「悟空、はやくきてくれ!」玄奘三蔵、すなわち西遊記の三蔵法師の遺骨が眠る西安・興教寺が政府により取り壊されると報じられ、中国のネットで話題となっている。

SNSを眺めていると、「悟空の出番キター」とか「上海市で猪八戒が浮かんだかと思えば次は悟空か」など盛り上がっているのだが、あまり経緯がよくわからない。新華社日本語版の記事もあるがこちらもいまいち経緯がわからず。というわけでちょっと整理してみよう。
■盛り上がりの経緯
発端となったのはCCTVのテレビドラマ・西遊記(1987年版)で孫悟空役を演じた俳優・六小年童さんのつぶやき。
玄奘大師の霊骨が眠る西安・興教寺が今、大規模な取り壊しに直面している。現地政府は「シルクロード」世界遺産登録に必要だと理由を説明しているが、「興教寺仏教文化旅行景区建設プロジェクト」の投資建設のためとも聞く。私の仏友・寛池法師は同寺の住職として取り壊しを阻止しようとしたが、ダメだった。ネットユーザーたちも私に注目するよう呼びかけていた。きわめて重大な事態だ。私は役者として、国家宗教局など関連政府機関及び政府指導者が解決に乗り出すことを心から希望する。
というもの。中国は現在、ユーラシア大陸を横断する超大規模世界遺産「シルクロード」の申請を準備中。陝西省からは5個所8地点がリストアップされており、興教寺もその一つだ。
世界遺産申請を主導している陳同濱教授によると、寺内にある、1970~80年代に建てられた僧社、斋堂が取り壊される予定だという。僧社は玄奘三蔵の遺骨の眠る塔に近すぎるのが理由。斋堂はあまりにも巨大で寺の雰囲気を壊してしまうからという理由だ。両方とも新しい建物で文化財ではない。

というか、
Wikipediaによると、玄奘三蔵の遺骨は唐末の時点で失われており、現在の舎利塔は中華民国時期に再見されたものとのことで、建築物の歴史としては大したことはなさそうだ。
■文化テーマパークの利益配分「三蔵法師の遺骨が!」「悟空早くきてくれー」という面白すぎる見だしと比べて、なんだかありきたりな話に着地しているようだが、お寺の住職さんが必死になるのもわかる。文化財ではなかろうが、お坊さんたちが生活するために必要な建物をぶっ壊すと言われて、はいそうですかと二つ返事で納得するわけにはいかないだろう。
また発端となったつぶやきにも触れられていた興教寺仏教文化旅行景区建設プロジェクトも不信感のもとのよう。8000万元(約12億円)を投じて興教寺を文化テーマパークにしようとする計画だが、これに曲江系と呼ばれる企業グループがかんでいるという。同社は文化テーマパークを手がけ、周囲の地価をあげて不動産開発で儲けるというビジネスモデル。2012年には陝西省宝鶏市の法門寺を香港証券市場に上場させようとして、「寺が上場って?!」との批判を浴びている。
中国のお寺といえば、どこも超高度にビジネス化されている。その頂点に君臨する少林寺はトップがMBAを持っているというすばらしさ。ネットショップで少林拳の奥義を買えたりするほどのサービスっぷりだ。なのでいまさら商業開発は宗教と矛盾する云々とはならないかもしれないが、興教寺側からすれば、生活を破壊された上に観光整備したあがりは企業が持っていくとなれば踏んだり蹴ったり。
再開発の資金とプランを提供する企業、認可する現地政府、文化財というリソースを持つお寺の三方が納得する利益配分を考えていただきたい。
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