■『不平等について』■
発展が不平等であることを正面から論じているものは少ないことに気がつきました。今日紹介したいのは以下の本です。
不平等について―― 経済学と統計が語る26の話
本書は、格差から正面向かって取組みます。
格差は効率と正義の観点から注目されることが多いです。格差が正当化されるのは効率という点でしょう。経済発展から考えると、富裕層の貯蓄が投資に向かうことはいいことですし、あの人のように豊かになりたいというのは発展のインセンティブにもなります。
しかし、格差は正義に反することにもなります。富裕層の地位が維持されること、不平等が再生産されることは正義という観点からも問題ですし、効率からも貧困層にいる潜在的人的資本が活用できないという点で看過することはできません。
本書によれば、格差について理論化に取り組んだのは二人しかいないとします。一人はパレート、もう一人はクズネッツです。
クズネッツは経済発展とともに格差は拡大し、その後縮小すると主張します。
一方でパレートは格差は存在し固定化しているものとみます。2:8の法則で有名なように2割の富裕層が8割の所得を持っていることに着目しています。そしてその富裕層に着目してもその中で2割が本当の富裕層です。そしてその本当の富裕層の2割が本当で本当の富裕層になります(本文ではこの言い方はしていませんが)。顕微鏡で拡大するように格差をみていくとやはり格差が存在するということになります(複雑系でいうフラクタル性)。
グローバル化も格差に影響を与えました。グローバル化では、投資が先進国から後進国へ流れ、成熟技術は後進国に移転し、進んだ制度は模倣されることが期待されました。現実には、資本は先進国に集まり(ルーカス・パラドックス)、技術はライセンスで保護され、資本と労働は先進国に集積する結果になっています。
ちなみに共産主義化は格差を縮小させるそうです。一般に共産主義はジニ係数を6-7ポイント引き下げます。しかし共産主義化の教訓は、経済が均一化し衰退するということです。
格差の問題に取り組もうとする人には最初の1冊としてオススメです。
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*本記事はブログ「岡本信広の教育研究ブログ」の2013年5月9日付記事を、許可を得て転載したものです。