンポストは安倍晋三首相のインタビューを掲載した。で、これが掲載されるや中国メディアは強く反発し、中国外交部報道官が「驚がくさせられた。一国の指導者がこのように公然と隣国を批判し、地域の対立をあおるのはめったにない」と批判する騒ぎに(読売新聞)。

なお日本の菅官房長官は22日午前の記者会見で、中国政府が安倍首相の米紙ワシントン・ポストのインタビューを批判したことについて、「中国国内で報道、掲載された首相のインタビュー記事は、首相の実際の発言を正確に引用していない。誤解を招くものとなっている」と応対している(読売新聞)。


■ワシントンポストの記事

さてこのやりとりだが、私もワシントンポストを見た時にこれはいいのかな、とちょっとびっくりした。ワシントンポストのタイトルと第1段落は次のとおり。

Japan’s Prime Minister Shinzo Abe: Chinese need for conflict is ‘deeply ingrained’

China has a “deeply ingrained” need to spar with Japan and other Asian neighbors over territory, because the ruling Communist Party uses the disputes to maintain strong domestic support, Japanese Prime Minister Shinzo Abe said in an interview. 

安倍晋三日本首相、中国の紛争の必要性は“深く根付いたもの”

日本やその他アジアの隣国と領土をめぐってがたがた文句を付けていますが、それは中国にとって必要なものであり、“深く根付いたもの”であります。なぜならば、中国を統治する共産党はこの議論を利用して、国内の強い支持を維持しているからです。安倍首相はインタビューでこう述べた。


■中国側が怒ったわけ

「中国は社会不満をそらすために尖閣で強硬姿勢を見せている」というのはありがちな話だが、それを安倍首相がしたもよう。加えて「深く根付いたもの」(deeply ingrained)と表記、中国語では「根深蒂固」と訳されているようだが、たんなる政策を超えて、政党や国、民族の性格を示すようで、人種差別的な印象も受ける。

「日本の右翼政治家が人気取りのために右的政策を採用する」と批判するのは中国の十八番。で、それを安倍首相にやられてかちーんと来たという寸法だ。人民日報も新華社も日本相手に同じことを言っているやないかと思うか、胡錦濤も習近平も言っていないことを安倍さんが言うのはいかがなものか、と考えるかは読者の皆様に判断をゆだねたいが、ワシントンポストのタイトルが激しく煽っているものであることは抑えておくべきだろう。

他にも中国との対抗上アジアにおける米軍の役割は決定的と話している点など、中国絡みのポイントは他にもあるが、中国メディアが瞬間湯沸かし器的に反応したポイントはタイトルと第一段落の部分であることを指摘しておきたい。


■ワシントンポスト記事は日本にとって厄介なネタになるかもしれない

「中国は国内の不満をそらすために尖閣話を騒ぎ立てており、それは“深く埋め込まれたもの”(=中国の体質)」というワシントンポストのタイトル及び冒頭の一段落は、安倍首相インタビューで中心的に話された話題というよりも、むしろ揚げ足をとられたというか、ごく一部の話だったのではないだろうか。安倍首相は就任後、きわめて冷静に失言を避けてきた印象があるからだ。

つまりワシントンポスト煽りすぎというのが私の印象だが、日本にとってはいささか厄介な話である。‘deeply ingrained’が人種差別的な意図を持っていたという話が一番困る展開だが、そうでなくとも「安倍首相という人物はやっぱりエキセントリックなタカ派なんやな」という方向に話が流れるのも問題だ。

米国の中にも尖閣問題や南シナ海問題など、中国の領有権紛争に関与せざるを得ないという立場もあれば、下手すれば武力衝突に発展しかねない尖閣にはあまり頭を突っ込むべきではないという立場がある。

日本としては中国のルール破りを見過ごすほうがダメージが大きく、多国間で協調して中国に抑制を促すべきという話で、米国を巻き込みたいところ。日本の首相がエキセントリックな強硬派で、日中の対立をいたずらに煽っているという印象は避けたいところだ。

なお21日、日本各紙もワシントンポストのインタビューについて報じていたが、この過激なタイトルについて報じたところはなかった。というか、いまだに見当たらないので、日本メディアの報道を見ても、中国が何を騒いでいるのか、さっぱりわからないのではないか。

