中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
自分用メモも兼ねて、ツイッターで書いた事まとめ。日本メディアではあまり触れていない細かい部分もいくつか。
台湾の外交部によりますと、日本時間の9日午前11時ごろ、台湾とフィリピンの間の海域で操業していた台湾漁船がフィリピン政府の船から銃撃を受け、乗組員の65歳の男性1人が死亡しました。
漁船が銃撃されたのは、台湾南部の屏東県の南東およそ300キロの地点で、台湾とフィリピンのそれぞれが主張する排他的経済水域が重なり合う海域だということです。
台湾漁船 比船に銃撃され1人死亡(5/9|NHK)
台湾漁船は、台湾本島の西南にある島"琉球嶼"の漁船「廣大興28號」。 船員は4人。台湾人(死亡した洪石成(65才)、息子(船長)と娘婿)の3人と、インドネシア国籍の漁師1人。家族経営の小さな漁船。
銃撃事件は、9日午前10時に起こった。
場所は、台湾本島最南端の鵝鑾鼻(がらんび)岬の東南東170カイリ。北緯20度・東経123度あたり。 台湾とフィリピン双方が主張するEEZが重なっており、もっともフィリピン側に近い海域。 県政府が定める第1鮪(180kg超のクロマグロ)が獲れる海域だが、境界線に近く危険も大きい。
菲軍艦槍擊屏東籍漁船 1死(中央社)
快訊/殘忍!屏東65歲漁民疑遭菲律賓軍艦以機關槍射殺(ETtoday)
台湾渔船遭菲公务船射击(凤凰网・特設ページ)
*台湾・聯合報。
過去に例がない銃撃事件という報道もあるが、7年前の2006年1月15日に、フィリピン公船による銃撃で死者が出ている。(参照:tw)
7年前、台東新港籍の漁船「満春億号(滿春億號)」が、サバタン島沖でフィリピン水上警察の船から銃撃され、1人が死亡、1人が重症を負った。 この時、フィリピン当局から正式な謝罪や賠償などは無かった。 台灣の検察当局が両国外交部の協力の下で調査を行い、2人の水上警察官を殺人で起訴するも検挙には至っていない(時効は2044年)。
七年前漁船喋血 通緝菲警不了了之 | 菲艦掃射我漁船(聯合新聞)
フィリピン沿岸警備隊(PCG)のR.A.R. Isorena指揮官によると、銃撃をしたのはフィリピン漁業・水産資源局 (BFAR) のパトロール船「MCS3001」。30m級の武装艇で、乗船していたのはBFAR人員2人とPCG人員11人。
Shooting at sea: PCG kills Taiwanese(The Philippine Star)
バリンタン(Balintang)島周辺で、「MCS3001」の違法操業パトロール中に2隻の漁船を発見。 うち1隻を追跡したところ、体当たりをするような動きをして1mまで接近してきたので、警告射撃を行ったうえで停船させようとエンジンに発砲したと報告している。
(*)フィリピン漁業・水産資源局、Bureau of Fisheries and Aquatic Resources (BFAR)
フィリピン政府は、発砲は正当な対応だったと主張した。(参照)
一方、「廣大興28號」の船長、洪育智(死亡した男性の息子)は、海域から去ろうと準備をしていたところに、警告無く銃撃を受けたと証言をしている。 最初の銃撃でガソリンタンクや計器などが全壊し、父親は背中を撃たれた。さらにフィリピン船が近づいてきたので残った動力で逃げたが、その間に3度の銃撃を受けたと言っている。(参照:tw)
台灣当局の捜査により、「廣大興28號」の船体には50を越える弾痕が確認された。
弾のサイズは7.62mm。M14自動小銃、M240やM60機関銃に使われるが、フィリピン沿岸警備隊はM14やM16を使用しているので、 M14の可能性が高いようだ。(参照:tw)
M14の装弾数は20発なので、複数人が撃ったのではないだろうか。
*台湾NOWNEWS。銃撃された漁船。
台湾の馬英九総統、外交部はフィリピン政府に対して、「正式な謝罪」「損害賠償」「速やかに調査し関係者の処罰」「台湾・フィリピン間の漁業協議を速やかに開始する」ことの4項目を求めた。 12日午前0時(台湾時間)から72時間以内に回答がない場合は、フィリピンからの労働申請を凍結するなどの制裁措置をとると通告している。(参照)(参照:tw)
期限は14日までだが、折しもフィリピンでは中間選挙の真っ最中。13日が投票日。(参照) 選挙は、アキノ政権に対する事実上の信任投票で、政権の支持は高いそうだ。
投票時間内での回答は難しいのではないだろうか。
台湾の沿岸警備隊、海岸巡防署(以下、台湾海巡)は、2000㌧級巡視船「台南艦」を追加派遣した。「CG-126 台南艦」は、2010年に配備された新造艦。 排水量2,482㌧、最高速度24ノット。40mm機関砲1、20mm機関砲1、M50重機関銃2、高圧放水銃4。ヘリ1機を搭載する。
現在は800㌧級巡視船「福星艦」、800㌧級巡護船「巡護一号」とともに、3隻体制で南方海域での漁民の活動と安全を守る。(参照:tw)
また台湾海軍も、3600㌧級フリゲート「康定艦」を追加派遣した(参照)。台湾海巡の王進陽(王進旺)署長は、立法院内政委員会で、現場の状況を考慮した上で、漁民の安全を守るために必要な手段をとると述べた。発砲の可能性は否定しなかった。
護漁是否「開火」? 王進旺:會採取必要手段(今日新聞網)
フィリピン沿岸警備隊や海軍の対応についての報道は、中間選挙期間中ということもあってか見かけない。
台湾とフィリピンでは、市民?が相手国の当局サイトをサイバー攻撃した模様(参照)。10日の夜、台湾側から攻撃があり、フィリピン大統領府やフィリピン沿岸警備隊など当局サイトがサービス停止。
翌日午前には、台湾の総統府や財務部、海巡署などのサーバーが攻撃された。また証券取引所にも侵入を試みた痕跡が残っており、それらの攻撃元のIPアドレスはフィリピン国内のものだった。(参照:hk)
今後の状況変化によっては第二次攻撃が起こるかもしれないと、厳戒態勢を続けている。
フィリピンは中国との間で、領有権争いの続くスプラトリー諸島(南沙諸島)での緊張が続いている。中国漁船団の操業や、中国海監や漁政の監視船との睨み合い、中国海軍軍艦の示威行為。フィリピンも、違法操業の中国漁民を取り締まるなど、特に昨年から緊張が高まっている。