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「横暴」「比類なき傲慢さ」アップルと人民日報の“戦争”、その文化論的背景―中国

2013年03月28日

■「横暴」「比類なき傲慢さ」アップルと人民日報の“戦争”、その文化論的背景―中国■
 

益田假日廣場 Apple Store
益田假日廣場 Apple Store / LJR.MIKE


■アップルと中国官制メディアの戦争


アップルと中国官制メディアの“戦争”が過熱している。天下の人民日報が「横暴アップル」「比類なき傲慢」と過激なタイトルの記事で攻撃するも、アップルは白旗をあげずに沈黙を守っている。一部では外国メディア叩きかとの見方も広がっているようだが、むしろポイントは中国的メディアスクラムによる制裁のパターンのアップルが従わなかったこと、そして中国の外国コンプレックスにある。


■CCTVの告発とアップルの声明、そして人民日報の猛攻

発端となったのは15日、世界消費者権利デーのCCTV特番だ。記事「「アップルは中国を差別している」官制メディアの批判とその裏事情を暴露してしまったあるアホの自爆」で紹介したが、悪さをした企業を次々さらしあげにするという、悪趣味かつ面白すぎる特番なのだが、今年の目玉に選ばれたいけにえがアップル。

iPhoneを修理に出すと他国では完全交換してもらえるのに、中国ではバックカバーだけ元のまま。中国は差別されているという内容だ。ちなみにその理由も特番は推測している。中国の法規では完全交換すると保証期間が交換時点から1年間と延長されることが決まっている。アップルは裏蓋だけ元のを使うことで、「交換ではない、一部修理」と言い張ることで、保証期間を延長させないようにしているという。

CCTVは世界消費者権利デー特番の後にも別の報道番組でアップルを叩くなど執拗な攻撃を見せた。攻撃をあびながらも沈黙を守っていたアップルだが、23日になってようやく声明を発表した。「親愛なる消費者へ」と題された声明ではiPhoneは分解しにくい上にお客様がお店にきた時に一発で修理できるようにiPhone4とiPhone4Sは裏蓋だけを残して交換。中国の法規では修理後30日以内の保証期間を定めているが、iPhoneの場合は元の保証期間か、修理から90日の長い方を採用している。他のメーカーよりも高い基準です」とアピール。また「iPhone5は独特のデザインなので完全交換している」と説明した。

謝罪するどころか、「他のメーカーよりもうちの保障はいけてる」と開き直るとはけしからん!と怒ったのだろうか。まあ確かにCCTVに指摘された他国とのダブルスタンダードには一切答えていない声明ではあるが。というわけで、人民日報は25日に「傲慢アップルはかじられても同じない=(国内外の)ダブルスタンダードが不満招く、消極的対応に疑義」、26日に「横暴アップルは何を傷つけたのか?」、27日に「アップルの“比類なき”傲慢を叩け」と3日連続で記事を掲載。

中国では精密機器の保証期間は2年と決められているのにマックブックエアーの保証期間は1年しかない、欧州ではiPhoneの保証期間は2年あるらしいといった、それなりに正当な批判もあるとはいえ、ここまで大騒ぎすることだろうか。天下の人民日報が一企業を叩くのにこれほどのキャンペーンをはるのは異例中の異例である。


■陰謀論で読み解くアップル批判

この大騒ぎに米国メディアも注目。ウォールストリートジャーナルは「アナリストは、一連のアップル攻撃から、中国政府が国内スマホメーカーの成長を促し、アップルなど外国企業の支配するシェアを縮小させるため、さらなる措置を検討していることがうかがえると指摘している」と報じている。

陰謀論で読み解くならばこういうのはどうだろう。世界消費者権利デーは視聴者にとっては楽しい見世物だが、企業にとっては恐ろしい地獄の審判。いけにえになるのを回避するためにCCTVに広告を打ったり、あるいは担当者に黄金のもなかを送るケースもあるなどとささやかれている。その恐怖の“世界消費者権利デー砲”に屈しない企業が出現すれば、来年の集金に差し障る。意地でもアップルに土下座させなければ……。


