中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2013年03月12日
3rd Best Book about China - Mao: The Untold Story by Jung Chang / China Books
■小妖UU氏のつぶやき
今日、ある編集者の友人から本を書くにあたっての注意事項をもらいました。お上の新規定だそうです。高富師(背が高い、金持ち、イケメンの男性)や白富美(色白で金持ちで美人の女性)、それに若者の恋や同性愛とか全部ダメなんだって。第8条を見た時、ファンタジー書いてなくて良かったとこっそり喜びました。だって超能力、霊力、転生、再生、輪廻、仙人修行とか唯心的概念はダメって書いてあるので……う゛ぇぇぇ。みんなこの新政策を見て、裏のかき方を教えてよ!
【どうやって裏をかく?】
最近、中国共産党中央指導者は現在の青春文学、とりわけ校園文学の不良傾向と不正確な方向について重要な指摘をし、国家出版管理部局の注目を呼び起こした。各出版機関は正確な出版方針を堅持し、青少年読者に積極的かつ健康で精神が向上するような優秀な出版物を提供するよう、要求する。
以下を出版機関の制作に関して重要な参照物としていただきたい:
1:出版関連の法律法規、関連規定を深く学び理解し、仕事の中で自覚的に貫徹、運用すること。
2:正確な出版方針を堅持し、優秀な作品によって、人を訓育し導き、中華の美徳を伝え、社会主義の核心的価値観を強化し、公民の道徳教育を強化し、主旋律(中国共産党が主導する主流文化)を発揚すること。
3:出版人の責任感と使命感を強化し、青少年の成長のため、積極的かつ健康な優秀図書を提供し、彼らの成長のために良好な雰囲気を作り上げる。
4:すばらしい着想を持ち、高い文学性を有し、全体的なレベルが高い作品を作り、適当に作った奇抜な作品の粗製濫造を防ぐ。
5:正確な方針を持つ。正確な価値観、人生観を打ち立て、作品を積極的に向上させる。その作品は主流文化を反映したものであり、青少年の成長を誤らせる非主流要素が多すぎる作品の出版を途絶する。高級車と美女、高富師など俗悪なストーリーが青少年に良からぬ影響を与えることを防がねばならない(ラブストーリーはどうやって裏をかいて書く?!)。自立自強、進取、勤労など真実の中華の美徳を提唱するべきだ。
6:青少年の反伝統・反逆の性格に迎合すること。非主流文化の要素で読みどころを作すること。テーマや内容、人物設計の分野で主流文化から離れること。悪影響を考えず、いんちき、人をあざ笑う、風刺、ナンセンス、過剰な誇張、規範に外れた、厳粛ではない……などなどの表現が書籍や広告に登場すること。これらが読者に与える影響、暗示は不利益なものであり、途絶するべきものである。
7:若者の恋愛、同性愛は取り上げるべきではない(耽美小説はどうやって裏をかいて書く?)
