海洋散骨すれば1万5000円を贈呈、上海市のお墓用地節約術と中国人の信仰心
Graves / feserc
■上海市のお墓用地節約術
中国は広い。とはいえ13億人が住んでいる上に、人口はごく一部に密集しているわけで土地不足は深刻だ。しかも工場作りたい、マンション作りたい、高速道路作りたいと発展のために作りたいものはごまんとある一方で、食料安全保障の面から「耕地18億ムーを死守」などという至上命題もあったりする。
というわけで、土地不足の中で、政府が市民に“節約”をお願いしているのがお墓だ。このたび上海市政府が新たなお墓用地節約補助金を導入したとのニュースが伝えられている。
上海:海洋散骨した遺族に1000元の補助金
中央人民政府公式サイト、2013年3月24日
3月23日、上海飛思海葬服務部は海洋散骨を実施。113世帯509人が参加し、126人の遺骨が海に散骨された。海洋散骨に積極的に参加するよう、上海市民政局は新たな補助金政策を導入している。海洋散骨する遺族に対し、死者1人につき1000元(約1万5000円)を支給する。従来の補助金は400元(約6000円)。また死者1人あたり遺族6人の交通費を無償とする。
上海市は1991年から海洋散骨を実施している。これまでに210回実施。1万9865世帯9万6745人の遺族が参加。2万5689人の遺骨を散骨した。お墓を作った場合、1人当たりの墓穴面積を1平方メートル、石材0.125立方メートルを消費すると仮定した場合、約40ムー(2.67ヘクタール)の土地、約3211立方メートルの石材を節約した計算となる。
「40ムーの土地を節約」と数字でばばんと成果を示すのが中国スタイル。もっとも20年間でこの数字ならばほとんど普及していないというのが実際のところではないか。
お墓用地節約術にはさまざまなバリエーションがある。記事「
海洋散骨、樹葬、花葬……広がるエコ埋葬=死者も生者も困っている中国の墓不足」でいくつかのパターンをご紹介しているが、例えば樹葬の場合は1人につき1本の木を植えなければいけないのでやはり土地が必要。海洋散骨が一番節約できるわけだ。
大都市の場合、共同墓地などは郊外に設置されることが多く、清明節などの墓掃除ははるばるでかけての1日仕事になってしまうケースも少なくない。墓掃除を省略できるという意味でも海洋散骨は合理的に思えるが、信仰の問題なのでそう簡単には解決しない。
■お墓ぶっ潰し運動の失敗信仰やしきたりを変える難しさを満天下に示したのが河南省周口市の「お墓ぶっ潰し運動」だ(関連記事:「
悪しき風習を変える文明開化?!お墓をぶっ壊す運動の裏側にあるあこぎすぎる現実―中国」)。農村のお墓をぶっ潰して遺体を掘り出し、改めて火葬。共同墓地に埋葬するという内容。
「火葬代、墓地代は政府持ちだから農民にも不満はないだろう。お墓を潰した分耕地が増えて良かったね」と人民日報も絶賛するキャンペーンとなったが、「官僚は自分の先祖の墓だけ文化財扱いとかにしてキープしている」「墓ぶっ潰しに抵抗した農民がショベルカーに潰されて死んだ」などなどの噂やスキャンダルが広がり、結局運動は一時中止に追い込まれた。
さらにこの話には続きがある。2月20日、
華商報が伝えるところによると、200万基のお墓がぶっ潰されたが、少なくとも半数がすでに復活しているという。政府が協力に政策を推進している時は従ったふりをしつつも、その力が弱まったらすかさず墓を作り直す。「上に政策あらば下に対策あり」の典型であり、信仰としきたりの強固さを示す事例となった。
ちょっと気になるのは周口市が作った共同墓地の存在。ぶっ潰したお墓に見合うだけの共同墓地が作られていないというのも批判ポイントだったが、一部はすでに完成しているはず。となると、1人の故人に2つのお墓が存在するケースもありそう。この場合、農民たちは遺灰が収められた新しい共同墓地に行くのだろうか、それとも遺体は収められていないものの、以前の地に作り直したお墓にお参りするのだろうか。
関連記事:
海洋散骨、樹葬、花葬……広がるエコ埋葬=死者も生者も困っている中国の墓不足死後の世界も格差社会?!お金がないと無縁仏になっちゃう……と大騒ぎに―中国悪しき風習を変える文明開化?!お墓をぶっ壊す運動の裏側にあるあこぎすぎる現実―中国「中華民族の始祖」黄帝の墓掃除式典=激化する「伝説の偉人」ビジネス―中国仏教的善行が生態系を破壊する=「放生」と外来種―中国
大規模な洪水のたびにリセットされる立地を、無縁仏の埋葬地として利用しているのかな、と思いました。