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赤ちゃんを助けよう!乳児誘拐殺害事件で中国人が見せた「暖かさ」から“ネットの力”の限界を考えた

2013年03月06日

吉林省長春市の自動車窃盗・乳児誘拐殺害事件で人々が見せた「暖かさ」について。


■事件の経緯

中国のネットを眺めていると、中国の長春市長春市の自動車窃盗・幼児誘拐事件に関する記事や書き込みが多いな……とぼんやり気づいていたのだが、リアルタイムでは追いかけていなかった。が、気づけば両会を超える中国ネット民の一大関心事となっていたという。

自動車窃盗・幼児誘拐事件が発生、ネット通じて支援の輪広がるも悲しい結末に―吉林省長春市
レコードチャイナ、2013年3月6日

事件が起きたのは4日早朝。あるスーパーの経営者が生後2カ月の赤ちゃんを連れてマイカーで出勤。仕事場が寒すぎるからとエンジンを付けたまま、先に車を降りた。ストーブを付けた後戻ると、わずか10分の間に赤ちゃんを乗せた車は盗まれていた。 

通報を受け吉林市警察は1万人近い警官を動員し捜索を始めた。またこの情報がメディアやネットを通じて広がり、タクシー運転手や一般市民もボランティアとして捜索に協力し、市内には協力している合図であるハザードランプをつけた車であふれかえった。 

5日早朝、吉林省四平市公主嶺市で盗まれた車が乗り捨てられているのが発見されたが、車内に赤ちゃんの姿はなかった。同5日午後7時50分、吉林省警察はマイクロブログを通じて窃盗犯が自首したことを発表した。 

犯人は周喜軍(ジョウ・シージュン、48歳)。車を盗んだ後、後部座席に赤ちゃんが乗っているのに気がつき、絞め殺した後に遺体は雪の中に埋めたと供述している。

20130306_写真_中国_乳児誘拐_
*画像は吉和網。ハザードランプを付けながら走行するボランティアの車。

■劇場型事件とヌクモリティ

たんなる自動車窃盗・乳児誘拐事件ではなく、事件の推移がリアルタイムで報じられ、市民もボランティアとして捜索に参加したり、ネットで情報提供や協力を呼びかける声が出回る劇場型事件となったことが注目を集めた要因だろう。

京華時報の報道によると、事件発生から3時間後の4日午前10時、吉林省警察は記者会見を開いたほか、吉林省地元メディアを中心に情報提供を求める報道が流され、ホットラインも開設された。数百人ものタクシー運転手が仕事をやめて捜索に協力したほか、ネットで情報提供を呼びかけたりあるいは捜査の邪魔にならないよう盗難車と同じ銀色のRAV4は私用を控えるよう呼びかけられたりしたという。

京華時報は「自動車窃盗・幼児殺害事件における怒りと暖かさ」と題したコラムも掲載。赤ちゃんを救おうと立ち上がった人々が、不幸な出来事の中でも心をなぐさめる暖かな光になったと評した。


■中国人は冷たいのか、それとも暖かいのか

中国では、「もはや善の心はないのか!この中国砂漠」と嘆くパターンの事件が話題になることが多い。その筆頭が2011年に2歳児が車にひかれながらも通行人が見て見ぬ振りをして通り過ぎていった悦悦ちゃん事件だろう(関連記事)。

その一方で今回のような話もあったり、あるいは2008年の四川大地震での80後(1980年代生まれ)の若者のボランティアが話題になったりして、「中国人にも善の心はあるんやで!」「中国の若い世代は変わったのだ!」云々と盛り上がるパターンもある。

もちろん私も心温まるパターンの話は大好きなのだが、えんえんと中国のニュースを眺めてきた経験から「すべては話題の作り方なんだよな……」と達観している部分もある。赤ちゃんを救うために無償で捜索に協力した人々の義侠心を素直に讃える気持ちとともに、誘拐されても人々の関心をまったく集めることのなかった誰かについてどうしても考えてしまうのだ。

きっと今回の事件を例に長春市のタクシー運転手やあるいはネット民の義侠心を絶賛する報道がぞろぞろでてくるのだろうが、しかし結局は長春市警察が初動捜査の段階から記者会見を開き、メディアを使って市民、ネット民を巻き込むという選択肢を選んだことから生まれた「暖かさ」なのだ。中国で子どもの誘拐、失踪事件などはいくらでもある話だが、結局マスコミが盛り上げなければ「暖かい」運動は起きはしない。

20130306_写真_中国_乳児誘拐_2
*5日夜、長春市。ろうそくを灯して追悼する人々。

■ネットの力

ネットの力を使って注目を集め、問題を解決しようという動き。犯罪事件に限らず中国ではよく見る風景だ。人権活動家の釈放から汚職官僚の追求、村の土地争いの解決まで、ネットの力が武器になるのではないかと期待をかける人は多い。しかしえんえんと中国を眺め続けていると、爆発的に注目を集める契機となるのはマスコミの報道であることが多いこと、報道が続かなければネットの力はすぐにしぼんでしまうことに気がつく。

だから良いとか悪いとかいうつもりはないが、期待を持って語られるネットの力も実はきわめて有限であること、注目を集められるかどうかはマスコミにとりあげてもらえるようなチャネルを持っているか、あるいはそういう運を持っているかということが大きいということはもっと知られてもいいように思う。

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 コメント一覧 (3)

    • 1. ahaha-man
    • 2013年03月06日 19:38
    • 中国人の損得以外での行動基準は、人がやるから自分もやる。やらないから自分もやらない。基本は赤の他人に無関心。
    • 2. あ
    • 2013年03月07日 10:48
    • 流行りのネタに乗る娯楽として参加するのですから、善くも悪くも話題性が重要です
      ネットは持続力はないが爆発力はありますね
    • 3. Chinanews
    • 2013年03月07日 14:04
    • >あ さん
      コメントありがとうございますね。

      おっしゃるとおりですね。そのため政府なんかは「とりあえずやりすごせば、後はどうにかなる」という対処法が確立してきたようなイメージが……


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