■中国を騒がす基準事件、安易な企業バッシングと“メディアの暴力”■
Water man / Micah Sittig
これほど中国関連のニュースがあふれている今でも、「中国の話題のニュース」が日本に紹介されないことがある。まあ、日本人が関心のないネタだと言ってしまえばそれまでだが、なんとなく悔しいのでざっくりとではあるが紹介しておきたい。
というわけで、京華時報対農夫山泉の「標準門」(基準事件)について。
■1カ月間の泥沼バトル
京華時報は新京報と並ぶ、北京市を代表する地方紙。4月初頭、同紙は飲料水メーカー・農夫山泉の「安全基準は水道水に劣る」との批判記事を掲載した。農夫山泉も複数の新聞に詳細な検査結果を表にした一面広告を掲載するなど前面抗戦。以来1カ月、両者の泥沼バトルは続いている。
6日、農夫山泉は記者会見を開き、名誉毀損で提訴、6000万元(約9億6000万円)の賠償を求めたことを明らかにした。記者会見には京華時報の記者も出席しており、農夫山泉の鍾睒睒董事長と舌戦を繰り広げる場面もあった。記者会見の動画がネットでアップされ複数のウェブメディアが実況するなど、バトルウォッチャーたちの盛り上がりも最高潮に達している。
■論点はただ一つ
京華時報はこの1カ月で紙面にして約70ページもの農夫山泉批判記事を掲載してきたというから尋常ではないのだが、バトルの中核となっているポイントはただ1点。
農夫山泉の包装には「浙江DB33/383基準を満たす」と表記しているが、これは地方政府が定めた基準であり、国家の飲料水基準「GB19298」と比べると、ヒ素やカドミウムなどの一部の基準はより緩いものとなっている。ゆえに農夫山泉の安全基準は国家基準以下、水道水よりも下である。
一方、農夫山泉側の回答も明快だ。「GB19298は国家が定めた強制的基準なので、すべての飲料水はこの基準を満たしている。当然、うちの製品もこの基準を満たしている」というもの。米第三者機関による検査結果を示し、規制対象の物質の含有量は基準値をはるかに下回っていると主張している。
京華時報側が独自の検査結果を発表したり、あるいは工場の衛生管理に問題があることなどをすっぱ抜いていれば話は別。しかし、基本的には「GB19298の基準も満たしているなら、なんでそれを包装に明記しないのだ」「浙江省以外の地域で販売している水にも、なぜ浙江省の基準に準拠していると書いているのだ」と、えんえんとどうでもいい話ばかりを展開している印象だ。
■基準事件とヒ素事件京華時報が大量の報道をしている割にファクトが少なすぎるとの印象。中国でも「ライバル企業の仕掛けた罠ではないか」「京華時報社は北京市でウォーターサーバー用の水を販売しているので、ライバル潰しをしているだけでは」と異例のバッシングを疑う人もいるほどだ。
とはいえ、今回の一件で農夫山泉の信頼は大きく傷つき、売り上げは急減しているとも伝えられる。6日の記者会見では北京工場の閉鎖も発表された。
ちなみに農夫山泉は2009年にも「ヒ素事件」に巻き込まれている。海南省海口市当局が農夫山泉などの飲料品から基準値を超えるヒ素が検出されたと発表された事件。後に検査のやり方に問題があったと市当局は謝罪している。この時にも農夫山泉の売り上げはガタ落ちだったという。
■「企業=悪」が生み出す世論の暴力なぜこれほどの小ネタで京華時報はえんえんと批判報道を繰り広げてきたのか。謀略説以外で考えるとするならば、それは農夫山泉が謝罪しなかったからではないか。日本も人のことは言えないかもしれないが、中国では「企業=悪」という前提に立った、安易な批判報道が絶えない。
反論してもメディアの発信力には勝てない。筋の通っていない批判でも謝ったほうが徳だ。もし反論すれば、えんえんとバトルが続くことになり、意固地になったメディア側が次々と批判記事を繰り出してくれる。その典型例ともいえるのが今春のアップル。素直に謝罪したなかったばかりに天下の人民日報から「横暴だ」と罵られ、CCTVのテレビ番組で「アップルのリンゴが欠けているのは良心が欠けているから」とまで批判された。
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農夫山泉の鍾睒睒董事長は記者会見で次のように話している。
京華時報の今やっているように、大量の紙面を使い、批判されているものをメディアの意志、メディアの意見に屈服させる。それは本質的には世論の暴力である。こうしたムードの下では活力ある、クリエイティブな市民企業が育つことはないだろう。
また無理筋の批判報道を大量に流している裏側には、本当に批判するべきことが軽視されている状況もある。今回の基準事件が中国のメディア環境を改善するきっかけになるのならば、このつまらないバカ騒ぎにも意義があったということになるだろう。
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