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「核心」になれなかった胡錦濤=習近平の褒め殺し演説で「完全引退」ムードへ(水彩画)

2013年03月19日

■「総書記」のまま引退した胡錦濤■


前回の記事「巻き返しはありませんでした……胡錦濤派の大物が次々潰された全人代新人事を読む(水彩画)」では胡錦濤の子分について、目も当てられない惨敗状況をご説明しました。それでは、親分の胡錦濤はどうなのか。習近平の褒め殺し攻撃が直撃、「徹底的に引退」という印象を満天下にさらす大敗北を喫しています。


■習近平の褒め殺し

2013年3月17日、中国全国人民代表大会(全人代)閉幕式で習近平が演説しました。以下は胡錦濤に感謝を述べた部分の翻訳です。

習近平「胡錦濤同志に心からの感謝と崇高な敬意を」(新華社 2013/3/17)

代表各位!中華人民共和国は栄光の道のりを歩んできた。毛沢東同志を核心とする第一世代の中央指導者集団、鄧小平同志を書く浸透する第二世代の中央指導者集団、江沢民同志を書く浸透する第三世代の中央指導者集団、胡錦濤同志を総書記とする中央指導の下、全国各民族は心を合わせて協力し合い、道路上の各種の困難な障害に勝利し、世界中が目を見張るべき輝かしい成果を得た。

今日、我々の人民共和国は世界の東方に意気揚々と屹立している。

胡錦濤同志が国家主席を担当した10年間、その豊富な政治的知恵と抜群の指導的才能、勤勉な工作精神によって、中国の特色ある社会主義の堅持と発展に卓越した功績を打ちたてた。全国各民族人民の心からの尊敬と、国際社会の賞賛を勝ち得た。

我々は胡錦濤同志に対し、心からの感謝と崇高な敬意を表すものである!

と面はゆくなるほどの絶賛。こうした賞賛は、昨秋、胡錦濤が総書記と党中央軍委主席を降りた時にもありましたし、江沢民完全引退の2004年9月にも胡錦濤も同様にに謝辞を述べています。その意味では謝辞があったこと自体は異例ではありません。

ただ私がよく扱う葬式記事で死者に対してこうした世辞が並ぶのですが、今回の感謝は文字通り完全引退の胡錦濤に対する葬送のにおいを感じるのです。

というのも、胡錦濤はとうとう引退するまで核心になれませんした。


■毛沢東、鄧小平、江沢民と並ぶ中国共産党の“核心”、胡錦濤は仲間入りできず

“核心”というのは中国語で中心という意味。毛沢東、鄧小平、江沢民の各世代のトップが核心扱いになっている一方で、胡錦濤はこれまでずっと「胡錦濤同志を総書記とする党中央」としか呼んでもらえていませんでした。核心扱いされて、はじめて前三代の指導者と肩を並べられるといっても過言ではありません。たかが表記と思われるかもしれませんが、たかが表記や言い回しに異常に神経を払い、区別をするのが中国さまなのです。

胡錦濤が総書記の党中央などと当たり前のことを書かんでもだれでも知ってるわい、と目にするたびに思っていたのですが、党中央に核心扱いされない胡錦濤を、他の3人と無理やり体裁を合わせるためにこうした表現にさせていたために、3人との違いが余計に目立ちます。

この表記については各国メディアも注目しており、「胡錦濤が個人崇拝を止めるため、自分には核心という言葉を使わせないようにしている」という“キレイな胡錦濤”ネタが流れたこともありましたし、自分もその与太を信じかけたこともありました。

ですが、実は2008年ごろに自分の子飼いの部下に“核心”と呼ばせてみるも、定着せずに自然消滅して頓挫したという恥ずかしい経緯がありましたので、この説は当てはまりません。(「一発芸だった?胡錦涛の「核心」扱いに指導部がソッポ」日々是チナヲチ。、2008年1月30日)

江沢民も甲斐性なしでしたが、胡錦濤はその江沢民にも及ばない甲斐性なしということでしょう。江沢民も意中の人間を後継者にできず鄧小平ご指名の胡錦濤を後継者にしてしまったわけですが、胡錦濤は結局この10年間、江沢民に良いようにされてきたわけです。

10年間といっても、江沢民は総書記を退いた後も2年間は中央軍事委員会主席の座を手放さなかったので、胡錦濤時代は約8年ということになります。胡錦濤はというと、江沢民流院政も許されず、「潔い完全引退」として称賛される始末です。


■苦渋の表情を浮かべた胡錦濤

こちらが上述の褒め殺し演説の映像となります。



映像を見ると、文章を読むだけとはかなり印象が異なりますね。「世界の東方に意気揚々と屹立している」で一回拍手が挟まれているとか、文章だけでは分かりません。

また講話を聴く胡錦濤が死にそうな顔になっているのが分かります。

20130319_写真_中国_胡錦濤_1

ひとしきり重要講話を終え、習近平の憮然とした表情と、拍手ににじみ出た態度が「花道を飾ってあげたでしょ。あんたは完全引退でしょ」といった意味が込られているかのようであります。まあ、習近平はいつもこんな感じの表情ですけどね。

20130319_写真_中国_胡錦濤_2

上記褒め殺し部分は講話の一部であり、他では「中国夢」という、実態がよく分からない習近平の造語が連呼されていました。ちなみに胡錦濤さんの科学的発展観は歯牙にもかけられていませんでした。


■ポスト習近平レースも苦しくなった胡錦濤派

おさらいしますと、子飼いの部下で常務委員入り出来たのは李克強のみで、あとは政治局委員で足止め。李克強からして総書記に押し込められず、当初の目的を果たしていません。

李克強が総書記候補から外れた時点で、胡錦濤は2022年の二十大を見据えていたはずです。その為には十八大で汪洋、李源潮を常務委員にねじ込んで常務委での優位を確保しつつ、第六世代と目される周強、胡春華あたりを政治局委員に昇格させる算段だったことでしょう。

ところが常務委員の定員が9人から7人に削減され、汪洋と李源潮が共に常務委入りから漏れただけではなく、さらに周強がまさかの政治局入りを逃し、順調に昇格したのは胡春華と孫政才だけという体たらくです。党大会の折にも書きましたが、やはり惨敗の一言です。5年前の党大会時点より希望がない分状況はひどいかもしれません。


■おまけ:胡錦濤の悪あがき?

完全引退に未練があるのか、3月に入っても国家主席の権限の1つである、大使の任免を2回やっています。2回目は国家主席交代の前日にあたる13日(国家主席胡錦濤が大使を任免(新華社 2013/3/13))。国家主席は儀礼的なポストなので権力はほとんどなく、党中央での決定にお追従するだけ。案外、習近平がやらせているのかもしれませんけどねー。


唯一、習近平と五分以上で人事を優位に進めた解放軍の人事ですが、基本的に党大会前までに人事異動が完了してしまっているので新味はなし。軍曹政治部が「胡錦濤の国防・軍隊建設思想を初めて用いる」という記事があったので、一瞬盛り上がってしまったのですが、調べたら「江沢民の国防・軍隊建設思想」も存在していましたので、胡錦濤の独自性はありません(解放軍報)。

今にして思えば、昨秋の十八大直前に展開された胡錦濤大先生絶賛キャンペーンが最後のピークだったのかもしれません。胡錦濤は結局何も残せないまま消えていくのでしょうか。それともがんばって院政ポジションにつき、江沢民と2人で小姑対決を展開できるのでしょうか。

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*本記事はブログ「中国という隣人」の2013年3月18日付記事を許可を得て転載したものです。

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