■タイの食堂からペプシが消えて4ヶ月・・・今後どうなるのだろう■
■59年間の蜜月が終了
タイの食堂、レストランから、今までトップだったペプシコーラが消えて、話題になっている。以前書いたが、タイではペプシが炭酸飲料のトップ・ブランドだ。いや、だった。
(関連記事:「タイにおけるペプシコーラとコカコーラの競争」チェンマイUpdate、2011年1月23日)
タイにおけるペプシのボトラー(販売会社)は「サーム・スック」社。1952年から昨年までで59年間の付き合いだった。両者の蜜月に転機が訪れたのは2010年、サーム・スック社の株式41.5%を保有する大株主のペプシコは敵対的TOBをしかけた。しかし同じく大株主のSSナショナル・ロジスティック社(SSNG)の反対などであえなく挫折。SSNGは、その後サーム・スック社の株式を32.6%まで買い増している。
そして翌2011年4月1日、ペプシコとサーム・スックの契約締結がこじれ、59年間続いた関係にピリオドが打たれた。サーム・スック側は少数株主にとうてい呑めない条件だといい、ペプシコ側はなんとも不合理な条件があると主張しているが、具体的な争点は不明だ。自らの商品だからこそ売れると思うペプシコ側と、自分らの販売力があるからこそ売れると自信を持つサーム・スック側のともに自負がぶつかった対立だったのだろう。前年の敵対的買収騒ぎもしこりを残したはずだ。
■サーム・スックの自社ブランド、エスト・コーラサーム・スックは、12年11月まではペプシを扱ったが、そのあとは自社ブランドの「エスト」に切り替えた。ペプシもコークも置いてない店でエストを仕方なく飲んだが、甘く破裂する甘味飲料だ。アメリカのコーラの味の方が私の舌になじんでいる。
タイは東南アジアでも最大の炭酸飲料市場(18億ドル、約1700億円)と言われる。また、ペプシがコカを上回っている数少ない市場のひとつだった。年間一人当たり39.2リットルの消費量は、アジア平均の4倍。我が家でもペプシコーラは暑い日の常備品だ。日本はたしかコーラ系炭酸飲料の消費量は一人当たり20リットル台のはずだ(ビールが50リットルほど)。
■タイ・ビール最大手がサーム・スックを飲み込んだ2011年9月9日、ペプシコは関係が破綻したサーム・スック社の株41.5%分をタイ・ベバレッジ社に売却した。一株58バーツ。総額額64.1億バーツ(約192億円)。タイ・ベバレッジ社とは95年に発売し、今やシンハを上回り、タイのビールのトップブランド(シェア50%近く)となった「チャーン・ビール」で財を成したチャルーン(今年のフォーブスの世界長者番付でも資産1.1兆円で、世界第82位)の創った会社である。
チャーン・ビールのほかに、メコン、サンソム、ホントンといったラム焼酎を製造販売しているが、またタン氏からOISHIグループを買い取り(シェア89.3%)、2013年に入ってからはシンガポールの食品コングロマリット「フレーザー・ニーブ」までも呑みこんだ。なお、タイ・ベバレッジ株は、タイではなくシンガポール取引所に上場されている。華人系タイ人らしい。
サームスック社(3月よりSermsukと一文字に社名変更)の現在の主要株主は、タイ・ベバレッジが64.7%、SSナショナル・ロジスティックが32.6%。ペプシコとは完全に関係が失われた。
■漁夫の利を得たコカ・コーラサーム・スック社を失ったペプシコは今後、どうやって配送するのか。なぜなのか不明だが、ドイツ・ポスト社にボトル配送を依頼するといわれている。なぜ外国の郵便会社にやらせるのかは知らないが、いずれ以前のようにペプシがタイの食堂、レストランに並ぶようになるとペプシコの幹部は言っている。
とはいえ、サーム・スック社とのケンカ別れの影響は市場にはっきりと出てきている。街の食堂に行ってもいまだにペプシの看板が出ていても、エストしか置いていないところが多い。
ACニールセンの調べによると、2011年には、ペプシが48%のトップを占めていた(コークは42%、残りの10%はサームスックが前から売っていたでかいビッグ・コーラ)。それが2012年末にはコークが50%と初の首位。ペプシは34%にまで激減した。そして今年2月には発売4ヶ月目のエストが19%のシェアを獲得し、ペプシは15%まで落ち込んだ。コークはトップの50%超だ。
ペプシとサームスックのいさかいは、漁夫の利と言うか、「とんびに油揚げをさらわれる」と言うか、コカコーラにプラスをもたらした。コカコーラは世界200カ国で販売されているが、タイでの販売量は世界第19位とベスト20に入った。
エストとペプシの競争はどうなるのだろうか?エストというタイ製コーラが、このまま伸びるとは思えないが、タイ・ベバレッジの力はあなどれない。タイの食堂のテーブルカバーは、すでにエストのものに変わっている。しかし、ボトル配送網さえ復活されれば、ペプシの味が忘れられることもないだろう。
世界ブランドの飲料に対するタイ製コーラ飲料の戦いはドンキホーテの戦いに終わるのか、それとも。
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