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タイの労働者、3分の2は非正規=導入決まった新社会保険制度も政権交代で頓挫(ucci-h)

2013年05月14日

■日本もタイも……セーフティ・ネットで保護されない‘非正規労働者’の実態■

Thailand Tuk Tuk
Thailand Tuk Tuk / JasonDGreat

■タイの非正規労働者

日本のパート、アルバイト、契約社員などの非正規労働者の数は、ざっと1800万人近く。全被用者5100万人の3人に一人となっている。男性の20%、女性の55%が非正規雇用である。過去20年上昇の一途で来た。

30代前半の男性では、正規従業員の60%は結婚しているが、非正規従業員だと半分の30%しか結婚していない。少子化にも影響している。また、非正規労働者は、厚生年金など社会保険制度のセイフティ・ネットでカバーされていないケースが多い。

ではタイの非正規労働者をめぐる状況はどうなっているのだろうか。タイにおいては、労働力人口3930万人のうち、正規従業員は1470万人。全体の3分の2にあたる2460万人が非正規従業員である。タイの経済は、非正規労働者で支えられていると言ってもいい。

タイの非正規労働者は、3種類に大別できる。タイ人は企業に属するよりも、自ら商売、事業をする独立精神に富んでいることも、非正規労働者の多い理由と言える。

1.出稼ぎ、家内労働者(季節で変わるが、750万人ほど)
農家から作業所へ出稼ぎに行ったり、注文を受けて家で物を作ったりする人たちだ。

2.サービス産業での雇われ及び自営労働者(1050万人ほど)
タイには多く見られるが、食堂のウエイトレスや屋台、行商人、ごみ収集、またマッサージ師やタクシー運転手など、サービス業に多い。

3.農業従事者(ほぼ650万人)
ちなみにタイの農業労働者数全体は、1510万人である。


■セーフティーネットにカバーされない非正規労働者

そして、非正規労働者は、社会保険のセーフティ・ネットからほとんどカバーされていない。正規従業員については、公務員の460万人ほど、民間企業の正規従業員が960万人ほど、それぞれの年金に加入しているが、非正規労働者はカバーされていない。また、今般大幅に上がった最低賃金の対象からも外れていることが多い。

形式上は、非正規労働者も、社会保障基金(SSF、1990年発足)に加入できることになっているが、正規従業員に比べて割に合わないため、加入者は59万人(非農業非正規労働者数950万人をベースにした加入率は6.%)と微小にとどまっている。

老齢年金までもらうためには、月100バーツを拠出し、国から50バーツの拠出を受けられるが、年金受給額は月500バーツとお小遣いほどにしかならない。


■国民貯蓄基金をインラック政権が阻止

この労働者の3分の2を占める非正規労働者をいかに社会保障制度、年金制度の傘に入れるかがタイの課題になっている。実は、前民主党政権時代の2011年に、「NSF」(国民貯蓄基金)が2012年5月よりスタートすることが決められた。

他の年金制度に入っていない2460万人の自営業者、農民、非正規従業員をカバーすることがねらいだった。国からの拠出も伴うなど悪い条件ではなかった。

しかし、政権が変わったため、棚上げとなっている(タイらしいといえばタイらしいが)。非正規労働者たちは、法定化されたものが実施されないと、行政裁判所へ訴える意向のようだ。
(関連記事:やはり棚上げされたタイの全国民向け年金制度

現タイ貢献党政権の言い分は、非正規労働者も社会保障基金でカバーされているのだから、NSFを新たに作る必要はないというものだ。NSFの構想でも、非正規労働退職者は月に1100バーツ(3300円)受給と、貧困ラインの1600バーツ収入を下回るわけだから、制度の充実は必要なはずである。

2013年3月末の議会でも、社会保障法の改定が議論されたが、非正規労働者に対するベネフィットの拡大は出てこなかった。タイの非正規労働者が年金で老後を保障されるようになるのはいつの日のことだろうか?


■年金運営、高すぎる経費

同時に、社会保障局の独立化、内部監査の導入などは、政府により拒否された。社会保障局の経費は、年間、基金の7~8%にものぼる(アメリカは0.8~0.9%)。社会保障基金は、十分積み立てられなかったり、他の経費に回されたり、流用されることが問題になっている。

他の用途の資金源になりやすい。これも今のところそのままのようだ。

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*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2013年5月10 日付記事を、許可を得て転載したものです。

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