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2013年03月23日
*婁底市経済技術開発区から経済顧問の雇用書類を受け取る趙(中央)。
趙錫永という一人の“ニセ官僚”が中国で話題となっている。2010年から3年間もニセ官僚として活躍を続けた詐欺師としての腕前もさることながら、地方に産業を誘致するなどなにげに本物以上の「良い官僚」だったりする。
2013年3月21日、南方週末が伝えた。
■バネ工場責任者からの出発
趙錫永は1955年、瀋陽市の出身。1990年代には瀋陽バネ工場の責任者を務めていた。1998年、朱鎔基改革の下崗(レイオフ)ラッシュが瀋陽市も席巻。趙も工場を離れた。その後、4つの企業を設立した記録が残されている。しかしいずれも2008年までに登記は抹消されている。
趙が初めて“ニセモノ”としての身分で登場したのは2008年のこと。広州市で遼寧省の幹部と会見した。その時の趙の肩書きは、香港宏基万国汽車有限公司代表というものであった。鉄嶺市への投資について幹部と意見を交換し、後に実際に鉄嶺市を視察したという。
■婁底市に自動車工場を持ってきた趙研究員
そして、2010年3月11日、趙は“ニセ官僚”として姿を現す。宏基万国公司が湖南省婁底市に自動車生産基地を作る調印式に、「国務院発展研究センター研究員」という肩書きで同席していた。工場誘致にあたっては趙が仲介者としてきわめて重要な役割を果たしたと同市官僚は明かしている。
趙は婁底市に賓客として迎えられ、「第1期政府重大行政決定諮問論証委員会委員」、婁底市経済技術開発区の経済顧問という本物の肩書きも得た。
2010年4月21日には婁底市経済技術開発区の党委員会センターの学習会で講師として報告している。「国家のマクロ政策と経済技術開発区の具体的状況とを結びつけてわかりやすく説明してくれました。特に自動車業界の分析はたいへん優れたものでした」と同市官僚は明かしている。その官僚は「趙ほど学の優れた官僚はなかなかいない」とすっかり敬服したという。ニセ官僚だったと聞かされると、「あれほどの才能を持った人がまっとうな道を歩まなかったのは惜しい」と嘆いた。
趙が婁底市にもたらした工場は中国南部の大型特殊自動車の生産拠点の一つとして成長を遂げており、防爆車両など多種多様な特殊車両を製造している。
■北京からの嬉しい知らせをもたらした趙司長
続いて趙の活躍の舞台となったのは雲南省だった。2012年4月、ある自動車業界の会議で上場企業・昆明雲内動力株式有限公司の高官と知り合い、その見識を評価されて同社の企業発展顧問となった。この時の肩書きは「国務院研究室司長」。同社トップは「趙司長の言葉通り改革しよう」と社員に訓示していた。以後1年間で少なくとも4~5回は同社を訪れている。
翌5月には雲内動力のトップを引き連れ、昆明理工大学を視察。座談会では「昆明理工大学は雲南の経済社会に服務し、人民を満足させてきた」とお褒めの言葉を贈っている。さらに半年後、趙は昆明理工大学を再訪。同校のある産学連携プロジェクトの除幕式に参加したが、式には雲南省科技庁の副庁長も出席している。
雲内動力との関係を手がかりに趙は雲南市でのコネを広げていった。2012年9月からは昆明市政府ともつながりを持つようになった。11月には昆明市共産党委員会、市政府が主催する2012年収穫金秋投資昆明年度大会にゲストとして登場した。この時の肩書きは「国務院政策研究室司長」。ただし国務院には政策研究室はない。
現地テレビ局が流した会議の映像にも趙の姿ははっきりと映し出されている。映像で映った順番は2番目。昆明市政府トップよりも高い序列での登場となった。
席上、趙は「我々の雲南省橋頭堡2012~2020年計画は国務院の正式な認可を得た」と発言している。東南アジアとの貿易を加速させたい雲南省。財政政策や金融面で国家の支持を求める橋頭堡総体計画を提出しており、その認可は心待ちにされていた。実は会議の一週間前に国務院は計画を認可していたのだが、大きくは報道されていない。ゆえに我らが趙司長がこの喜ぶべき知らせを持ってきてくれた、と受け取られたのだった。
■サヨナラ、趙司長
その後も雲南省の地方を視察するなど趙司長は大活躍だったのだが、3月8日、国務院は「趙なんて人はいない。政策研究室なんつーのもない」という非情な通告を雲南省に通達。その後、趙は姿を見せていない。
この驚くべき詐欺事件は大きく取り上げられ、ホットトピックとなっている。中央からきた偉い役人にへいこら服従する地方官僚と企業、という中国の現状、中国の腐敗をシンボリックに現す事件ではありませんか、風刺コラムを書くには最適のネタである。
だが、この趙司長、どうにも憎めないキャラではないか。少なくとも婁底市では自動車工場を誘致するという成果を残しているし、雲南省でもみんなが喜ぶ発言を残しただけ。と目に見える被害が少ないこともあって、むしろ会う人すべてを信頼させる、圧倒的な詐欺師能力に敬服してしまう。
いや、もちろん“被害者”たちが口に出さないだけで、地方を訪問してきた偉い役人にわいろの嵐が飛んでいたのかも知れない。地方官僚のみなさんは無駄金使ってしまったとやるせない気持ちになっているかもしれないが、そういうところも含めてなかなか楽しい話である。
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