中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2013年03月18日
Great Hall of the People 人民大会堂 / INABA Tomoaki
昨秋の十八大(第18期中国共産党全国代表大会)で党の新人事が決まりましたが、17日に閉幕した全人代で国の新人事が固まりました。十八大で予想以上の大惨敗を喫した胡錦濤の共青団(中国共産主義青年団)グループ。一部メディアは「全人代で共青団系が巻き返し」というムードで報じていますが、名前だけ立派でも実験や上がり目がないポストに回された例が目立ちます。
というわけで、全人代の閣僚人事を分析してみましょう。
■習近平の閣僚人事、目玉は周小川
2013年3月17日、両会が閉幕しました。中国政府の指導者が入れ替わる両会は10年ぶりです。閣僚は留任組が過半数。習近平も一期目はゆっくりと行きたいのだなとよく分かる人事でした。
留任組で目を引くのはやはり中国人民銀行総裁の周小川ですね。周は中央委員入りしていないのに正部長級の職についているということで慣例を破った異例の人事となります。周小川以外に適任がいないのか、2年ほどやらせた後ですげ替えることになるのか。
政協の委員名簿に名前があり、11日には政協副主席に選出されたので、引退モードかと考えていたのですが、行長に留任させるくらいですから、副主席のお仕事は恐らく出来ないでしょう。
周小川以外にも、万鋼科学技術部長、王正偉・国家民族事務委員会主任の2人の閣僚が政協副主席を兼任する事になっています。万鋼は致公党の主席(党首)ですから、科学技術部長は降りて、政協副主席の引退コースが既定路線なのだろうと考えていましたが、兼任にはどういう意味があるのでしょうかね。
政協副主席は、いわゆる「党と国家の指導者」の末席ですから、中央委員を党内規定により退かざるを得なかった周小川への厚遇と取ることも出来ますが。ただ、中央委員はしっかりと降ろさせていますから、政治局委員や常務委員の定年といった党内部の規定には影響はしないでしょう。
■知日派・王毅の外相就任
また、以前駐日大使を務めていた王毅が外相に就任したことで日中関係の改善を期待する向きや、中国の関係改善のシグナルだと見る向きがありますが、それはないです。副総理と国務委員の9人がそれぞれ担当する分野を持っています。外交担当は前外相の楊潔篪ですね。
そもそも重要な外交事案については常務委員会に委ねられます。胡錦濤の外交顧問を務めていたのが、現政治局委員の王滬寧らしいので、結局外相は単なる実務者に過ぎません。2005年に呉儀副首相が小泉総理(当時)との会見をすっぽかして帰国した事件がありましたが、呉儀の判断ではなく本国からの指示です。呉儀は当時、政治局委員。それほどの格があっても勝手な行動をする権利は与えられていないのです。
王毅が外相になったところで中国の対日外交方針がガラッと変わることなどありませんし、ありえません。通常の国家であれば外相は閣僚の中でもかなり高い地位にあるのですが、中国の閣僚はそういった事情を勘案すると次官補くらいだと考えていいと思います。
■共青団のエース・李源朝が国家副主席就任も港澳工作協調小組長の座はゲットできず
さて、本題へ。総理、副総理、国務委員、国家主席、副主席、全人代の正副委員長、全国政協の正副主席は人選は事前に予想されたとおりでした。
まず、国家副主席には常務委員入りできなかった李源潮(前・中央組織部長)が任命されました。以前から香港、マカオ担当になると言われていましたが、港澳工作協調小組長は張徳江が任命され、李源潮は第一副長として張徳江をサポートする立場となりました。
これまで曾慶紅、習近平が歴任しており、党中央の香港、マカオ工作を一手に担うポストであります。2人は李源潮と同じく国家副主席でしたが、2人は常務委員でもありました。ここで格下の李源潮に預ければ軽視と見られてしまいますから、最初からその選択肢は無かったのでしょうが。
国家主席など儀礼上国家のトップというだけであり、実権はほぼなし。プレジデントを名乗りたいだけに存在している気がしないでもないので、習近平が外遊で不在だからといって大したことも出来ませんし、李源潮は早くも5年後が危うい滑り出しです。
■胡錦濤の右腕・令計画の政協副主席選出に異例の数の反対票
胡錦濤の右腕と称された令計画については、改めて言う事もないと思いますが、政協副主席選出記念ということで。政治局委員、常務委員も、というのが昨年の今頃の評判だったのですが、その直後に子息が女連れでフェラーリを爆走させ、事故で殺してしまっています。
令計画は事件を隠蔽に走ったものの、薄熙来事件の直後とあって、現場周辺に車止めを設置するなどして封鎖させたことでクーデター騒ぎとなり、党内で相当批判を受けています。党大会を前に党中央弁公庁主任を解任され、党直属のポストとはいえ格下の統一戦線部長に配置換え。中央書記処は追い出されていますので、明らかに格下げとなります。
統一戦線部長はこれまで政協副主席を兼任してきていますので選出されるのは当然なのですが、全人代の投票では反対票が相次ぐという異例の結果に。
令計画:賛成2079、反対90、棄権22
賛成95%と政協副主席の中で断トツの低さです。2番目に悪かった陳元(陳雲の子息で、国家開発銀行董事長)の倍以上も反対票が入っているのです。
政協委員で梅蘭芳の息子である梅葆玖が「子供のしたことが、父親の大きな面倒となった。もしこの件が無ければ、こんな事にはなっていないだろう」と明報の記者に漏らしたそうです(RFI中文)。
■共青団の大物・周強も潰された
張徳江が常務委員入りするのが確実視されてから、副総理の後任に名前が上がっていたのが共青団の大物・周強(湖南省委書記)。ところが政治局入りすることができず、なんと最高法院院長(最高裁長官)という閑職に回されてしまいました。法学が専攻で、共青団中央入りする以前は司法部の司長まで行ってますので、適任ではあるのですが、ゴールが政協副主席と分かりきっているポストですから、周強は明らかに潰されました。
日経や毎日は「薄熙来裁判を控えて大物投入」としていますが、中央委員ごときに何が出来るのかと。そもそも上部機関である政法委員会の存在を無視していますし、薄熙来の処分は政治局以上で討論するような話題です。なぜ閣僚の人選だけでそうした期待が出来るのか、王毅の件も含めて理解できません。
胡春華、孫政才が政治局入りを果たしたのですが、周強も同じ第六世代の一角と見られていながらこの大惨敗、と書くべきでしょう。そもそも中央委員という時点でお察しレベルです。
■胡錦濤一派に明日はあるのか
胡錦濤の部下は汪洋が副総理、胡春華が広東省委書記を確保したとはいえ、その他が軒並み討ち死にした党大会と両会。汪洋にしても常務委員入りを逃していますし、決して本位とはいえない人事なのです。江沢民も鄧小平に比べれば大した事ありませんでしたが、胡錦濤はその江沢民に好き放題やられっぱなしだったわけです。果たして胡錦濤大先生とそのお仲間に今後、光はあるのでしょうか。稿を改めて考えてみたいと思います。
*本記事はブログ「中国という隣人」の2013年3月17日付記事を許可を得て転載したものです。
今後、辛亥革命のときのように広東あたりが改革派の策源地となる見込みはあるのでしょうか?