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世界的虚構ニュースとなった習近平タクシー事件とはなんだったのか?(水彩画)

2013年04月19日

■習近平のお忍びタクシー乗車が「誤報」だった件について■


20130419_写真_中国_習近平_

*騒動の発端となった大公報の紙面。

■習近平タクシー事件

2013年4月18日に中国ネット界を騒がせたのが「習近平タクシー事件」(関連記事:習近平の水戸黄門的パフォーマンス=タクシー事件と削除祭りの真相とは―中国)。日本メディアももちろん、各国のメディアが取り上げる騒ぎとなりました。

香港の親共紙・大公報の記事が発端です。両会直前の3月1日のこと、釣魚台国賓館まで客を乗せたんだが、それが習近平だった、サインももらった嬉しいと喜ぶタクシー運転手。という内容。その後中国国内メディアも争って転載し大変な騒ぎに。

新華社は昼すぐに、「北京市交通部門の確認が取れた。タクシーに乗ったのは事実である」と記事を出したのですが、夕方には一転して「虚偽の報道である」と報じるという急展開。その20分後には大公報も誤報を謝罪し、転載記事は徹底した削除攻勢にあって次々と消失しました。

記事の削除も驚くべき徹底ぶりでしたが、それだけではありません。微博でも習が運転手に送ったサイン、「一帆風順」(順風満帆の意)やタクシーや乗車を表す「打的」「打車」「習近平」「大公報」といった単語が軒並みNGワードに指定されています。なかったことにしたいのがヒシヒシと伝わってきますねえ。

習近平が打ち出した節約キャンペーンと、これまで続いていた「親しみやすい総書記」キャンペーンを大公報に提燈記事を書かせたら、意外に広まってしまったためガセ認定して大公報を悪者にして乗り切る腹積もりでしょうか。


■3月1日の習近平

新華社がガセ認定したからといって、我々が従う必要はありません。まずは当日のスケジュールでも調べてみましょう。

習近平がタクシーに乗ったとされる3月1日は、中央党校の創立80周年記念式典と春期開学式に出席しています(新華社)。新華社が報じた記事のタイムスタンプは17:47なので、この時間までに式典は終わっていると思われます。

タクシーに乗ったのは、運転手が乗車した際に出すレシートから午後7時過ぎ。中央党校は北京大学や清華大学など北京の大学の大多数が密集する海淀区にあります。そこから普段着に着替え、中南海にほど近い鼓楼大街に移動し、目的地の釣魚台国賓館までタクシーとなります。

イベント2本立ての後でそんな余裕があったのかといえば、それこそ習近平にしかわかりませんが、時間的にはつじつまがあいます。


■記事を書いたのは誰か

BBCによると、「誤報」を書いたのは王文韜と馬浩亮の2人。王は北京支社長ですが、以前は新華社北京ニュース情報センターの副主任を務めていました。親中香港紙・大公報は新華社と人事のやりとりがあることがわかります。また、馬は両会で国務院の人事予想を書きまくっていた大公報の副主筆。件の記事は大物二人によるかなり力の入ったものですから、そんな確度の低い話題をソースに記事にしてしまうのか、という疑問が残ります。

大公報が誤報であると発表した後、王文韜の書いた記事は大公報から削除されてしまったのか、検索をかけても出てきません。


■新華社の否定記事をもう一度よく読んでみる


上記リンクが18日夕方の新華社による否定記事です。最初に目にしてから、ずっと気になっていたのが、「経核実,此報道為虚假新聞」(事実を確認し、この報道は事実でないと分かった。)という言い回し。さて一体誰に確認したのでしょうか。まさか習近平に直接確認したのではないでしょうが、主語がないのでモヤモヤします。

この20分後に掲載された大公報の謝罪文も、「経核実」と同じ言い回しを使っていますが、新華社とは主語が違うはずです。いずれも主語がないので推測になりますが。


■関係者の処罰から事件の性格が推測できる

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*夕刊一面に持ってきてしまった一部地方紙

ネットの記事は後からでも消せますが、印刷して売ってしまった新聞は回収できません。というわけで、習近平タクシー事件を一面で報じた地方紙もありました。

今回の誤報が本当に誤報なのか、それとも誤報にさせられたかを確認する術として、大公報の関係者や昨日の夕刊一面で報じてしまった一部地方紙に対するお咎めの軽重がいいのではないでしょうか。

お偉いさんに関する誤報の前例として思い出されるのが、2011年7月の江沢民死亡。これを報じた香港ATVテレビ(亜州電視)では、誤報の責任を取って梁家栄副総裁が辞任をしています。ただ当時、新華社は一貫して江沢民死亡を否定していたのですが、今回は大公報の尻馬に乗って一度は追認報道をしています。いわば新華社にも責任があるわけで、大公報を処分するのであれば新華社の責任も問わなければ筋が通りません。

また余談となりますが、17日に新聞出版広電総局が「確認の取れていない境外(香港、マカオを含む海外)メディアの報道を引用、転載してはならない」との通達を出したばかり。それなのに大公報の「誤報」を中国メディアが転載しまくったわけですから、厳密に運用すれば国内の多くのメディアがを受けることになるでしょう(新華社 2013年4月17日)。


■習近平タクシー事件の真相

気になるのはこの騒ぎに一体どのような背景があるか、です。

おそらくは当初、大公報の転載にはゴーサインが出ていたのだと思います。習近平の素晴らしい行動を、今回は香港紙がまず伝え、それを中国メディアが転載することで盛り上げるという形式にする予定だったのでしょう。節約は習近平が総書記に就任してから続いているキャンペーンで、今回のタクシー事件もその一環だったはずです。

ではなぜ一転して「誤報」とされてしまったのか。反対勢力が横槍を入れたにしては乱暴です。またあまりに盛り上がりすぎて「一線を越えた」という判断が常務委員のコンセンサスとなってしまい、押し切られる形でデマ認定となったのか。

ただそう考えると、習は独断で今回のパフォーマンスを進め、そして批判されたということになります。それではしっくりこないというのが私の感想です。


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*本記事はブログ「中国という隣人」の2013年4月19日付記事を許可を得て転載したものです。

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