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2013年05月23日
*アップルデイリーの報道。
■台湾における反フィリピン世論の“盛り上がり”
5月9日に起きた、台湾漁船へのフィリピン公船による銃撃事件(1人死亡)の後、台湾ではフィリピン政府の対応への反感が高まり、正式な謝罪と賠償を求めるデモが起こっていた。同時に、台湾在住のフィリピン人に対する風当たりも強くなっていたそうだ。
台湾メディアの記事の捏造や、ネット上の書き込みにデマがあったことが明らかになったので、これ以上誤解が広まらないことを願って、これについて少し。
5月15日に、フィリピン大統領府から"個人的な"謝罪と慰謝料の提示があったが、台湾総督府は満足できるものではないとして11項目の制裁を実施。翌16日には台湾とフィリピンの間の公海上で、海岸巡防署、海軍と空軍が合同訓練を行った。
この時期に、台湾国内の反フィリピン報道や書き込みは最も盛り上がっていた。(「燃え上がる」ではなく「盛り上がる」が適切だと思う)
Facebookで投稿された、フィリピン人労働者が弁当を買おうとしたところ、店主が「犬に弁当なんか売るものか!」と売るのを拒否し、投稿者が弁当を買ってそのフィリピン人に詫びて渡したという体験談が話題となり、外国メディアも取り上げていた。
拡大するフィリピン憎悪の感情、市民に冷静な対応呼びかける―台湾(5/17|レコードチャイナ)
いわゆる「弁当事件」、または「神の弁当(神之便當)事件」。
5月21日、この投稿者の女性(36才)が、台北市警察による事情聴取の後で記者団に対して、投稿した文章は「聞いた話でした(聽說的)」と、事実ではなかった事を謝罪した。 「台湾とフィリピンの問題を強調したかった」「フィリピン人は嫌いではない」、そして「まさかこれほど大きな騒ぎになるとは思っていなかった」と話している。
拒賣菲勞便當文 攏是假(5/22|自由電子報)
日本語ニュースでは報じられていないようだが、当初から投稿内容の信憑性に疑問が持たれていた。
「弁当を買うときに国籍を確かめるのか?」とか、日本のマンガ『太陽の黙示録』(かわぐちかいじ作)の、台湾の日本人避難民が屋台で食べ物を売って貰えないシーンの文章と似ているとか(注:『太陽の黙示録』第2巻 "Chapter10")、疑問を感じる人もいて、翌日には人肉検索され投稿者が特定されていた。
真?假?菲勞買不到便當?(5/17|聯合新聞網)
菲殺台民/不賣給菲勞? 貼文者「找」便當店致歉(5/22|PChome)
投稿した女性(36)は、社会秩序維持保護法に違反したとして3万台湾ドルの罰金が科せられる。
他にも「弁当事件」に似た流言があり、フィリピン人を「狗(犬)」と呼ぶなど侮蔑した表現を使うという類似点があるそうだ。 警察は、ネット上の真偽不明の流言について引き続き調査を行っていく。
(追記:2013/05/23)
さらに男性1人が検挙された。この女性(36)の投稿を読んで、別の話を作って書き込んだと話している。(参照:tw)
(追記ここまで)
■台湾メディアが弁当問題で捏造報道、記者が懲戒解雇に
また、台湾紙の「台灣立報」と「四方報」が報じた、別の弁当屋もフィリピン人労働者への販売を拒否したという記事も「捏造」と判明した。
四方報の総編集長は、疑惑の声に対して、鄭記者が書いた記事の裏付けを取るため、その弁当屋に行って店主に直に話を聞いたので信憑性があると言っていた。 しかし5月21日、鄭記者が実体験ではなく「伝聞」であり、「貼り紙」も捏造、さらに知人に頼んで弁当店店主に扮してもらって騙していた事を打ち明けたと、記事内容が全て「捏造」だったことを謝罪した。 鄭記者は懲戒解雇。四方報の総編集長は、翌22日に引責辞任した。 「台灣立報」と「四方報」の2紙は同じ系列紙で、情報源は同じだそうだ。
菲嚐真相!立報:記者找人假扮便當店老闆,記者即日解職(5/21|今日新聞網)
神之便當事件 四方報總編:我被騙了。是我的錯。對不起(5/22|今日新聞網)
假便當文 四方報總編道歉辭職(5/22|中央社)
鄭記者と協力した男性の2人も、社会秩序維持保護法違反で処罰される。
■「フィリピン留学中の台湾人留学生が身を守るために日本人のふりを……」もデマ
フィリピンに留学している台湾人学生が、身を守るため外出をする際にはわざわざ日本語を話し、「日本人のふり」をして身を守っている、という報道があった。(参照)(参照:tw) この留学生を守るため、在フィリピンの台湾人団体が連絡をとったところ、この報道も事実ではないことが分かったという。(参照)(参照:tw)
台湾在住のフィリピン人労働者やフィリピン人移民に対する殴打事件が各地で起こったという報道がある(参照)。
少なくとも、フィリピン紙も報じた、高雄市で起きたフィリピン人漁師1人への複数の若者による殴打事件(参照:ph)では、逮捕された少年4人は取り調べで、そもそも彼がフィリピン国籍だとは知らなかったと話している。(参照:tw)
台湾での反フィリピンデモの様子や緊張感を高めるような話が、日本でも報道されている。 こうデマや間違いが多いと、何を信じていいのか分からなくなってくる。
注意が必要だと思うのは、ネット上で"日本語で"引用され拡散している多くの記事が、中国(大陸)メディアの記事を、中国ニュースサイトが日本語に翻訳したものだということだ。(台湾メディアの日本語版もあるにはあるが記事数が少ない)
今回は幸いにも、それらの中国記事は、台湾の中央社の記事を引用したものであり、元の中央社の記事(3編)を探して照合してみたところ内容をねじ曲げるような編集はされていなかった。
ただでさえ微妙な関係にある中国と台湾のこと、いくら日本語で書かれていて扱いやすいからといって、中国メディアが報じる台湾の記事を鵜呑みにしないくらいの慎重さは必要だろう。 台湾の粗暴なイメージや悪印象を世界に持たせるために、何らかの報道操作が行われる可能性くらいは頭の隅に置いておいても損はない。
あと、台湾は親日だからと、無批判で丸呑みするのも良くないと思う。
正直なところ、台湾国内での反フィリピン感情の嵐を見て関連報道をいろいろと読んでて、暴力的な行動は支持しないけど、気持ちは分からなくはない・・・分からなくはないんだけどさ・・・、けっこう引いてたわー。
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*本記事はブログ「メモノメモ」の2013年5月22日付記事を許可を得て転載したものです。
うわさ話大好きというかなんというか