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中国で広がる日本アニメの正規版ネット配信=テレビはダメなのにネットはOKの理由とは?(百元)

2013年05月14日

■なぜ中国のテレビで日本のアニメはダメなのにネット配信は大丈夫なのか オタ中国人の憂鬱アップデート■
 

オタ中国人の憂鬱 怒れる中国人を脱力させる日本の萌え力
■オタ中国人の憂鬱アップデート
2年ほど前にブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」のまとめ本「オタ中国人の憂鬱 怒れる中国人を脱力させる日本の萌え力 オタ中国人の憂鬱」を出させていただきましたが、この2年で中国オタク事情も大きく変わり、書籍の内容も一昔前の話になってしまっています。また、いつもの中国オタクの反応という形では紹介するのが難しい話というのもたまってきていますので、「オタ中国人の憂鬱」のアップデートになるような話を書いていこうかと思います。

第5回となる今回は「なぜ中国のテレビは規制が厳しく日本アニメは放送できないのに、ネット配信は許されているのか」について。

<オタ中国人の憂鬱アップデート>
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■中国で広がる日本アニメの正規配信

中国のテレビや映画はかなり厳格なコントロールが行われており、外国の作品を輸入する際にも輸入の手続きの中に内容の審査検閲などがあるというのをご存知の方も多いかと思います。

また、国内コンテンツの保護政策などから、中国のテレビでは現在日本のアニメを放映するのが難しくなっています。キッズチャンネルなんかは特にそうですね。一応、映画チャンネルの場合は放映が全く無いわけではないといった状態のようですが……

しかし、現在中国のネットでは版権を取得しての日本との同時(或いはほぼ同時)配信や独占配信が行われています。最近は中国のネット動画サイトでは日本のアニメの版権を獲得して正規配信を行うケースが増えており、この4月などは「進撃の巨人」「とある科学の超電磁砲」「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」といった人気作を含む十数作品が配信されています。

その辺りの事情に関して仕事先でもブログでも質問をいただきますので、今回はそれについてまとめて見ようかと思います。


■縦割り行政のスキマ・ゾーンとなったネット配信

さて、「なぜテレビはダメでネット配信は大丈夫なのか」ということについてですが、これは言ってしまえば、「ネットに関してはまだ中国の各政府機関の管轄が錯綜している」ことにより「ネットの動画配信がグレーゾーンになっている」からです。

中国ではインターネットという新しいメディアに関してはまだ管理管轄が明確になっていない所もあり、各政府機関の管轄分野も錯綜しています。

ラジオやテレビ、映画に関しては旧国家広播電影電視総局、通称「広電総局」(日本語ではラテ総局などと呼ばれることもあります)がきっちりと管理管轄しているのですが、インターネット及びネット動画に関しては管轄外な部分もあることから、テレビや映画のようにコントロールしているわけではありません。

ここしばらくの状況におけるネット動画サイトに関しての広電総局の管轄は、「動画サイトの運営許可証の許可」までであり、許可証を取得したサイトの細かい運営内容や個々の動画までは管理できません。個々の内容についての管轄を持つとされる工信部(中華人民共和国工業と情報化部)は様々な理由から内容のチェックに消極的です。

そういったこともあり、ネットの動画サイトにある動画コンテンツの規制に関する細かい所に関しては許可証を取得したサイトの自主規制に任されている状態のようです。


■しばらくは続きそうなグレーゾーン

ですから現状では政治的にまずかったり、社会的に問題になっちゃったりするなどの大事にでもならない限りはそれほどうるさくやられるわけではないのだとか。(もちろん動画サイト側も中国特有の事情は十分にわきまえていて、政治的にマズイ動画や明らかなポルノなどはバンバン削除しています)

中国の動画サイトにおける動画コンテンツの扱いがこのような状況にあることから、厳密に考えればマズイ所も出てきそうではありますが、とりあえずは日本のアニメが中国の各種手続きをすっ飛ばして、中国国内において日本と同時(或いはほぼ同時)の配信を行うことが可能となっています。

ちなみに、広電総局は先日の「両会」で出版関係を管理している国家新聞出版総署(版権関係を管理しているとされる国家版権局もここに所属しています)と合併し「国家新聞出版広電総局」となり、ラジオやテレビ、映画と、出版メディアを一括して管理できるようになりました。

しかし合併前の各機関の管轄状態から判断する限り、出版やラジオ、テレビ、映画といったメディアに関しては強い力を持ってはいますが、ネット上のコンテンツに対しては、依然としてそこまで強い力を発揮できないのではないかと思われます。

もちろん、動画サイト全体に方針としての圧力をかけることはできますし、中国の感覚で政治的、社会的にまずいと判断されるような状況になれば一定のコントロールは行われます。ただ、個別の作品を全てチェックして……というのは現実的ではない上に管轄の関係もあるので、現状ではグレーなままにされているようです。


■グレーゾーンの弊害=違法動画対策の難しさ

中国の動画サイトで日本のアニメが日本との同時配信を行えるのは、以上のような背景があるからです。しかしこの「グレーゾーン的なものである」ということは、ある程度簡単に配信ができるのと同時に「中国の動画サイトにおいては正規ルートでの違法動画対策が難しい」という状態も引き起こしています。