■文化論で読み解くアップル批判

陰謀論は楽しいのだが、残念ながら今のところ何の証拠もない。というわけで、陰謀論以外で正解を考えてみたい。私が主張するのは文化論的アプローチだ。

メディアは「正義の人々」である。日本でかつて雪印や不二家が正義の鉄拳でフルボッコされたのを覚えている人も少なくないだろう。中国でも同じ。例えば味千ラーメンの誇大広告とお店でスープを作っていなかった問題はメディアで大々的に取り上げられ、これでもかというぐらいにボコボコにされた。その矛先は外資系企業だけではない。CCTVには焦点訪談などの調査報道番組があり、企業の不正を暴く特集は高い人気を誇っている。

上述の味千ラーメンにしてもカルシウムの量を誇大表示していた問題は確かに非があったが、お店でスープを作っていないというチェーン店ならばごくごく当たり前のことをまるで悪魔の所業のようにバッシングされ、株価は急落、土下座する羽目になった(関連記事:中国メディアの味千ラーメン・バッシングがひどすぎる件=朝日新聞まで加担)。

絶対無敵、正義のメディア様の批判の矛先が向いた場合は光速の土下座が求められる。昨年の世界消費者権利デーの特番ではマクドナルドの一部店舗が販売期限切れのパイを売っていたことがとりあげられたが、マグドナルドは番組終了後40分で謝罪声明を発表。危機管理のお手本と讃えられている。

というわけで、正義の鉄槌を喰らった場合にはすみやかに謝罪するところまでパターン化されているのに、アップル様は対応が遅いわ、声明を出しても謝罪じゃないわ、と中国の慣習に反している。それが「横暴」「比類なき傲慢」の理由なのであろう。


■外国企業は中国人を騙している

もう一つ、見過ごせないのが外国企業は中国人を騙しているという根強い観念だ。先日、香港英字紙サウスチャイナモーニングポストが面白いコラムを掲載している。曰く、「中国市場で販売されている車は同じ車種でもギア国より品質が悪いと中国人は信じている。例えば日本車の場合、一番いい品質は日本で販売。次の品質は欧米で。一番悪い品質は中国など途上国で販売している」、と(レコードチャイナ)。

そんな面倒臭い品質管理は逆にコストがかかりそうなものだが、これが本当に中国ではかなり信じられているから驚きだ。中国人旅行客が世界各地で粉ミルクを買いまくって品不足でさあ大変、というニュースが先日報じられたが、これもまた同じ海外ブランドの粉ミルクでも外国で売っているモノはいいやつに違いないという判断があるからだ。

というわけで中国市場で物を売る場合には、外国語の説明書きの上にシールで中国語の説明書きをはる、といった「いかにも海外向け商品を輸入してきました」といったアイテムが受けることになる。

この中国人はいつも割をくっている、外国人はいつも中国人を虐めているという意識はなかなか根強い。


■「虐げられているふり」はそろそろやめよう

というわけで、「外資系企業アップルが中国人を騙した」というストーリーも、「正義のメディアが悪い外資系企業に鉄槌を下した」というストーリーも、中国ではなじみがあるというか、受け入れやすいもの。唯一予想外だったのがアップル様のつれない対応であり、思い通りにストーリーが進まなかった人民日報がキレたという構図ではないか。

もっともこれはいい機会かもしれない。外資系企業にとっても中国は大事なお客様。わざわざ余計な手間までかけて嫌がらせをする道理はないし、中国人にいい物を売りつけまくってばんばん儲けたいという商売人の誠意を分かってもらいたい。

つまり、そろそろ「虐げられている中国」から脱却してもいい時期だということだ。「虐げられたふり」が大好きな帝国・中国の目を、もう一つの帝国・アップル様のつれない態度がさましてくれるならば、これにこしたことはないだろう。

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