■伸び悩み、落ち込む成長国インドの自動車販売■
Nano / arulnathan
■2012年の世界自動車市場
世界の2012年の自動車(乗用車+商業車)生産を振り返ってみよう。OICAの統計によると、タイの+70%(248万台)、インドネシアの+27%(107万台)、アメリカの+19%(1033万台)、日本の+18%(994万台)と、世界経済の低迷にもかかわらず、自動車生産は好調だったかに見える。
ただし、タイや日本は特殊要因で伸びた面が大きい。両国の伸びを入れても、世界全体での伸び率は+5.3%(8414万台)である。欧州、南米にはマイナス成長の国も多い。東アジアでは韓国が-2.1%(456万台)、中国は+4.6%(1927万台)。そしてもっと伸びていいはずのインドは+5.5%(415万台)にとどまっている。
■伸び悩むインド市場
人口12億人を抱えるインド。その市場を狙って世界の自動車メーカーが進出、数年前までは二桁の高成長を記録していた。「マルチ・スズキ」(2011年112万台生産)筆頭に、ヒュンダイ62万台、タタ38万台、マヒンドラ・マヒンドラ20万台と各メーカーが争っている。
しかし現在、伸び悩みの局面を迎えている。インド経済自体の停滞、高い金利、燃料費高騰といった要因がその背景にある。
インドの自動車市場は、購買力の低さから、タタ自動車の超低価格車「ナノ」(15万ルピー、約26万円)に見られるように小型乗用車が中心だが、これが伸び悩んでいる。
2012年度(2012年4月~2013年3月)の乗用車の販売を見てみよう。直近の「SIAM」(インド自動車製造業協会)の統計によると、2012年度は190万台と、2011年度の203万台から、6.7%も下落した。3月だけを見ると、前年比マイナス23%の惨状である。
■国民車ナノの敗北
どれだけ値引きしても、ショーウインドウには売れ残った車が並んでいる。工場の設備過剰はいっそう拡大しているといわれる。
ナノを生産しているタタ・モーターのグジャラート工場(年産能力25万台)。2013年3月の生産台数はわずか1282台。稼働率はたったの6%という惨状だった。インドのコングロマリットでもあるタタ・グループが「バイクに乗るインド人に国民車を!」と2009年7月に発売したのが超低価格車のナノだ。あれから3年8ヶ月が経つが、累計販売台数は23万台弱にとどまっている。
価格は14万~20万ルピー(24万~34万円)とバイク保有層を対象にしたものだが、パワステもなく、使い心地は悪いようだ。バイク保有層は中途半端なナノに傾かず、むしろ自動車保有層が家族向けのセカンド・カーとして買っていると言う。
タタ自動車のセダン(インディゴなど)も昨年度は63%も販売が落ち込んだ。ユティリティー車(ゼノンなど)も大きく落ち込んでいる。2009年に買収したジャグアー、ランドローバーといった英国高級車の伸びで、利益の落ち込みをカバーしている。国民車ナノの戦略は大幅な見直しを迫られていると言えよう(
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■深刻な生産能力過剰インドの乗用車生産能力は現在490万台ほどだ。しかし実際の生産は200万台弱。稼働率は半分にも行っていないことになる。大変な生産過剰だ。
明るい兆しといえば、商業車にカテゴライズされる、ディーゼル燃費の安いSUV(スポーツ・ユティリティー車)だろうか。マヒンドラ・マヒンドラ社の売り上げ増に貢献している。しかし、最近の税率引き上げで勢いが削がれるかもしれない。