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【まとめ】上海市の隠蔽工作疑惑が浮上=鳥インフルエンザについて今わかっていること―中国

2013年04月14日

中国で確認されたH7N9型鳥インフルエンザについて、現時点で考えられる危険性、中国が隠蔽していないか、本当はどの程度感染は拡大しているのか、についてまとめた。

飛ぶ二羽の鳩 (Two flying Rock Doves)
飛ぶ二羽の鳩 (Two flying Rock Doves) / Dakiny


■ヒト・ヒト感染は確認されず


2013年4月14日現在、 51人の感染が確認されている。うち11人が死亡。当初は上海市、安徽省、江蘇省、浙江省と上海市周辺でのみ確認されていたが、13日に北京市、14日に河南省と華北地域でも新たに確認された。

世界的な注目を集めているが、現時点では人間から人間への感染、いわゆるヒトヒト感染は確認されていないため、過度に恐れる必要はなさそうだ。日本・厚生労働省検疫所の「中国で発生しているインフルエンザA(H7N9)について」では以下のように注意している。

現時点では、人から人への感染は確認されていませんが、中国に滞在する方は、今後の情報に注意していただくとともに、手洗いや咳エチケットをこころがけてください。また、鳥に直接触ったり、病気の鳥や死んだ鳥に近寄ったりしないようにしましょう。

注意するのはこの程度でいいの、と拍子抜けするような内容だ。つまり現時点では

・鳥に近づかない。
・手洗いの徹底。
・インフルエンザが疑われる時はなるべく早く病院に

というごくごく当たり前のことに気をつければ十分と言えそうだ。


■中国の隠蔽工作が心配?

いやいやいや、やっぱり心配だ。中国といえば、2003年の新型肺炎(SARS)では国をあげての隠蔽工作をやった前科があるではないか。本当はもっと大変なことになっているに違いない。そう勘ぐる日本人が少なくないことは理解できるし、中国国内でも不安に思っている人も多い。

特に最初に感染が確認された上海市の李さん(87歳)は69歳の長男、55歳の次男と一家三人が全員、発熱とせきという同じ症状を示して病院にかかったのに、父親だけがH7N9型鳥インフルエンザとの診断。中国のネットでは「隠蔽工作ではないか。ひょっとしてヒトヒト感染を隠しているのではないか」との疑念が広がっていた。

確かに気になる話なのだが、中国の衛生当局だけではなく世界保健機関(WHO)もヒト・ヒト感染の証拠はないとコメントしていること。上海市で夫婦がともに感染した例が確認されているが、それ以外は家族や医療関係者など密接接触者の感染が確認されていないことを考えると、激しく不安に陥るほどの燃料はないと判断していいのではないか。

この問題については医療ニュースサイト・apitalの記事「中国の鳥インフル どう考える? どう備える?」が大変すばらしい内容なので、一読をおすすめしたい。同記事は中国は迅速に鳥インフルエンザのゲノム配列を日本に提供したことを高く評価している。

個人的には、いまだ正体の見えないA/H7N9のアウトブレイクよりも、むしろ、中国が国内の感染症情報を迅速に公開し、さらに遺伝子情報を日本の研究機関に渡したことに驚きました。というのも、この方面についての中国の隠ぺい体質には、かなり定評があったからです。SARSの教訓に学んで危機管理体制が適正化していたのか、あるいは新政権のなかで情報公開への決断がみられたのか、はたまた隠しきれないほど拡大している事実について掌握してしまったのか……。

いずれにせよ、せっかくの中国からの情報提供について、一部のPM2.5報道にみられるような「今度はインフルかよ。まったく迷惑な話だ」といった低レベルな反応を返すのではなく、「よくぞ迅速に情報公開してくれた」と謝意を伝える姿勢が日本人には必要です。また、絶対に中国人観光客を忌避するような行動をとってはいけません。これは胸襟を開きかけた中国の姿勢に泥をすりこむ行為です。最悪の場合、今後、日本だけが情報をもらえないということにもなりかねません。

(…)いまのところ一般の方々が、このA/H7N9に対して具体的な対策をとる必要はありません。中国からの旅行者についても同様です。これまで同様にもてなしていただければと思います。最近はパンデミックに対する警戒態勢が拡充され、地域の医療者も「おかしいなと思ったら報告する」ようになっているので、こういう話が多発するようになっているのです。このまま消えてゆく可能性が高いのです。 


■上海市の隠蔽工作疑惑

では今回、中国は隠蔽工作をしなかったのか、というと、実は残念な話もある。南方都市報は10日、「上海、H7N9の駆け引き」というタイトルで、上海市当局による隠蔽疑惑を報じている。なおこの記事はすでに検閲によって削除済みだ。こちらで転載された記事を読むことができる。

ポイントをまとめると、

・上海市では3月4日時点でH7N9型鳥インフルエンザが発見され、10日時点で確認作業も終わっていた。しかし国家レベルの期間にサンプルが送られたのは10日間以上が過ぎた22日だった。

