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クリエイターの逃げ場となった中国の「抗日戦争ドラマ」=“抗日”というビジネス

2013年03月07日

「業界のクリエイターは誰も政策の風向きを分かっていません。今は抗日戦争ドラマに身を潜めて隠れるしかないのです。」抗日戦争ドラマを作り出す中国の”政治”と”資本”の論理について。
 


中国魅録―「鬼が来た!」撮影日記

■はじめに


最近、中国で話題になっていたのは「抗日戦争ドラマが多すぎる」という話。昨年、主要テレビ局でゴールデンタイムに放映されたドラマ200本あまりのうち、抗日戦争ドラマが70本超を占めていたという。また抗日戦争ドラマのメッカ、横店映画城では同時に50作品もの抗日戦争ドラマが撮影されている、日本兵役として引っぱりだこの凶悪な人相の俳優は最大で1日8回も死ぬシーンをとった……などなどのエピソードも紹介された。日本メディアでもたびたび報道されたので、目にした人も多いのではないか。

なぜこれほど多くの抗日戦争ドラマが撮影されるのか。プロパガンダのため、愛国教育のため、中国政府が撮影させているに違いない……と思う方もいるかもしれないが、話はそう単純ではない。

中国のドラマ検閲はきわめてややこしい。政府批判の作品がダメなのはもちろんのこと、民草を正しく導くような作品でなければダメ。視聴者をバカ者にしてしまうような作品を厳しく取り締まるのが、慈悲深き父親たる共産党のやり方だ。

こうした政治の論理を踏まえた上で、利益をあげる資本の論理を満たさなければならない。この両者を満足させる選択肢として、抗日戦争ドラマが人気を集めている。アイドルドラマをとっていた人も、ファンタジーを撮っていた人も、ドラマ業界の人々が、作品を作り続けるために抗日戦争ドラマというジャンルに流れ込んでいく……。

エロシーンだけとれば後は好きにとってよかったという枠組みで多くのクリエイターを育てた日活ロマンポルノを彷彿とさせる展開だ。その状況を南方週末が報じているので、ご紹介したい。長文のため、記事前半部分のみを紹介する。


■“抗日”というビジネス ”横店抗日根拠地”はいかにして開拓されたか?
 南方週末、2013年3月7日

◆中国のテレビを”統治”する抗日戦争ドラマ

ドラマ「亮剣」から8年、プロデューサーの万栄は再び栄誉に輝いた。2013年3月、同氏の女性抗日戦争ドラマ「殺狼花」は江蘇衛星テレビの年間視聴率トップなど4つの賞を獲得した。本作は各地で視聴率トップを獲得している。万栄にとっては、これが抗日ビジネスにおける初めての成功というわけではない。ドラマ「亮剣」によって、万栄は抗日戦争ドラマブームの第一人者と呼ばれるようになった。

「もっともこれが自分の一番やりたいこと、というわけではありません」と彼は本紙記者に語っている。もっともやりたいことではないとはいえ、彼は抗日ビジネスの秘訣をよく心得ている。2011年、「新亮剣」の宣伝時、万栄はパンフレットに大きくこう印刷させた。「国恥を忘れるな!我が中華を愛す!釣魚島は中国の領土!」。今後、さらに多くの抗日戦争ドラマを制作する予定だ。

今、抗日戦争ドラマが中国のテレビを”統治”している。2012年、中国主要テレビ局のゴールデンタイムに放映されたドラマは200作品あまり。そのうち抗日戦争ドラマと戦争諜報ドラマは70本を超える。また2012年に認可された近代を舞台としたドラマは303本。そのうち革命物が過半数を占める。大多数は抗日戦争ドラマだ。「抗日奇侠」「永遠に摩滅することのない番号」など、近年の成功作品は投資額に対して200~300%のリターンをあげている。


◆横店映画城

無数にある抗日戦争ドラマだが、そのかなりが「中国のハリウッド」浙江省横店映画城で誕生している。2012年、同地は150もの撮影グループを受け入れたが、うち48が抗日戦争ドラマ関連だったという。抗日戦争ドラマの撮影者たちは毎日、横店にある13の撮影拠点で押し合いへしあいしながら、同じようなテーマの作品を倦むことなく作り続けている。

このにぎやかな抗日戦争ドラマのOEM工場の背後には、成熟した営業・販売生産チェーンと、正義の愛国ビジネスという舞台がひかえている。それは文化のトレンドと資本の追求とによって生み出された産物であり、世の中の特殊な趣向と歴史観に由来するもの。たんなる娯楽の世界とはまったく異なるものだ。

スタントマン歴10年の範景涛だが、今になってこの仕事が血まみれだという意味を本当に理解した。横店での給料は1日200元(約3000円)。日に平均20回は死亡する。弓で射られて地面を転がったり、ピストルで撃たれて2メートルも吹き飛んだり、あるいは狙撃銃で撃たれたり、大砲で吹き飛ばされたり……。

もっと悲惨に死ぬために体に20以上も弾着をつけたこともある。血のり袋はコンドームを使っている。血のりが全身に飛び散ると、顔も口もコンドームの破片が張り付く。最も危険な時は爆破地点の真上に立たされそうになったこともあった。

男性スタントマンが不足しているため、範は毎日、頻繁に役柄を交換している。編集後のドラマを見ると、八路軍の軍服を着た範が対面の陣地にいる日本兵の範を吹き飛ばしているというシーンすらある。


