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Medicine Drug Pills on Plate / epSos.de
“開発途上国向けの薬局”インド(インドはゾロ薬の製造で年間260億ドルと世界一)と、先進国の大手薬品メーカーの薬に関する特許と、ゾロ薬(ジェネリック医薬品)製造を巡る戦いは続いているが、昨年に続き、今年もまた大きな進展があった。
1年ほど前のインド特許庁による「強制ライセンス供与」命令に続き、2013年4月1日には、インドの最高裁で、‘エバーグリーン特許’に対する否定判決が出された。
(関連記事:「特許で守られている薬の製造にインドで画期的な決定が出た」、2012年4月27日)
1年前は独バイエル社の腎臓ガン・肝臓ガンの治療薬「ネクサバール」の特許保護申請に対して、特許庁は、インドのゾロ薬メーカー、ナトコ社に対し、7%のロイヤルティーを払う代わりに、月5600ドルほどかかるガン治療薬をゾロ薬として30分の一の月175ドルで製造・提供することを許可した。公共的ニーズが優先され、強制ライセンスが実施されるケースとなった。アジア、アフリカの途上国のガン患者は安心したという。
そして、今回は、ノバルティス社(スイス)の何度も却下されてきた白血病薬「グリーベック」の特許獲得の闘いだった。4月1日インドの最高裁は、顕著な薬効の増進は見られないと言う理由で、このエバーグリーン・パテント獲得を否定した。ノバルティスは、「この薬は、体内への吸収度が著しく向上している」と言ったが、受け入れられなかった。
しかし、これで医薬品メーカーの特許保護の闘いは終わったわけではない。現在、HIV患者の治療にもっとも求められている抗レトロウイルス薬(ARV)についても、その有効性をベースに特許の保護を求めてくるだろう。現在インドがARVのジェネリック薬の90%を製造していると言われるが、顕著な薬効の増進は見られないと言う理由で退けられるだろうか?
この医薬品のパテント保護の動きは、各国のFTA(自由貿易協定)締結の中での「TRIPS」(知的所有権の貿易取引に関する側面)協定の中で顔を出してくる。インドもじきにEUとFTAを締結する予定だ。インドは、公共的ニーズを優先するということで、TRIPSの柔軟適用を求めていくだろう。アメリカが中心進めている「TPP」協定の中でも出てくるだろう。
先進国の医薬品メーカーが、スイスのロッシュ社のガン治療薬のように、通常の価格とは別の、途上国向けに廉価版ブランドを出していくといった‘ブランド戦略’を広げることはできないだろうか。それでも、ジェネリック医薬品でなければ、10分の一以下の価格で販売することは難しいだろう。もっとも、利益率の高い医薬品メーカーが、‘エバーグリーン特許’が否定されたため、利益が落ち込み、新薬の開発投資がままならなくなったという話は聞いていないが……。
やはりジェネリック医薬品は、購買力の低い途上国の患者の‘命綱’であり続けるのだろうか。
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*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2013年4月4日付記事を、許可を得て転載したものです。
医師向けのコミュニティーサイト「メドピア」を運営する株式会社メドピアが調査した結果、医師が6割以上がゾロ商品の効果に疑問を感じていると発表しています。
調査に回答した医師からは「アレルギーが増えた」「先発品ではなかった副作用が出た」とコメントもみられ、「後発品にも臨床試験が必要」など簡略化された審査項目の見直しを求める声も多く見られたそうです。
医療費削減のためにジェネリックを推進している風潮がありますが、ジェネリックが氾濫することで、薬の開発企業の利益に損失を与え、薬の開発に費用をかけれなくなり、結果的に技術の進歩を止めてしまうという人類にとって不利益な環境が形成されているような気がします。