・3月7日時点でネットに「正体不明の疫病」を指摘する書き込みがあった。この時点でH7N9型鳥インフルエンザ・ウイルスは検出されていたが、その事実を隠蔽している。

・2人目の死亡者・呉亮亮さんの遺族が院内感染の可能性を指摘すると、病院は口封じ料にも見える「人道援助」のお見舞い金を支払っている。

特に重要なのが第1点目で、まるで習近平が国家主席に就任した全国人民代表大会(全人代)が終わるのを待ったかのようなタイミングだ。全人代期間は開催地の北京のみならず、中国全土が厳戒態勢となる。おめでたいイベント中に不祥事を起こしては、地方官僚の大減点につながるとの心配からだが……。上海市政府にもそうした考えがあった可能性は高そうだ。


最初の感染者確認から公表までの40日間

2月19日:上海市の李親子3人が発病(のちに父親だけがH7N9型鳥インフルエンザとの診断)。上海市第5人民病院で受診。

2月26日:上海市公共衛生センターの盧洪洲副主任が診察に加わり、新型ウイルスに感染した可能性を指摘。李さんが感染したウイルスが実験室の検査に回される。

2月27日:呉亮亮さんが発熱の症状を示し診療所で治療を受ける。病状が回復しないため3月3日に第5人民病院で診察。肺炎と診断される。

3月4日:李さん死去。呉亮亮さんが第5人民病院に入院。李さんと同じ階の病室だった。同日、実験室がH7N9型鳥インフルエンザを検出。別の実験室での再検査が行われる。

3月7日:マイクロブログに「第5人民病院で正体不明の病気により複数人が死亡。インフルエンザと初期的な診断が下された。呼吸困難の症状があるという。病院が真相を公表することを希望する」との書き込み。

同日、第5人民病院はマイクロブログで李さん一家3人の件について説明。発熱、せきなどの症状で診察を受け多後、87歳の父親は高齢による多機能不全で死去。55歳の次男は重症の肺炎、呼吸困難で死去。69歳の長男の病状は安定していると発表した。また医療スタッフや家族などの密接接触者に感染はないと説明。正体不明の疫病との見方を否定した。

同日、上海市衛生局もマイクロブログで言及。患者3人はいずれも肺炎であり、上海市公共衛生臨床センターの調べでは新型肺炎(SARS)、鳥インフルエンザ、一般のインフルエンザは確認されなかったと説明した。

3月8日:上海市の複数のメディアが第5人民病院及び上海市衛生局の「デマ否定」の共通配信記事を掲載。専門家は最近、呼吸器感染の患者が急増しているのは季節の変わり目のためだとコメントした。

3月10日:第2の実験室の検査でもH7N9型鳥インフルエンザが確認される。第5人民病院に入院中の呉さんが死亡。家族は医療ミスではないかと病院側に説明を求める。

3月22日:上海市公共衛生臨床センターがウイルスサンプルを中国疾病予防・管理センターに送付。確認を依頼する。

3月27日:第5人民病院は「人道援助」を理由に呉亮亮さんの遺族に13万元(約195万円)を支払う。翌日、呉さんの遺体は火葬された。

3月29日:中国疾病予防・管理センターがサンプルからH7N9型鳥インフルエンザ・ウイルスの分離に成功。

3月30日:国家衛生・計画生育委員会の専門家グループはH7N9型鳥インフルエンザの感染と認定。

3月31日:H7N9型鳥インフルエンザの感染例について公開。


■実際の感染はどれだけ広がっているのか?

隠蔽工作は別にしても、今回の鳥インフルエンザがどれほど広がっているのかはまだ未知数だ。

第一に鳥への感染にについて。上海市を中心に付近の省でも家禽類のサンプル検査、さらに野外で死亡した鳥の検査が実施されているが、今のところウイルスに感染した鳥は上海市の市場で売られていたハトとウズラが確認されたのみのようだ。

どうも今回の鳥インフルエンザは鳥に対する感染力、殺傷力は弱く、そのため大量死などの目立つ現象がないため確認できないのではないかとの推論がでている。現在、感染者が確認されている地域以外にも、広範に、ただし感染している比率は少なく広がっている可能性がある。

第二に人への感染について。H7N9型鳥インフルエンザにかかると隔離病棟に入れられるということもあってか、1日1万元(約15万円)以上という法外な治療費が必要になるという。当局の説明としては「ヒト・ヒト感染が確認されていないため、SARSほど危険な病気ではない」というのが治療費個人持ちの理由となっている。

南京市の感染者は治療費が支払えないため家を売る予定とも報じられた。これほどの治療費を支払える人はそうそういないし、死んでもいいから自力で治すことにチャレンジする人も多そうだ。というわけで実際に把握されている以上の感染者がいてもおかしくないように思えるのだが……。

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 コメント一覧 (1)

    • 1.
    • 2013年04月15日 07:30
    • 医療ニュースが妙な視点から冗長に語ると思ったら、朝日のサイトで沖縄の医者か…。

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