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福島香織『中国「反日デモ」の深層』扶桑社新書、2012年12月
■革命が起きそうに見えないことと危険な火種の共存
今、中国に革命が起きると思うか?
そう聞かれてイエスと答える中国の専門家はそうそういないだろう。2011年、いわゆるジャスミン革命が世界に、そして中国に広がるのではないかと取りざたされていたころであっても、懐疑的な人が多数を占めていたように思われる。
中国政府は強力な統治を確立しているだけではなく、また住民生活を向上させてきた。「ちょっとやそっと給料が上がったって物価高でパー。不動産、教育費、医療費の値上がりを考えたら生活は苦しくなる一方やで~」「水と空気の汚染を代償にした成長なんて意味がないんやで~」「豊かになっているのはごく一部の偉い人だけなんやで~」という庶民の不満がよく報じられるが、それをそのままの意味で受け取っては中国の現状を誤解することになるだろう。中国の民草の暮らしを眺めて見れば、結構楽しくやれている人も、前よりいい暮らしができている人も増えていることに気がつくはずだ。
中国に今すぐ革命は起きそうには見えない。だが、その一方で「では改革に手をつけなければ致命傷になりかねない問題は中国にはないのか?」との問いを発したならば、答えはノーだろう。処理を間違えれば大問題に発展しかねない課題が山積しており、くすぶっている火種のにおいに中国政府は敏感に反応しているというのが現状ではないだろうか。
福島は中国の革命、体制転換について、常々「絶対に起きないなんて言えない」と発言。中国の不安要因について取り上げてきた。本書『中国「反日デモ」の深層』でもまた、危険な香りの根源である中国の社会不満と中国政府の対応に焦点を当てて、中国の先行きの不透明さを読み解いている。
■本書の構成
本書は日経ビジネスオンラインの連載「中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス」をもとに構成したもの。章立ては以下の通り。
第1章 迫害される反体制派たち第2章 中国に“革命”は起こるのか第3章 熾烈な政治暗闘第4章 “反日デモ”の実態
第1章では人権活動家、作家、人権派弁護士に対する弾圧を取り上げている。第二章では中国ジャスミン革命、チベットの焼身抗議、烏坎闘争などを題材に、実際に起きた政府と民草との衝突を取り上げている。第三章は少し毛色が変わって薄熙来事件について。第四章は啓東市の環境デモと尖閣国有化問題後の反日デモをその参加者について触れながら紹介している。
■最も敏感に危機を感じているのは中国政府
その中でも白眉は第2章だろう。中国ジャスミン革命、チベットの焼身抗議、烏坎闘争、あるいは2011年末の民主論争。ここで取り上げられている事件は今すぐ中国の体制を揺るがすものではないが、中国が抱えている火種のありかを如実に示すもの。本書は事件の概要を伝えるとともに、中国の先行きを不安に感じさせる空気を描き出している。
またもう一つ、強調してしかるべきは危険な香りのする火種にもっとも敏感なのは中国政府にほかならないという点だ。例えばいわゆる中国ジャスミン革命というネット事件はツイッターの匿名アカウントから発せられたたった一つのつぶやきがきっかけで、ネットではそれなりに話題となったものの、現実にはたいした事件らしい事件は起きていない。しかし中国政府は膨大な数の警察力を動員し、無関係とみられる「ネットのオピニオンリーダー」ら100人以上を拘束した。
まさに中国政府自身が行動をもってして、「革命が絶対に起きないなんて言えない」という福島の見方に同調しているように見える。
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