■追記

中国のネット掲示板に面白い書き込みがあったのでご紹介。本記事で訳した部分を引用した上で、

だいたいのところ、安倍が言っているのは事実。でも、日本の首相なのに中国の統治者の悪い点を直接指摘しちゃうと、中国の指導者はきまずさを感じてしまうだろうね。

(…)思うに安倍は中国人のメンツ大事という性格をよく理解していると思う。ただこの例で中国の領土拡張の野心を隣国が不安に思っていることを示せると思ったのだろう。だけど、(習近平を)皇帝の御服を来た子ども扱いするべきじゃない。この手の公然の秘密を暴露されるのは中国政府にとっては、中国に領土拡張の野心があると言われるよりももっと許せないことだから。日本メディアや(首相より)下級の官僚が言うならばいいけどね。でも今は最高級の指導者が言うべきタイミングじゃないだろう。こうなると、外交上の転換の余地は大きく減少する。おそらく、ここ最近の日本の外交的努力の成果は消えてなくなってしまうだろう。

トラックバック一覧

  1. 1. 「プロパガンダ」を以て「プロパガンダ」を制す

    • [海国防衛ジャーナル]
    • 2013年02月23日 01:56
    • ニュースサイト『Kinbricks Now』さんが興味深い記事を書いておられます。米紙の煽り記事でちょっと厄介なことに=安倍首相インタビューと中国の反発(Kinbricks Now)事のあらましは、安 ...

 コメント一覧 (8)

    • 1. アジア人より
    • 2013年02月23日 02:10
    • 現役の中国人民軍の幹部である羅援少将が「戦争が始まれば、東京を空爆する」と国際法違反である民間人虐殺を堂々と宣言しているほうが問題だと思うんだが。
    • 2. Chinanews
    • 2013年02月23日 02:36
    • >アジア人より さん
      確かに中国の軍事系テレビ番組、新聞記事の発言は目に余るものがありますね。読んでいてがっかりすることもしばしば。

      ただ首相という日本のトップが発言した場合の重みは計り知れないのではないでしょうか。安倍首相もそのことはよく分かっていて、ワシントンポストが見出しにつけたような過激な表現はしていなかったようです。
    • 3. モテモテJAP
    • 2013年02月23日 11:24
    • 本当のことを指摘しているだけのように見えるのですが、中国から見るとブッシュ大統領の「悪の枢軸」発言のように映っているということでしょうか?

      中国人は本音ではアメリカが大好きだと思いますが、そのアメリカのメディアで日本の首相に悪者呼ばわりされて恥をかかされたみたいな感覚??
    • 4.
    • 2013年02月23日 20:26
    • 中国側はずっと昔から、日本に対して上の人間も下の人間も好き勝手に罵れたし、むしろ日本を罵ることが愛国的で素晴らしいかのような状態。

      逆に日本では最近まで、誰もそれを口にすることができなかった。
      上の人間も一般の人間もマスコミも、中国に異様なまでに気を使っていた。

      中国が言う、上の人間までそれを言ってはいけないというルールは日本には無茶な注文かも。
      勝手な言い草に見える。
      日本人は上の人間も一般人もマスコミも中国の我儘に我慢し続けて限界に来ている。だけどいまだに言いづらい雰囲気がある。
      中国の言いなり脅されっぱなしで金だけ取られる、という状況を打破する方法を探している。

      あと非常に気になるのが、
      中国共産党は、下の人間がやったことだから何やっても良いという勝手なルールで好き勝手横暴やり過ぎじゃないかな。
    • 5. アジア人より
    • 2013年02月23日 22:26
    • いつもストレス解消のために日本を殴って楽しんでいた中国としては、サンドバック状態で抵抗しなかった日本(いじめられっ子)が、突然反撃してきたらキレるのは仕方ないと思う。
      いじめっ子の心理を考えよう。
    • 6. Chinanews
    • 2013年02月24日 16:15
    • >モテモテJAPさん

      内容というよりも、首相自らの批判というところが大きいと思われます。またWP紙のタイトルが中国は紛争を欲しているという性質を持つ的な意味で、平和的台頭を旗印にしていた中国としてはかちーんと来るのでしょう。


    • 7. Chinanews
    • 2013年02月24日 16:17
    • >中国側はずっと昔から さん

      確かに中国は自分基準で話を進めていて、それを他の国に適用するのはちょっと勘弁という印象もありますね。
      とはいえ、話をしなければ中国を変えることも出来ないわけで、中国と対話のラインを保ちつつ、言うべきことを言っていくという難しいバランス感覚が試されそうです。
    • 8. Chinanews
    • 2013年02月24日 16:18
    • >アジア人より さん
      いじめっ子の心理w まあ、それは正直あたっているような気も。米国とか欧州とか人権やら貿易やらでこまめに中国にあれこれ言っているわけですが、そこまで大きな問題にならないという。日本もお小言を言える体制を構築できるといいのですが。

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