中国のネットにおける動画関係のサービス関してはここしばらくの間でもかなりの変化があり、youtube型のユーザーのアップするコンテンツがメインとなっているサイトや、hulu的な動画配信サイト、クライアントソフトを使ったP2P或いはP2SP系の動画配信などが混在しています。また、愛奇芸(iqiyi)などのように基本的に「版権を取得したコンテンツのみを配信する」としているサイトも存在します。

こういった動画サイトの中には日本のアニメの違法動画が流れている所があるわけですが、これに関しての対策、個々の作品の違法動画への対処が現状ではかなり難しくなっています。

本の出版や以前のテレビアニメのように正規の審査検閲及び輸入の手続きを経て入った作品、そしてそれによる正規出版か正規放送、正規上映であれば、広電総局或いは上述の版権局の大儀名分でそれなりの侵害対策を行えるのですが、 ネット配信のような政府機関の目につかないようにやっているケースに対してはそういったルートによる手段がとれず、実質的に裁判以外公的な対抗手段は無いということになります。

しかし中国現地での裁判となると、発生する様々なコストや、現地で権利関係の証明をすることの難しさ、更に根本的な問題として裁判に勝てるのか、例え勝ったとしても日本側の満足する結果になるのかということがあります。

時間がかかり過ぎるとアニメ配信の旬の時期は過ぎてしまいますし、これまでの判例を見ても裁判は長期化し易い上に賠償金も少なく、違法動画配信側には大したペナルティにはなっていないようです。このようなことから、体力の無い日本の版権ホルダーにとっては裁判も現実的な手段とはなり難いそうです。

こういった背景が存在するので、現状では中国のネットの違法動画に関しては、テレビや映画、ラジオ、出版関係とは違い、日本でよくイメージされるような中国政府関係ルートによる強力なコントロールを期待するのは難しい状況ですし、裁判を通じてというのもコスト的に難しいということで、正攻法での対処は「ロジック的には可能、コスト度外視でやればできなくもない、しかしあまり現実的ではない」ということになってしまっています。


■中国国内のパートナーの取り締まりを任せる

では、「違法動画対策」として効率の良いものは何があるかと言いますと、「独占配信の権利を現地動画サイトに売り、現地動画サイトに非正規動画対策を任せる」というのが最近では比較的効率の高いものとなっているようです。

もちろん現地の動画サイトが日本のコンテンツホルダーの要求全てに対応してくれるわけではありませんし、現地サイドの目論見というのもありますから日本国内のような管理は望めませんが、独占配信と言うのが現地動画サイト自身の利益に直結していることもあり、一定の効果は確実に出ているようです。

現に独占配信権獲得の動きが大きくなってからは非正規動画が削除される、新番組の動画がアップされなくなるといった動きが出ています。また、行きつけのサイトで非正規コンテンツの視聴ができなくなることにより、中国オタク内でもこれまでのオタクコンテンツの視聴スタイルを変えざるを得ない、といった状況に追い込まれており、「これからどうなるのか」といった不安の声や今後の予想と対策に関するやり取りが行われているなど、様々な影響が出ている模様です。

ちなみに、こういった現地動画サイトによる非正規動画に関する削除要請が効果をあげているのは、中国の動画サイト間での淘汰が進み生き残っている動画サイトが少なくなっているのも影響しているそうです。

現在は中国のネット関連の景気も悪くなり、ネット広告によるビジネスモデルも上手くいかなくなっていますし、どの動画サイトも採算的に厳しくなっています。また数が減ったことにより話し合いもやり易くなっているので、現状では互いの本格的な衝突を避けるために、お互いの面子を尊重して作品の削除に応じるといった流れが多くなっているそうで、結果的に非正規動画への対応に関しては政府機関を通すよりもスムーズに話が進むようになっている模様です。

もちろんこれもリスク無しとはいかず、グレーゾーンであり不安定な中国の動画サイト事情や、現地との交渉の問題などがあります。また現状では現地動画サイトにとって版権の獲得及び独占が競合する他サイトへプレッシャーをかける攻撃材料になっていることにより、コンテンツがネガティブなイメージに巻き込まれる可能性もありますし、版権売買のゴタゴタ、更には版権の所在や解釈による混乱なども起こってはいます。

しかし、現状では仮に現地動画サイトに抗議や削除要請を行ったとしても、現地の動画サイトにとっては対応しないことによるリスクがほぼ無く現地の動画サイトが無視を決め込んでしまえばそれまでになってしまいますし、日本のコンテンツホルダーが中国現地で公的な手段を通じて違法動画対策を行うのは様々な面から難しいといったことを考えれば、比較的確実な効果が出ている方法の一つであるのは確かです。

それに版権を売るということでコンテンツホルダー側にも利益が入りますから、この「独占配信の権利を現地動画サイトに売り、現地動画サイトに非正規動画対策を任せる」というのは目下の所では比較的クレーバーなやり方になっているのかもしれませんね。

とりあえず、こんな所で。例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。

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*本記事はブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」の2013年5月1日付記事を、許可を得て転載したものです。

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