■中国官制メデイアの対アップル人民戦争決着、ティム・クックが謝罪声明=“メンツ”というチャイナリスク■

*2012年1月、iPhone4s発売初日に上海淮海アップルストアに襲来した転売屋軍団。
■中国官制メディア対アップル、2つの帝国の“ちんけ”な戦い
中国官制メディアが発動した“アップル叩き”人民戦争。2013年4月2日、アップル社は中国語サイトにティム・クックCEO名義の謝罪文を掲載。中国とアップル、2つの帝国同士の戦いは中国の勝利で終わった。
この事件、そしてアップル社の謝罪文については多くの日本語メディアが報じているが、「びっくりするほどちんけな問題」から始まり、「びっくりするほど小さな譲歩」によって終わったという、きわめて重要なポイントが抜けているものが多い。
例えば朝日新聞は「中国の国営中国中央テレビや共産党の機関紙・人民日報などは3月半ばから、「製品が故障しても交換もしないで、修理だけで済ませる」と連日批判」と書いているが、これはほとんど間違いに近いレベルの記述ではないだろうか。まあニューヨーク発の記事なので英語メディアが分かっていないということかもしれない。
というわけで、本サイトは記事「「アップルは中国を差別している」官制メディアの批判とその裏事情を暴露してしまったあるアホの自爆」「「横暴」「比類なき傲慢さ」アップルと人民日報の“戦争”、その文化論的背景―中国」でこの問題を取り上げてきたが、改めてまとめてみよう。
■対アップル人民戦争の記録
3月15日:
CCTVの世界消費者権利デー特番でアップルが槍玉に。曰く、「他の国だと壊れたら新しい機体に交換してくれるのに、中国では以前使っていたiPhoneのバックカバーをつけてくる。完全交換すると保証期間が交換日から1年になるので、バックカバー以外は全取っ替えなのに「部品交換」と強弁。保証期間を短くして消費者の不利益になっている。
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3月23日:
アップルがようやく反応。声明「親愛なる消費者へ」を発表するが、謝罪文ではなく、たんなる方針の説明。iPhone5はデザインが特殊なのでバックカバー含めて交換しているが、iPhone4及びiPhone4Sは中身を入れ替えてもバックカバーだけもとのものを残すという。ちなみに部品交換の場合はもとの保証期間と交換時点から90日のどちらか長い方となる。中国の法規定だと30日なのでアップルは法律以上によくやっていますとアピール。
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3月25日~:
人民日報をはじめとする中国官制メディアが怒濤のアップル叩き。マックブックエアーの保証期間も違法なんじゃないの、など今から振り返れば間違った事実も並べたり、テレビ番組では「アップルのロゴはリンゴが欠けているけど、あれだね、中国人消費者に対する良心が欠けているからだね」と言われたりとさんざん。ちなみに人民日報は5日連続でアップル叩き記事を掲載したが、これはきわめて異例。昨秋の日本叩きクラスで、ひょっとしてアップルが尖閣諸島に工場でも立てたのではないかと金鰤的には錯覚するほどだった。
というもの。で、4月2日の声明となるわけだが、
4月2日:
アップルの謝罪声明「
尊敬する中国の消費者へ」。「親愛なる(Dear)」とか慣れ慣れしいわ!という中国のご無体な空気を読んだのか、「親愛なる」から「尊敬する中国の」にタイトルがグレードアップしている。なお内容はいろいろ書いているが、ざっくりまとめると以下のとおり。
・バックカバーを残すのはやめて全機交換にします。もちろん保証期間は新たに1年。
・これまでバックカバーだけ残して交換した人も新たな条件と同じように扱います。
・iPhone5は前からバックカバー残す裏技使ってないです。
・マックブックエアーやiPadの保証期間が違法だと言われていたけど、主要部品は2年と法律どおりですよ。
・皆様に満足して戴けるようにがんばります。
つまりよく読むと、「iPhone4と4Sのバックカバーも今後は交換して保証期間延ばします」しか具体的な改善策はない。世界的な大騒ぎになったのに、結局はバックカバーの話で終始したのだった。もちろん保証期間が延びるわけでその分、アップルの負担が増えることは間違いないとはいえ、「大山鳴動して鼠一匹」感がハンパないのも事実だ。
■アップルはなぜ戦ったのかというわけで実際に起きたことはたいしたことはないのだが、2つの謎が残されている。それはアップルと中国、2つの帝国がなぜ戦いの道を歩んだのか、という動機である。
まずアップルについて。中国について詳しい人がいれば、正義のメディア、ましてやCCTVの世界消費者権利デー特番に名指しで批判されたら、光速で土下座するのが定石だと知っているはずだ。去年はマクドナルドが批判されたが、番組終了40分で謝罪する光速の土下座をみせ、「危機管理の手本」と称賛された。今年のCCTV特番ではアップルだけではなく、フォルクスワーゲンが「他国でリコールした部品、中国ではリコールしてないやんか」と批判され、速攻でリコールを決めた。
基本勝ち目がない戦いなのに、なぜアップルは戦いを挑んだ……というか、早めに謝罪しなかったのか。上述した時系列をみると、人民日報の猛攻撃はアップルの遅すぎた、しかも謝罪ではない声明をきっかけとしている。こちらに非がなくともともかく迅速に謝罪、という定番ルールを知っている中国人幹部もごろごろいたはずだが、その声がアップル本社に届かなかったのか。それとも覚悟があって謝罪しなかったのか。
ポリシーがあって戦っているのかと思ったが、一転、謝罪に転じたところをみると、たんに中国の事情がわかっていなかったのかもしれない。
■メンツというチャイナリスクもう一つの謎はなぜ中国官制メディア、とりわけ人民日報がこれほど猛烈なアップル叩きを始めたのかということ。
ふるまいよしこさんは
ニューズウィーク日本語版のコラムで中国で生産された部品を採用するよう圧力をかけたのではないかとの「可能性」を指摘している。
ウォールストリートジャーナルはかつてヒューレットパッカードや東芝も「プロパガンダキャンペーン(宣伝活動)」の餌食になったことをあげ、アップルの売り上げに占める中国市場のシェアが12.5%を占めるまでに拡大する中で、中国当局のターゲットになったのではないかと分析。外資系メーカーのシェア拡大に対する中国政府の嫌がらせというラインを匂わせている。
いずれにせよ現時点では正解はわからないわけだが、個人的にはやはりメンツではないか、と考えている。正義の中国官制メディアが批判したならば、それがまっとうな指摘かどうかはともかく、「恐れ入りました」とかしこまるのが正しい流儀なのである。外資系企業であっても中国のことを“分かっている”企業はそう振る舞う。
そうした中国の常識を踏まえずに、「親愛なる消費者へ」などと謝罪ではない声明を出したアップルが、正義の中国官制メディアのメンツを潰したととらえられ、まるで尖閣諸島でも買収したかのような猛批判が加えられるにいたったのではないか
昨秋の反日デモで、日本人、日本企業はチャイナリスクをイヤというほど思い知らされた。お国のメンツが潰されたとばっちりが民間企業に及ぶというアレである。そして今回の対アップル人民戦争はもう一つのチャイナリスク、「中国の法律を守っていても、中国の常識に従わなければ大変なことに」を大きくクローズアップするものとなった。中国に進出する企業はいつでも土下座をする準備をしておかなければならない、と言えそうだ。
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