■あるのは「中国独自の不人気」 中国で人気になるアニメの傾向 オタ中国人の憂鬱アップデート■
■オタ中国人の憂鬱アップデート
仕事先やブログへの質問で「このアニメは中国で人気になるのか?」「このアニメ、もし中国にもっていったら人気になるのでは?」といった話をちょくちょく聞かれますが、中国での人気の出方に関しては日本からはイメージし難い所もありますよね。
そんな訳で今回は、中国で人気になる日本のアニメ作品の人気に関する傾向の変化について紹介させていただこうかと思います。
中国におけるアニメの人気の出方に関しては、「日本とはかなり違う」というイメージを持ってらっしゃる方もいらっしゃるかと思います。
確かに昔は中国で人気になる日本のアニメは、同時期の日本の感覚からはちょっと離れた、予想外のものになっていました。しかし、最近はそういった予想外の作品が人気になるということは珍しくなっていまして、言ってしまえば人気の傾向はどんどん日本に近くなってきています。
■以前は中国独自の人気が存在した
過去には例えば
「宇宙の騎士テッカマンブレード」「天空戦記シュラト」「魔神英雄伝ワタル」といった作品が中国でかなりの人気になったりしています。もちろんこれらの作品は日本でも放映当時はちょっとした人気ではあったかと思いますが、中国での人気は完全に日本以上のモノになっていました。
また、「北斗の拳」や「聖闘士星矢」などのメジャーな作品に関しても、入る時期や入った当時の競合作品の少なさから、日本とは異なるタイミングで人気になって中国本土を席巻していますし、特撮の場合は「恐竜戦隊コセイドン」が中国に最初に入った日本の特撮作品(ウルトラマンより前です)という事で、特撮ファンの間では殿堂入り的な扱いになっています。
昔は日本の作品が入るルートは、アニメの場合は主にテレビと海賊版でした。しかし中国においてアニメの海賊版が広まるのは90年代半ば頃にVCDが普及してからでしたし、いくら海賊版が日本の感覚からすれば安価だとは言っても、現地の感覚、それも子供や若者の感覚では安いものではありませんでした。
そのため、アニメに関してはテレビで放映されたか、放映されたのはどれくらいの規模かというのが大きく、それに加えて作品の面白さがどうだったのかという話になっていたそうです。
中国のテレビで放映されているのは、基本的に中国のテレビ局の基準で放映可能な内容で、中国のテレビ局が確保できた作品だけです。同時期の日本におけるアニメの人気競争に比べると、競争相手や比較対象が非常に少ないという状況になるわけですから、たまたま中国に入った日本のややマイナーな作品がその時代の中国の子供に人気が出て、思い出深いものになったりすることも珍しくありませんでした。
■海外アニメ輸入規制とネット動画の影響
しかし最近では中国の政策もあって中国のテレビでは日本のアニメを見ることがほとんどできなくなっていますし、アニメの視聴スタイルもネットを通じてのモノになっています。そしてネットによるデータの流入や、ファンサブ活動の拡大により、昔のような同時期の日本と比べて限られた作品だけが入ってくるのではなく、日本に近いタイミングと量で最新の作品や情報が入ってくるようになっています。
現在は限られたルートにより限られた作品しか入らなかった昔とは随分と違いますし、作品の人気の出方、現地の中国オタク層の作品の良し悪しについての判断も昔とは異なるようになっています。新作アニメの評価、視聴するかどうかの判断における基準や比較対象となるのは主に「過去の日本の名作アニメ」や「同時期に放映されるアニメ作品」になっていますし、感覚も日本に近いものになってきています。
特にアニメの新番組に関しては人気の高い作品が出ると、同時期のそれ以外の作品はわりを食って容赦なく沈んでいく傾向がどんどん強くなっていますね。
例えばこの4月から始まった新作アニメの中で、新シリーズでは「進撃の巨人」、続編では「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」「とある科学の超電磁砲」が非常に強く、他の作品は事前の想像以上に埋もれてしまっている感があります。これが1月スタートだったならばかち合う人気作も少なくもっと話題になったのでは……という作品も幾つかありますね。
■ただし中国独自の不人気が存在するこういった状況になってきているので、現在の中国における日本のアニメの人気の出方に関しては「日本でマイナー或いはそれほど人気が獲得できなかった作品が、中国でだけ突発的に大人気になるケースはほとんど無い」「中国独自の人気というのはほとんど無い」といった傾向が出ています。
これが漫画やラノベの場合ですとネットの影響がアニメに比べればまだ小さく、入るルートが限られていたり、作品の入るタイミングがまちまちだったりするので中国独自の人気的なものが形成されることもたまにあるのですが、アニメは作品と情報がネットで一気に広まることから、作品の人気が出る流れは既に日本にかなり近いものになってきていますね。
ただ、中国の人気の傾向として面白いのは
「日本で人気が出た作品が中国で人気になるとは限らない」「日本の人気作品が中国で必ず受け入れられるわけではない」というのがある所でしょうか。
ここ数年の人気作品の傾向を見ても「日本で人気の作品が、中国ではあまり人気にならない」「中国独自の不人気」といったことはちょくちょく起こっています。この理由には文化的なものや政治的なものまで様々な理由が考えられますが、比較的大きな理由が二つあります。
