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2013年04月13日
稲 / 柏翰 / ポーハン / POHAN
タイ・インラック政権の目玉政策がコメ抵当スキームだ。市場価格よりも高くコメを農家から買い上げるもので、実質的には農家に対する所得補償の意味を持っている。また政府が価格をつり上げることで、タイ米の価格を高値に誘導しようとする意図を持っていた。
だがこの政策には多くの批判が寄せられている。早ければ、今の乾季米(2次収穫米)の収穫が終わり、さらに政府の倉庫が新しいコメで一杯になるこの8~9月頃に定まるかも知れない。続けられるのか、続けられないのかが。2011-12年度に始まったインラック政権のコメ抵当スキームは、2年目の今、政府の思惑がはずれ、厳しい状況に追い込まれている。
■政府による1兆円コメ買い上げ
初年度は1次(690万トン)、2次(1470万トン)、籾量にして計2160万トンほどのコメを政府は買い上げた(平均価格はトン15600バーツほどか)。タイ全生産量3180万トンの68%に相当する。なお政府買い上げ分以外はほとんど農家の自家消費となる。
買上げ代金として3360億バーツ(約1兆円)という巨費が費やされた。この他に運営経費や輸送・倉庫代などで年間400億バーツ。計3760億バーツ(約1兆2800億円)。タイの歳出規模2.7兆バーツ(約9兆1400億円)の14%近い税金が投じられたことになる。
当初の思惑通り、買い上げたコメが高い値段でさばければ、国有銀行の負担も財政の負担も緩和される。しかし世界のコメ需給が緩和する中、高いタイのコメは売れなくなった。2012年の輸出は前年から大きく落ち込み、673万トン(精米基準)にとどまった。前年の1060万トンから37%のマイナス。長年守り続けてきたコメ世界輸出国トップの地位から転落し、インド、ベトナムに続く3位に転落した。
■1100万トンが売れ残り
問題はこのコメがさばけたか、だ。この政策はいわばコメの国家管理のようなものだから、輸出も政府が中心となる。外国政府との取引(GtoG)で売ると言っていたのだが、こちらでは400万トン(精米)しか裁けていない。民間業者にも入札を通じて売却したが300万トン(精米)しか売れていない。
精米量で700万トンほど、籾量で1150万トン程度しか売れなかったわけだ。2160万トン買い上げたうち、約半数の1100万トンは政府の倉庫に売れ残っている。これは世界のコメ取引量の約半数にあたる膨大な在庫だ。
■タイ政府のコメ補助金
収支を見てみよう。上述したとおり支出は3760億バーツ(約1兆2800億円)。市場価格で売れたとすると単純計算して1000億バーツ(約3400億円)の収入があった計算だ。差し引き9800億円の支出超だ。もっとも1100万トンの在庫が残っているが。
体制負は籾量1トンあたり1万5600バーツという市場価格の6割増しで仕入れており、売るほうは市場価格なので8700トンバーツでさばいたと考えられる。つまり1トンあたり8700バーツが政府の損、いわば補助金となっている。1150万トンが売れたので、800億バーツ(約2720億円)が補助金と言えよう。
残る1100万トンの在庫は売れなければ不良在庫。売れれば補償金の支出が確定するわけだ。もちろん天変地異でも起きて世界のコメ価格が高騰すれば、タイ政府の損失は減少するわけだが。
もし天変地異が起きなければ、タイ政府には世界のコメ取引量の約半数という莫大な在庫が眠っているのがばれているため、逆にコメ価格抑制の要因となりそうだ。
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*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2013年4月8日付記事を、許可を得て転載したものです。