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2013年03月31日
红油猪耳丝 Pigs Ears and leeks with chilli oil - Original Taste / avlxyz
■中国西南部最大の食用油メーカーが下水油を売りまくっていた
山谷さん、斧澤くん、やばいよ。ボクら、下水油を食べまくっていたみたいだよ!!
とちょっと取り乱してしまうほど衝撃的なニュースが飛び込んできた。2013年3月21日から24日までの4日間、雲南省曲靖市中級法院で、大手食用油メーカーの地溝油訴訟が審理されたのだが、そこで明らかになった事実がなんとも恐ろしい。雲南省で30%以上という中国西南部最大の油脂生産販売企業が3万トン以上もの下水油を売っていたという。2013年3月31日、経済観察報が伝えた。
問題の企業は雲南豊瑞油脂有限公司と雲南豊瑞粮油工業産業有限公司の2社(以下、豊瑞社と記述)。昨年5月に事件が発覚し製品回収を命じられている(レコードチャイナ)。10カ月の捜査を経て裁判が始まったのだが、なんと2002年から2012年にかけて、3万2000トンもの下水油を購入していたことが明らかとなった。この期間に同社が販売したラード及び調合油(ラードと植物油を混ぜたもの)は計14万8000トン。単純計算すると、同社のラード系製品の4分の1は下水油だったというわけだ。
■小工房で作られた下水油が大企業に流れ込む
下水油、中国語では地溝油というが、その製法についてはしばしば誤解されている。文字通り下水から残飯を拾って油を抽出したものも存在するようだが、それはごく一部。使い古しの食用油を再利用するパターンや動物の皮や臓物、切れ端から油を作るものも下水油と呼ばれる。
裁判によると、豊瑞社が原料として購入していた下水油は最後のパターン、つまり動物の皮や臓物、切れ端から作った下水油のようだ。中には死んだ魚や魚の骨から作られた油もあったという。
興味深いのがその調達ルート。豊瑞社に下水油を納品していた業者は8社だが、その業者も数十社に及ぶ別の業者から仕入れていた。その数十社の業者はそのまた下にある無数の業者から仕入れている……という完全なピラミッド構造が作られていた。中国全土、津々浦々から集められているばかりか、東南アジアからのルートもあるという。
農村や田舎の小工房を摘発したという発表はたびたびあるのだが、そうした小さな小工房で作られた油の一滴一滴がやがて大きな大河となって大メーカーに届けられていくわけだ。農村でブタの切れ端を煮込むおばあちゃん。そのおばあちゃんが作った下水油が次々と転売されていき、最後は大企業の作るブランド食用油になるかと思うとそのギャップに驚くばかり。
■中国の得意技「垂直分裂」
余談だが、こういう各工程ごとにきれいに切り離されている状況は中国メーカーの得意技「垂直分裂」を想起させる。これは丸川知雄氏の用語で、『現代中国の産業―勃興する中国企業の強さと脆さ』に詳しい。
ブログ「梶ピエールの備忘録。」の記事「島耕作もびっくり!なぜ中国企業が作るものはこんなに安いのか」でも同書をもとに解説されている。
「それまで一社の中で統合されていたはずの生産工程が分裂して別会社が生産するようになるイメージ」で、納品元を競わせることで調達コストを大幅に引き下げるというもの。そのかわり雑多な部品の寄せ集めでそれなりの製品を作るという技が必要となる。
下水油をピラミッド式に買い集めるのと一緒にするな、と怒られるかもしれないが、今回の豊瑞社にだって技術はある。そもそも集められた下水油はどすぐろく異臭を放ち、ペットボトルの蓋が浮かんでいることもあったのだとか。そうした下水油をきれいに見えるように処理して、なおかつ一定の味になるよう調合する技術はまさに“匠”の技ではないだろうか。
中国ではこうした各工程の細かな分断をよく目にする。私が初めてそうした話に触れたのが莫邦富氏の著書『蛇頭』だった。不法出国の仲介業者として知られる蛇頭だが、実は蛇頭という一体化した組織はない。客を集める人、A地点からB地点に運ぶ人、B地点でかくまう人、B地点からC地点に移動させる人と完全にばらばらなのである。
本サイトの記事「殺人を産業とする貧困県=知的障害者を使った炭鉱殺人詐欺が続発―四川省」でも、炭鉱で知的労働者を働かせた後殺害、炭鉱主から口止め料をせしめるという犯罪が横行していることを紹介したが、人集め、訓練、殺害とゆすりの実行犯という分業体制が築かれていた。
■氷山の一角か
というわけで、完全分業体制なので、芋づる式に犯罪を撲滅しづらいうえに、責任回避もしやすいのも特徴。今回の一件でも納品業者は「うちらが売っていたのは工業用油」と主張。豊瑞社のほうは下水油とは知らずに買っていたので故意ではない。刑事事件ではなく行政規則違反で罰してくれと主張している。もっとも業者のトラックが検問にひっかかった時、工場で下水油を使って製造していた作業を中断。ドラム缶に詰め直すという隠蔽工作をしていたこともわかっているので、言い訳は通用しなそうだ。
もっとも豊瑞社が罰せられたからといってそれで終わりではない。被告の一人は「どこも同じようなもの」と供述したとのことで、大手メーカーだから安心という概念は吹き飛んでしまった感がある。なお豊瑞社は植物油の製造には下水油を使っていなかったという。たんに植物油は安いのでそうしたのか、動物性の原料から植物油を作る魔法は難しいのかは不明だ。
自宅で調理する場合には植物油を使うことが多いが、レストランでは動物性油を使っていることが多い。と、考えるとますます外食への警戒感が高まるのであった。
豉油王炒面 Soy-sauce fried noodles - HK Cafe, Wanchai MTR Station / avlxyz
■下水油に関するもっとも驚くべき事実
最後に下水油に関するもっとも驚くべき事実を付記しておきたい。
豊瑞社は10年間で計3万2000トンもの下水油を販売していたのだが、それに関する健康被害は一切報告されていない。というか、中国ではこれほど下水油が普及しているというのに、下水油で死んだ話は基本的に聞いたことがない。以前、山東省で下水油で揚げたインスタントラーメンで死者が出たぐらいだろうか。
カビ毒が入っているのでは、発がん性物質が……といわれるぐらいで、下水油の長期的な毒性についてはいまだ未知数のようだ。だからといって気にせず食べろと言ってもなかなか難しいところではあるが……。
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