8:一部のファンタジー小説は健康的な尺度に配慮するべきだ。超能力、霊力、転生、再生、輪廻、仙人修行など唯心的観念の宣伝は防がなければならない(どうしよう!この手の要素がなくてどうやってファンタジー小説を書くの?どうやって裏をかく?)。
9:ファンタジー小説は「強者こそ王、弱肉強食の処世哲学に反対し、人種概念の喧伝や権力崇拝の価値観念に反対しなければならない。社会正義や人間の良知を踏みにじるような作品を途絶しなければならない。低俗な内容、正しいことと悪いことを混交させているもの、読者、とりわけ青少年読者に対して悪しき影響のある作品を根絶しなければいけない。
■共産党のオッサンが校園文学に気づいてしまった……
「青春文学、とりわけ校園文学」に対する禁止令とのこと。ここで使われている校園文学とは学校で人気の通俗小説ぐらいの意味であり、具体的な禁止令の中身をみると、日本でいうSFや伝奇小説、さらにいうとラノベをイメージしているものだろう。
そも日本語のラノベ(=ライトノベルの定義とは)とか、中国語にはラノベの訳語として「軽小説」があるのではないか、とか考え出すと大変なのだが、実態として中国の学生さん向けにはアニメライクな表紙をつけた通俗小説が流行しており、本屋でも大きなスペースを占めている。オッサンが読むものではないが、なぜかその存在に気がついてしまった「中国共産党中央の偉い人」がいて、禁止令がだされた……という流れではないか。
小妖UU氏のつぶやきは編集者から見せてもらった通達であり、それが業界全体、すべての出版社共通の規約かどうかは分からない。このつぶやきにツッコミをいれた男生女生霊雪氏によると、同氏もこの通達を見たことはあるが、ある出版社限定の通達であり、機械的に他の出版社に適応されるものではないとのこと。ただし当局の政策動向を知ることができる資料だとコメントしている。
■蛇足
というわけで、この通達がどこまで破壊力を発揮するのかは分からないが、しかし中国の校園文学、ラノベがごっそりやられる可能性も否定できない。というのもドラマの前例があるからだ。ドラマの世界ではスパイ物や裁判物という人気のジャンルが次々とつぶされていき、「もうこうなったら抗日戦争ドラマしかないべ」という流れになった(関連記事)。
となると、「活路は中国にあり!」と、がんがんラノベの翻訳出版を進めている角川書店は大丈夫だろうか、と心配になってしまうところ。
ここはドラマ業界のひそみにならい、風辺りが厳しい時は抗日戦争ラノベを出版してはどうかとオススメしておく。小妖UU氏のつぶやきにしても、「どうすれば規制の裏をかけるか?」という考えで貫かれているところがすばらしい。「上に政策あれば下に対策あり」。規制をかいくぐったファンタジー小説、ラノベはどうなるのか、と妄想するのもちょっと楽しい。
というわけで、対抗上、「若き兵士・涼宮ハルヒの憂鬱」「ボクの妹は八路軍政治委員なので漢字が読める」「日本軍は衰退しました」「とある科学の超電磁砲で八路軍大勝利」あたりの出版準備を進めておくべきではないだろうか。
■追記
本文中にも書いたが、男生女生霊雪氏が「あくまで一出版社の通達」、(ネット小説規制の噂との書き込みを受け)「法律ではなくてあくまで一出版社の通達。しかもネット小説規制ではなくて出版された書籍を対象としたもの。ネットや雑誌を対象としたものではないデマを流さないで」と書き込んでいる。
本記事コメント欄でもマネさんから書き込みをいただいたので、追記しておく。小妖UU氏がネットにアップした通達は「青春文学、特に校園文学」を対象としたものとなる。なので杓子定規に解釈すれば、大人向けの武侠小説では今までどおり超常の力を駆使して戦えるが、学生向け小説では禁止という謎の展開になるわけだ。
また本文中でも書いた通り、この通達がある出版社限定のものだとするならば、どこまで広がりを持つかは不明である。ただし中国のメディア・コンテンツ規制はたんに反政府モノを取り締まるだけではなく、エロ、不道徳、邪教などなど多岐に及ぶもの。以前にはデスノートを取り締まる通達が出されたこともある。というわけで、偉い人がやる気になってしまうと、学生向け小説への規制が一気に進む可能性は十分に考えられるのではないか。もちろんその場合でもほとぼりがさめるまで待ったり、なにか抜け道を探して、似たような小説を出版していくことになるのだろうが……。
追記:
ブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」の記事「中国のラノベ禁止令というのは実質的にネット小説出版制限令のようです」が上記通達とその背景にある流れについて解説してくれています。
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男生女生灵雪: 这是国内某家出版社的“建议”,不是法律政策!更不会限制网络小说!只是针对出版的图书!不针对网络和杂志!
http://weibo.com/lingxuejiejie