中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2013年04月14日
Truck / psiaki
■中国の輸出額水増し疑惑:WSJ記事
中国の輸出額水増し疑惑が取りざたされている。
口火を切ったのは2013年4月4日付ウォールストリートジャーナル中国語版の記事「中国輸出急増の背後にある秘密」。中国税関総署が3月に発表した輸出統計によると、欧米経済が低迷するなか、中国の2012年12月から2013年2月にかけての輸出額は前年同期比19.8%という大幅な伸びを示した。
中国の景気回復には追い風になったかに見えるこの統計だが、輸出企業、貿易商社、経済学者からは水増しがあった可能性が指摘されている。特に注目されたのは香港向けの輸出だ。中国税関総署によると、2012年12月から2013年2月の香港向け輸出額は949億ドル(約9兆3800億円)。一方、香港側の統計では中国本土からの輸入額は587億ドル(約5兆8000億円)にとどまる。差し引き362億ドル(約3兆5800億円)の食い違いが生じていることになる。
英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)のエコノミスト、Louis Kuijsはこの食い違いを分析し、2月期の中国輸出の伸びのうち7ポイントは水増し分だったと可能性もあると指摘している。
■中国税関総署の反論
10日に開催された中国税関総署の記者会見ではこの記事についての質疑もあった。
「中国の通関時には香港向け輸出と申告されていたものが、香港では第三国向けの輸出として扱われることが往々にしてある」というのがその説明(財新網)。3兆5800億円もの差額がこれだけで説明できるのだろうか。
また中国国内に資金を持ち込むため輸出を不正に操作している動きがあるとの報道については「我々も注目しており、初期的な調査を実施した」と回答している。
■21世紀経済報道が指摘した貿易額水増し疑惑
11日付21世紀経済報道も記事「“虚偽貿易”が再び出現した疑い=2つの貿易統計データが異常示す」で水増し疑惑を取り上げている。こちらは中国税関総署が4月10日に発表した3月期貿易統計を受けての記事。
異常な統計とは第1四半期の対香港貿易額と第1四半期税関特殊監管区貨物貿易額だ。前者は前年同期比71.2%増の1098億8000万ドル(約10兆9000億円)と急増。香港は中国本土にとって第3位の貿易パートナーとなった。後者は保税区など税関が設置した特別経済区域の貿易額で、1146億ドル(約11兆3000億円)と2.3倍に増えている。
この2つの異常なまでの伸びはなんらかの不正操作、水増しが疑われると指摘している。
■水増しの目的と手法
さて最後にウォールストリートジャーナル、21世紀経済報道の両紙が紹介していた水増し疑惑の意図と手法について整理しておこう。
(1)ホットマネー流通のルート
海外との自由な資金の移動が禁じられている中国において、貿易を装って資金を持ち込むというのはありふれた手法。2006年、2007年には大規模な取り締まり、摘発もあった。例えばある輸出企業に依頼し、実際よりも高い値段で輸出してもらう。その代金を支払うことで海外の資金を中国に持ち込めるという寸法だ。後は手数料を払えば、高く値段をつけた分だけ中国国内に持ち込めた金となる。
(2)輸出還付税詐欺
日本にも消費税について類似の制度があるが、輸出品については中国国内の間接税である増値税を還付してもらうことができる。実際よりも多くの製品を輸出したことにすればそれだけ多くの還付金を得ることができる。
(3)貿易実績を捏造
上述の2つのケースは企業主体のものだが、これは地方政府主体による水増し。例えば2012年4月に開催された華東7省・市外国貿易情勢座談会では貿易額の10%増が至上命題として打ち出された。これが達成されなければ地方官僚の責任問題となってしまうので水増しで対応するという話だ。
香港に隣接する保税区から100万円の品物を香港に持ち込む。翌日同じものを持って帰ってくる。一往復で200万円の貿易額ができあがるという手法があるという。トラックが行ったり来たりするだけで地方官僚の業績ができると考えれば、なんともステキに思えてくる。
関連記事:
中国の経済統計はごまかしだらけなのか?ちまたで噂の統計改ざんネタを考える
中国の局所的大失速を考える=エコノミストが李克強統計を特集
経済統計ごまかしは許さない!中国政府のIT改革が速攻骨抜きにされそうな件
中国の「不思議な統計」=失業率と就職率の読み方―翻訳者のつぶやき
GDPが40兆円も増えちゃいました!足し算が合わない不思議な統計―中国
お祝い金、付け届け、謎の金が300兆円?!来歴不明の「灰色収入」が富裕層を肥え太らせる