◆時代劇のメッカから抗日戦争ドラマ根拠地への転換

横店はもともと浙江省金華市の辺鄙な村だった。1996年、映画「アヘン戦争」の撮影で有名になり、その後の17年間、巨大な撮影基地の建設によって世界的な映画城と呼ばれるまでになった。

かつて横店は古装劇(時代劇)のドリームファクトリーだった。中国の時代劇の3分の1はここで制作されていたのだ。しかし2005年の抗日戦争勝利60周年の際、「亮剣」などの抗日戦争ドラマの成功に伴い、抗日戦争ドラマへの投資が最も安定してもうかるビジネスだということがわかった。

横店はその好機を逃さず、転換に成功した。広州街、香港街など中華民国期のセットを整備し、出資者や撮影者たちの人気を勝ち得た。洋行(外国人の商社)、酒館、銭庄(銀行)、客桟(旅館)、村、軍営……ここでは”歴史”の再構成に必要なすべてが提供される。もちろん屋根から屋根に飛び移るシーンも市街戦もそして掃討戦もなんでも撮影できる場所がある。

実のところ、横店はたんに充実した道具とリアルなセットだけを提供しているだけではなく、抗日戦争ドラマ・ブームに直接参加している。2008年、横店集団は浙江横店影視制作有限公司を設立、「窯火」「箭在弦上」「狼烟遍地」などの抗日戦争ドラマに投資、または直接制作している。


◆中国ドラマの人気ジャンル変遷

横店が「抗日根拠地」となる前、中国ドラマのテーマはさまざまなジャンルを転戦していた。2002年から2003年にかけて、「黒洞」「大雪無痕」が奇跡的な視聴率を叩きだし、2004年には「重案六組」が大成功を収めた。当時は裁判ドラマこそがもっとも人気のジャンルだった。絶好の投資先となったこのジャンルに制作会社も注力していたが、しかし人気のピークに転換点は訪れた。2004年、「ドラマ審査管理規定」が通達され、同年から裁判ドラマはゴールデンタイムでの放送が許可されなくなった。

現代の事件が解決できないとなると、今度は古代の人物が甦ってきた。2005年から時代劇が人気となったが、例えば「大宋提刑官」では1000年前の「世界法医学の父」が主人公。やっていることはやはり事件の解決だった。

古代の人々がクレイジーなペースで事件を解決するのも1年で終わりとなった。2006年、時代劇の放送も制限されたのだ。規定では毎年放映されるドラマのうち時代劇は10%までと帰省された。地方衛星テレビ局は毎晩のゴールデンタイムで放映できる時代劇は2話まで。この規制により同年の時代劇撮影数は9本にまで激減した。

だが2006年、全国のテレビ視聴者たちは敵のスパイを見破る中国共産党の「安在天」の活躍に釘付けとなった。ドラマ「暗算」は時代劇の後にスパイドラマ・ブームを巻き起こしたのだ。そしてスパイ対策物のピークは孫紅雷と姚晨が出演した2008年のドラマ「軍統」とともに到来した。スパイドラマ、スパイ対策物のドラマが次々と作られ、ゴールデンタイムにテレビを付ければ、どのチャンネルでも諜報員たちがその智慧を競っていた。

2009年、スパイドラマ、スパイ対策物、情感劇(恋愛物、家庭物など)は「格調が低い」「社会の価値観を混乱させる」と批判され、人気ジャンルから脱落した。


◆抗日戦争ドラマが最も安全だ

この数年の業界の移り変わりを見てきた横店影視制作有限公司の劉志江董事長はこう回顧する。新たな作品に投資するたび、同氏は関連する政府部局の幹部に対して、政策について子細に質問してきた。そうした結果、最終的に抗日戦争ドラマが最も安全だという結末に達したのだった。

脚本家や監督たちも4年前の「亮剣」人気を思い出し、再び抗日戦争ドラマに戻ってきた。こうして「我的団長我的団」「我的兄弟叫順溜」が誕生し、投資家たちも抗日戦争ドラマも認めるようになった。2007年からというもの不動産市場も株式市場も低調だったため、多額の資本がドラマ業界に流入してきた。しかし素人の彼らにはこの業界は理解できない。スパイ物が人気だと思えばスパイ物ばかり作り、抗日戦争ドラマが人気だとなればこのジャンルに殺到する。どのドラマも1人か2人、スターをあてがえば十分だ。こうして有象無象の抗日戦争ドラマの群れが誕生した。

「弓矢で日本鬼子の機関銃に立ち向かう」のが売りの箭在弦上だが、その脚本・プロデュースを手がけた九年は本作以前は「宝蓮灯」「魔幻手機」などのファンタジードラマしか作ったことがなかった。「向着炮火前進」に主演した呉奇隆はアイドルドラマでスターダムにのしあがった訳者。監督の林建中は台湾出身だが、武侠物の出身だ。

「業界のクリエイターは誰も政策の風向きを分かっていません。今は抗日戦争ドラマに身を潜めて隠れるしかないのです」と脚本家の九年は言った。

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 コメント一覧 (2)

    • 1. あ
    • 2013年03月08日 14:50
    • 昔、香港映画はとても面白くて人気あったのに。ジャッキー・チェンも変な政治広告塔になってしまって残念です。
      抗日とか言っているみたいだが、反日プロパガンダ。
      中国人は誰も見てないとか言ったりするが、なんだかんだ見るのは好きだし、そこに見られる表現を当たり前のものとして受け入れているから全く信用できない。
    • 2. ahaha-man
    • 2013年03月08日 16:50
    • 検閲が悪いのか、中国人の根性に問題があるのか、どっちかと言えば、後者に原因があるような。

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