■大きなお友達的消費はダメ?子ども向けアニメの不人気一つは中国オタク層には「中国国産アニメが基本的に子供向けの作品しかないことに飽き飽きしている」「自分達が見るアニメは子供だましなものではない」「オタク文化とその重要なコンテンツは、子どもでは無く大人になった自分達が楽しむ価値のあるもの」といった考えがあることから「子供向け、低年齢が対象に入っているアニメを見たがらない」という考えが根強いということです。
中国オタク層は自分たちの見るアニメとは大人「の」見る価値があるものだと捉えているので、日本のオタク層のアニメは大人「も」見て楽しめるものだという考えとはちょっとした違いがあります。
そしてこういった思想からか、中国オタク内では作品が子供向け、低年齢が対象というだけで切り捨ててしまう傾向があります。
この影響については、SDガンダムシリーズの一つ「SD三国伝」が「意思を持ったキャラとして動くSDガンダム=子供向け」のイメージで受け取られてしまったことから中国本土ではほとんど話題にならなかったことや、プリキュアシリーズが長い間話題にならず、「ハートキャッチプリキュア」辺りで「作画がスゴイ」といったようなマニア的に評価できる作品という話が出るようになってようやく広い範囲で注目されるようになったなどの例があります。
■嫌儲的に嫌われたタイバニ、マニア向け作品も敬遠そしてもう一つが「マニア向け」「作品を理解する上で必要なオタク的な前提知識、オタク的な文脈の理解が多過ぎる」ような作品は敬遠され易いという点です。日本のマニア寄りな層を中心に人気の高い作品や、萌えや特定の属性などを極端に強調した作品などに関しては、中国オタクの大多数にとってハマるのが難しいことも少なくない模様です。コメントでご指摘いただきましたが、「お約束的な要素や展開の多い作品」なんかもそうですね。
例えば、魔法少女系の作品の流れの上にバトル要素を組み込んでいる「魔法少女リリカルなのは」は、日本での評価も伝わっているので知名度自体は高いですし「魔砲少女」といったネタ的な情報は入ってはいるのですが、作品そのものの人気となると日本の盛り上がりに比べてイマイチな状態です。
また最近では「TIGER & BUNNY」が非常にハッキリとした「中国独自の不人気」作品となっていました。中国オタクは「金儲け」的な色が露骨に出るのを嫌う傾向が強く、作中に広告が出るこの作品はネガティブな情報が先行してしまった点もマイナスとなりましたが、それ以上にこの作品において萌えたり燃えたりできる要素が、中国オタク的に難しかったそうです。
中国オタク的にはバディもの、ヒーロー系の作品はいまいち慣れていない所に加えて、分かり易く感情移入できるデザインのキャラがいないというのが厳しかったらしく、特に女性の中国オタク層には「分かり易い美形キャラが少ない、おっさん萌えは上級者向け過ぎ」だったそうで、当時日本で人気が盛り上がっていたのに、中国本土ではなかなか人気に火が付きませんでした。
一応、後に日本や台湾香港経由で入った情報により一部の層は作品を「再発見」して評価する動きも少しは出たのですが、その時にはもう番組は終わり、中国オタクの大多数は次の作品への話題に移っているという状態になっていました。
もちろん中国オタク内にもこういったマニア向けな作品に対してハマっている、面白さを評価している人はいるのですが、日本のような大きな動きにはなり難いという傾向があります。これに関しては「オタク」と言っても日本と比べると、ライトな層に比べてマニア層がまだ少数派というのもあるのでしょうね。
ただ、少々ややこしい話なのですが「独特な設定」「マイナーなジャンル」であっても、「ストーリーが分かり易く、面白い」「テーマに関して作中で自然な説明がある」ような作品の場合は問題無く楽しめるようで、人気になることも少なくありません。
例えば高校野球部活モノである「おおきく振りかぶって」や、かるた部を舞台にした「ちはやふる」といった作品は人気になっていますし、女性キャラのみによる魔法少女モノである「魔法少女まどか☆マギカ」も主にSFタイムループ系のストーリーや設定が評価され大人気になっています。とは言え、「テルマエ・ロマエ」のような風呂限定タイムスリップまでくるとさすがに無理なようですが……。
■結論:面白くないアニメは中国でも人気がでない現在の中国本土における日本のアニメの人気の出方についてはこんな所でしょうか。中国のアニメの人気に関して、「中国独自のものになるのでは?」という質問をいただくことも少なくありませんが、最近はネット経由で作品や情報がどんどん入るようになっているので基本的に日本で人気の作品は中国でも人気ですし、日本で不人気の作品は中国でも不人気という当たり前の結果になることが多いです。
作品の広まる規模や現地の反応に関しては中国独自の事情が影響したりすることもありますが、こと人気が出るかどうかに関して一番重要なのはやはりそのアニメが面白いかどうか、パワーがあるかどうかということになりますね。
ここしばらくの傾向を見ても、やはり日本でもライト寄りなファンを多く獲得できる作品、ジャンルを開拓し新規にファンを獲得できる作品が強いですね。
ですから私も「この作品が中国で人気になるか」といったことを考えるときにはまず、「面白いか」「日本で人気になる或いはなっているか」ということから考えて、その後に「中国で受け入れられるか」「ライトな層にも話題が広まるか」というのを考えます。
また結果の分析に関しても、「中国で受け入れられなかった要素はどこか」という観点から考えた方がイロイロと使えるものになりますね。
とりあえず、こんな所で。例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。
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